人造戦艦のつくるミライ / 共犯者、ミッキ

第二発令所で、ミッキと一緒にシミュレーション。

時刻はまたもや深夜。


友達とお泊りで夜ふかししているみたいで、正直ちょっと楽しい。


「ヨナさん、つぎは46cm砲弾で」

「いいけれど、そんな強力な艦砲を想定する必要がある?」


私たちの建造する船体の基本外形は、すでに大筋で決まっている。

つづいて、対海獣の想定で要求強度の算定が始まっていたのだが。

ここ数日のミッキの興味関心は、対艦戦闘にかたよりつつあった。


私はミッキのことを少し心配している。

気持ちの面でも、先日の対戦艦の恐怖が尾を引いているのではないかと。


「ミッキ、この前の戦闘で対艦戦闘が怖くなった?」

「そうですね。そのとおりです。私は対艦戦闘が起こった場合を警戒しています」


ミッキは表情を変えないから、顔つきから感情が読めないが、そのぶん言葉は正直だった。


「人造艦船の当初脅威としては、対海獣戦をメインとして想定していました。対艦戦闘は重視しないと。

しかしそれは、対艦戦闘は基本的に起こらないという前提によるものです。

洋上の情勢が変化して対艦戦闘がありうるならば、艦船はその運用環境の条件に対応する必要があります」


うん?


全然怖がっているようには聞こえなかった。

私が言いたかったのとぜんぜん意味が違う。


「死んではいけないのは、私ではなくヨナさんです」


意味は通じていたのか。よかった、いやよくない。


「ミッキはそう思わないかもしれないけれど、人造艦船の設計者として、ミッキ以上の人物は考えられない。あなたの代わりはいないのよ」


エーリカ様の人脈をもってして、考えうる最高の人物がミッキだったのだ。

少なくともこの国でミッキ以上がいるとは考えられず、また、手管と人づてのない私に、この世界でそれが見つけられるとは考えられない。


それに同好の士は、きっと、もっと得難い。

『海外旅行協会』の存在を知ってなお、私はそう感じている。


「何であれ、ヨナさんを失えば人造艦船の建造は頓挫します。私がイリスヨナに乗らなくても、リスク分散にはならないのです」


だからといって、私と心中して欲しくはない。

特に私は、自分の『行く末』をすでに決めてある船なのだから。


ミッキは言葉なく、何か考えている様子だった。

しばらくおいて、口を開く。


「ヨナさん、聞きたいことがあります。人造艦艇で艦隊を作った後のことです」

「ずいぶん先の、未来の仮定の話になるんじゃない?」

「私はそうは考えていません。ヨナさんもそうです」


ミッキは断言した。


----


「海戦になるわ。私たちの作った人造艦船で、たくさんのヒトが死ぬ」


漁と交易による食料供給で助かるヒトもいるだろうとか、戦艦が無くてもいずれヒトは戦争を起こし戦うのだ、などと言い訳するつもりはない。

私は戦艦も空母も好きだけれど、それがヒトを殺すモノだということを忘れるつもりはない。


知っていて、無視はするかもしれないが。


どんなにコントロールしようとしても、知恵と技術は広がっていき、ヒトの世は乱れる。

戦える人造戦艦があるなら、ヒトはそれを使って戦う。


休日の趣味に家のガレージで原子爆弾を作るかのような稚拙さで、私たちはこの世界に艦隊を作ろうとしている。

そして私は『起こることを理解していた上でやった』という意味で、平和を願って原爆を作ったというマンハッタン計画の科学者たちよりも罪深い。


いずれ、私の方から話を切り出して、確認しておかなければならなかったことだ。

私は改めて、ミッキの意思を問う。


「私たちは一緒に、この世界に地獄を作ることになるかもしれない。それでも手伝ってくれる?」


ミッキはただ頷いた。


「私たちのやったことで、多くのヒトが死に、国をいくつも滅ぼすかもしれないのに、いいの?」

「技術者にありがちな楽観主義と無責任思想だと言われれば、それまでですが。

私は艦船がヒトを不幸にするとは考えていません」


ミッキの言葉に、私は耳を傾ける。


「ヨナさん、私が起こりうる未来の戦争に思い至ったのは、この前の海戦がきっかけとか、ヨナさんに会った後のどこかではないのです。

お祖父様から人造艦船の夢を引き継ぐことを決めた夜、自分で気づきました。

船が戦争に使われることも、最初からわかっています」


8歳のミッキが考えていたことが、私には想像もできない。

私なんておなじ歳のころ、物心ついていたかもあやしい。

画用紙に船の絵とか描いて遊んでいたのではないか。


「そして私は、ヨナさんが言うような未来が絶対にやってくる、とは考えていません」


なんなら、いまの私よりも、8歳のミッキのほうが頭が良さそうだ。

絵に描いた未来も、ミッキのほうが確かかもしれない。

とはいえ、それはそれだ。


「それに、ヨナさんがそんな未来を許すとは思っていません。私にもヨナさんを信じさせてください」

「私に戦争を止める力なんてないわよ。イリスヨナは数ある古代戦艦のうちの1隻に過ぎないのだから。

それでも、人造艦船がもたらす未来について、責任は私にあります」


そして、イリス様に背負わせるつもりもない。

イリス様の自由な未来を開くために、私が決めてすることなのだから。


「ミッキが背負う必要はないわ」

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