発令所を出て、心地よい潮風を浴びながら手すりに触れ、船の後方を見つめる。

航跡が1本、海面を引いていた。


副長が出てきて、隣に立つ。

私は口を開いた。


「私、人を殺したんですね」

「判断したのは副長の私です。あなたは何も知らなかった」副長は淡々と言った。「お嫌ですか、自分が戦艦であるというのは」


私は首を横に振る。


「ショックでないと言うか、自分があまり落ち込んでないことに、落ち込んでます」


今の私がイリスヨナだから、というわけでもないのだろう。船として何か感じられるとすれば、戦艦として十分な働きをした達成感が得られてもいいはずだ。

そういう気持ちは、特に無かった。


「イリス様を助けられてよかった、とは思いました」


しかしこれも、どちらかといえば、人間としての気持ちだった。

船は全力をもって主を守る使命を全うしようとはするが、その結果に関心はないし、主の無事を喜ぶこともしない。


そういえば昔から自分はこうだった、と思い出す。

祖父の骨を拾った時、父の葬式、母の病室、いつでもついぞ涙は出なかった。

そのことが死者に申し訳なくて、彼らに謝れるならそうしたいと、いつも思い続けてきた。


「副長。この国で死者に敬意を払う時、どのような作法でするのか、教えていただけますか?」

「存じ上げません」副長は答える。「申し訳ありません。私は宗教には詳しくないのです。ましてや他国の船の、顔も知らない乗員のこととなると」

それもそうだ。

「では、ここで正しいかどうかはわかりませんが、エーリカ様に教えてもらったこの世界の方法で」


言葉を止めて、態度で示す。

ここでヒトは涙を流すべきなのだと、私は思った。

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