VS暗殺者1 / 蜘蛛人の戦い

「それで、ヨナ様が二人きりでしたいという、ご相談とはどのような内容でしょう。

まさか、異種族と見たらすぐに口説き始めるとか?」


エーリカ様からは、二人きりにした先は何もフォローが無いらしい。


「というより、イリス様の前では相談しずらくて。

私は近ごろ、敵艦を撃破したのです。それで、私に出来る弔いがあるならば、しておきたい」


それから、エーリカ様から聞いた限りで、この世界での弔いについての話を一通り共有する。


「そういうことでしたら、私からできるのは、今のままで問題ない、という言葉くらいですね。

エーリカ様はさすが、よく理解していらっしゃいます」

「エーリカ様もあなたに相談を?」

「いえ、エーリカ様はいつもは私ではなく、教会長に直接ご相談されます。

教会長というのは、教会の相談役組織を束ねる責任者です。私の上司であり、義理の母でもあります」

「義理の? では本当のお母様はどちらに」

「私が教会に入った後、家族は皆死んだと聞いています」

「それは、すみません」

「いえ、この道に進むことになった時、家族とは縁を切るよう言われましたので」


言葉の感じからして、レインは自ら進んでこの道を志したわけではないようだ。


「魔術の才能があったんです。具体的には、霊に触れます」

「そういえばこの世界は霊がいるんでしたっけ」


霊と言っても、死んだ人間の魂や記憶が残るものではないそうだが。

生前の繰り返した行動が霊的な場に痕跡として残るもの。

恨みや復讐心が残留し、魔力を持って形をなすもの。

そういう簡単な、いわば魔法生物が生まれた場合に、それを霊と呼ぶそうだ。


「見えなくちゃ、触れることができてもどうしようもないのですけどね。

でも魔力がある子供は、霊的存在や魔法生物からしたらご馳走です。

邪なものを呼び寄せることになりますから、普通の家庭にそのまま置いておくのも危険なのです。

だから、いつもは護衛がついています。

ですが、ヨナ様は特別なお客様です。なので、ご相談を受けるにあたって彼らには外してもらっています」


レインがそう言い終えた瞬間、背後のステンドグラスが破壊された。


----


ステンドグラスを破り、男が上空から落下してくる。

右手の単発銃から一発。私達のはるか上空を飛び去り、私たちの入ってきた扉に突き刺さる。


呪術に使う刃物、百科事典で見た『アセイミナイフ』だ。


アセイミナイフから漏れ出る何かで、扉が硬くロックされる。

これで逃げ道を塞がれたのと、助けが来てもすぐには入ってこれない。

このとき私は、魔法って便利だな、などと他人事のように思った。


男は単発銃を空中で捨て、左腕で持っていた胴の太い大剣を両手に持ち替えて振りかぶる。表面に刻まれた古代文字が発光。

ルーン文字の系統に見える。この世界にもルーン文字があるのか。

男の狙いは私でなかった。


レインは一瞬で奮い立つ馬のように倒立し、上半身をかばいながら美しい体捌きで半回転し、持ち上げた脚3本で剣を受ける。


アクセサリと思われた脚のコルセットが、剣とつば競り合って火花を飛ばす。

リング表面の文様と埋め込まれた宝石が発光し、剣の呪術攻撃と打ち消し合う。

レインの四本の脚が地面を掴み衝撃を逃がす。


襲撃からここまでが一瞬。


見ると、コルセット以外の2脚は大剣を直接受け止めていた。

蜘蛛人の脚は普通の刃物では外皮の半分までも刃が立たないらしい。

なんという硬さ。


男は人間と同じように柔らかいレインの上半身を狙おうとするが、レインは脚で上半身を庇っている。

レインが残した自由に使える一脚で、男の横腹を薙ぐ。

男が腰に仕込んでいたアセイミナイフが飛び出して脚が防がれる。


脚と刃が直に接触するが、レインの素足は仕掛け用の飛び出しアセイミナイフの切れ味では傷一つつかない。

逆に呪術用装飾具でしかないアセイミナイフの方が、蜘蛛人の丈夫な脚を受けて曲がる。

男の横腹が拳ひとつ分へこみ、肉が潰れて肋骨が折れる音。


男はひるむことなく右手に次の銃を取り出して構える。そこは右へ上半身を捻ったレインの死角。

レインは倒れ込むように体勢を大きく縦回転させ、受けている大剣ごと男を弾き上げる。

男の体勢が崩れて銃弾が外れる。弾の当たった長椅子が一瞬後に呪いで砕ける。


次の銃撃の前に、レインの腕の一本が銃身を捉えて銃口を反らす。


レインからは見えていないのに、どうしてそんなことが? と思って目をこらすと、レインの脚のアクセサリの中に、ひときわ大きな丸い宝石のリングを見つけた。

宝玉の中でごろりと虹彩が揺れている。

あの目玉のようなアクセサリだ。たぶん本当に目の代わりになる魔導具で、レインには大きな下半身で隠れてしまう脚側の視界が見えている。


男もそれに気づくが、3つもある眼球の魔導具をすべて潰すには手が足りない。


レインはそのまま、自分の人間の上半身を押しつぶさんばかりの勢いで、下半身を立ち上げて、回転で男を持ち上げ、大剣ごと、男が来たのとは反対である扉の方へ吹き飛ばす。


レインの両手と頬が床に思い切り押し付けられる。肺から空気が漏れる音。

下半身は反面綺麗な弧を描いて一回転し反対へ着地。


レインはそのまま力を溜めて、吹き飛ばした男へ向かって飛びかかる。

男は落下した際に大剣を取り落としていて拾う余裕もなく、予備の短い直刀と先ほど曲がったアセイミナイフを取り出す。

が、下半身のバネで飛び出したレインの方が早い。8本の脚の中で一番重く厚いコルセットの付いた脚で、男の上半身を押しつぶしにかかる。


男が直刀とアセイミナイフで受ける。

男がアセイミナイフにかけた何かの呪いが、レインが上半身の腕で投げ込んだ魔導具により無力化され消し飛ぶ。


レインの威力の乗った脚が、かかと落としの要領で、受ける刃ごと男の上半身を押しつぶす。


----


その瞬間、直刀に触れたレインの脚が切れ飛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る