VS戦艦2
敵艦、2回目の発砲。
こちらも攻撃に移る。
「イリス様、魚雷攻撃をかけたいと思います。まずは揺さぶりとして正面から2本」
敵艦が魚雷を避けようと無茶苦茶な機動をとれば、観測射撃をフイにできる。
あるいは、進路を保って対魚雷装備を使うなら、相手の手の内がひとつわかる。それはそれで良し。
「1本は皇女様からの受領品を使います」
「任せます」
イリス様からOKをもらう。
受領品を混ぜるのは、念のため動作の確認だ。
『前部魚雷発射管は装填を開始。右R5番魚雷、左I種魚雷を使用』
後部の旋回式魚雷発射管はまだ隠し玉にする。
任意の角度で魚雷を打てる旋回式魚雷発射管は、相手の不意を打つことができる。
魚雷が旋回する軌道半径を減らして接触までの時間を短くできる。疾走時間がへれば命中精度も上がる。
警告のあと、水しぶきがあがり、イリスヨナが揺れる。
『二回目が着水。距離は最近で220』
それにしても。
「3回目の攻撃が来ない?」
初弾はやはり観測射撃だったようだから、以降は遅くても20秒周期くらいで攻撃があると思っていた。
砲身が装填角度で下がったまま。
あ、いま上がってきた。
2回で弾切れということはさすがになかったようだ。
敵の艦砲から発煙。
『3回目の攻撃を確認。着水まで40秒』
掌砲長から魚雷装填完了の報告。
「前部発射管装填完了。調停は?」
「軌道はカーブさせて敵艦側面を攻撃。相手は戦艦ですが貫通による撃破ではなく、近接信管で脆弱な尾部の舵を狙います。完了次第発射。タイミングは掌砲長に」
「了解しました。発射タイミングもらいます」
魚雷は掌砲長に任せる。
私は操艦に集中。
敵艦の旋回に追従して正面にいようとするが、そうすると、どうしても船が海面を滑る。
車のドリフトのようなものだ。斜めに少し腹を見せることになってしまう。
真横を向けるよりはぜんぜん良いけれど。
「調停終了。敵艦の相対位置変わらず。前部魚雷発射管、発射します」
掌砲長の若く冷静な声が伝声器を伝わる。
「前部2番4番、魚雷発射管。発射っ」
魚雷発射回から飛び出した魚雷の疾走が始まる。
「次弾装填よろしく。右I種魚雷、左R3番魚雷」
「了解」
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相手は艦砲のないこちらに対して、水平になって前後すべての艦砲による一斉射撃を狙っている。
「距離がどんどん近づいてる。あるいは相手は砲撃戦ではなく衝角戦狙いかしら」
「ありえますね」
副長が答える。
「有効性はイリスヨナが証明したばかりです。100年以上前はいざしらず、現在知られている古代戦艦の殲滅方法ですから」
だからといって有利な砲撃戦の距離を捨てるのはやりすぎな気がする。
「魚雷への対応次第ね」
もし魚雷に対処できないというのなら、近接戦闘に持ち込んで水平射撃と衝角戦で早期決着、というのはわからなくもない。
いや、この状態では、おたがい他に選択肢がないのか。
イリスヨナも敵艦も、舵を効かせる限界まで速度を上げている。
横を向きたい敵艦に対して、正面で向き合いたいイリスヨナ。
向かい合ったまま直進すれば当然、衝突コースだ。
ならすれ違ったあとは?
ひとりごとのようにつぶやく。
「すれ違う瞬間に、旋回式魚雷発射管で魚雷を叩き込むか」
「巻き込まれますよ」
副長に返される。それはそうだ。直近で起爆すれば、戦艦の装甲が丈夫なぶん、ヘタしたらこちらの方がダメージが大きい。
そもそも、すれ違うところまで近づけるかどうかは、わりと相手次第なところがある。
接近できたとして、横腹に戦艦の衝角を受けたらイリスヨナは一発でアウトだ。
イリスヨナの船体がどれだけ強固でも、戦艦とぶつかり合って勝てるわけではない。
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イリスヨナの発射した魚雷は、海中に曲線を描き、敵艦に側面から近づく。
敵艦は攻撃を中断し、旋回半径を上げて回避へ移る。
と、敵艦砲塔が回転して急俯角を取る。
後部砲塔も艦橋の影から先が飛び出している。
戦艦全体がバラストで急角度。
巨大な戦艦が、今にもひっくり返りそうにも見える姿勢。
砲身先端が海水につきそう。
「ちょっと、本気なの?」
私が知っている知識では、艦砲というのは船体がある程度以上に傾くと、それだけで使用できなくなるらしいが。
古代戦艦はそのあたりお構いなしなのか。
魚雷命中まであと25秒。
射撃。
「撃ったぁ!!」
思わず頭の悪そうな声を上げてしまう。
全砲門の一斉射が、3発ほど水面に弾かれるが、海中に飛び込んだ砲弾が魚雷の軌道をかき乱す。
敵艦からは離れた位置で炸裂音が1つ。
『I種魚雷が爆散。R5番は作動』
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