ジャングル・クルーズ / VS魚雷艦
同好の造船技師ミッキと出会う1
「鉄の箱を水に浮かそうなんて、変なことを考えるのね。でも、魔法を使えば簡単でしょう」
エーリカ様、あちこち飛び回っているようなのだが、わりとちょくちょくイリス伯邸に顔を出す。その度に贈り物をもらったりこの世界について教えてもらったり、心臓に悪いことをされたりする。
ちなみにエーリカ様の魔法なら、鉄板を水に浮かせるどころか宙に浮かせられる。実際に今して見せてくれている。
次の瞬間、すごい良い音と共に、壁に鉄板が突き刺さった。エーリカ様の表情からは気負いも殺意も感じられない。
さすが、この国で王を凌ぐ権力とさえ言われる陸軍御三家の公爵令嬢。他人の家の壁、顔のすぐ横に穴を開けておいて謝る素振りもないが、エーリカ様はそれが許される立場のお方だ。
「魔法を使わずに浮かせたいのです」
「あなたが魔法を使えないから?」
確かに私は魔法を使えなくて、それは正直楽しみにしていたのですっごく残念ですが。
それが問題ではなく。
艦隊を建造するにあたって、最初の技術的課題として思いついたのがこれだった。
この世界で誰も大型船を作っていない理由として、この世界では『鉄の箱が水に浮かない』可能性がある。
もしそうならば、私の持っている元の世界の船に関する知識が役に立たない。
とはいえ陸軍御三家直系のエーリカ様に『鉄で船を作って大航海時代を引き起こします』と言ったら『頭おかしいのかしらこの人形』と思われれば良い方で、もしかすると私の頭蓋が壁と同じ目に遭わされるかもしれないので、会話が止まる。
エーリカ様はすごく長い時間、私の返事が無いのを待って。
「ふうん。そういえば、あなたと同じようなことをしていた子がいたわね」
エーリカ様、表情が悪魔モードになっている。
「誰だったかしら」
あ、これはわざとだ。
エーリカ様は一度会った相手の顔を絶対に忘れないと言っていた。
それに、人と会うのにアグレッシブで、イリスヨナとして召喚された私に最初に会いに来たし、陸軍御三家の直系として顔が広い。
「教えてください!」
「えー、どうしようっかなぁ。どうしても?」
「どうしても。どうしてもです」
エーリカ様、いたずらと人を困らせるのが好きで大変に悪い人なのだが、こちらが本心から平伏して下手に出れば、案外あっさり慈悲と施しをくれたりするのだ。
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