VS暗殺者3 / 悪霊の絡女蜘蛛

「え」

レインのものとは違う、紫色の細くて病的な汚い脚。

背中から私の心臓を貫いていた。


赤紫の血。


男は死んだはず。それに蜘蛛人ではなかった。

振り返ろうとした頭が、がしりと両手で掴まれる。


回り込んだ女の顔。

柳幽霊のような、白くて化粧の激しい、あからさまな悪霊のそれだった。


「あなたが悪いのよ。レインの心はわたしだけのものなのに」


背後から、蜘蛛人の霊に全身で乗りかかられていた。

耐えきれず倒れ込む。背中から次々と脚での突きを受けて、心臓をぐしゃぐしゃにされる。


「仲良くするから! 気持ち良いことを言うから! 一緒に助け合うからいけないのよ! 私のレインなのに! 私の!」


この呪いの亡霊が何を言っているのかわからない。


細い足に枯れ柳のような穴だらけの身体。

レインが私を助けようとしてくれる。が、上手くいかない。


「やめて! あなたは誰? 『絡女蜘蛛』!? どうして、教会の魔術具が効かないなんて」


からめぐも。

聞いたことがない言葉だ。悪霊か何かの名前?

吹けば飛びそうな怪物なのに、レインの怪力も魔術具も意に介さない。

それにレインは先程全力で戦ったばかりで、しかも脚の痛みがまだあるから全力を出せていない。


でも私も死んでいない。まだ。


人間でないから、心臓を潰されても死なないらしい。

でも頭を潰されるとわからないな。

絡女蜘蛛とやらが、私が生きていることに気づけば次は危ない。


何か手は、と考えて、先ほどととは状況が違うことに気づく。

男の死体。その手から零れた直刀を握る。


ぬるりとした感触。レインの体液だ。

もしかすると、これなら。


心臓が潰されていて、視界も朦朧。ろくに狙いをつけられる状態ではなかった。

絡女蜘蛛に向かって、やみくもに直刀で突く。


汚い悲鳴。


絡女蜘蛛が、潰れた虫のように鳴いて私の上から退く。

切られた脚が4本転がる。

私はなんとか立ち上がるが、心臓が潰れているので、それ以上の力が出せない。


「あ、が」


声も出ない。

(肺は大丈夫だろうが。しっかりしろ、私。)

下手くそ蜘蛛女が心臓を外したせいで、肺はせいぜい8箇所くらい穴が空いているだけだ。


私の手に、添えられる手。そして脚。

レインの手と脚だった。

私達は一瞬目線を合わせてから、無言のまま、二人で握った直刀を絡女蜘蛛の胸に突き立てた。

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