イリス・ストラウス・ローズガーデン

次に意識が戻った時、私は艦内の救護室のベッドに寝かされていた。


見渡すと保健室の一室かとも思える余裕のある間取りの部屋で、どうして目覚めた瞬間からここが艦内だとわかったのかはわからない。

不思議だ。


「目が、覚めた?」


頭に響く、声。不快なのではなくて、もっと聴いていたい。声質はそうでもないのに、なんだろう、頭の中を羽毛で優しく、くすぐられるかのような。


小さな女の子が私を見ていた。

桜色の髪と瞳。

ベッドの脇で椅子に座っている。幼稚園卒業か、小学校入学くらいの背の高さ。

年頃らしく見えないのは、整った容姿、ひと目で貴人とわかるシンプルだけれど綺麗な服飾、丁寧に躾けられたであろう姿勢と仕草に、眉間あたりに寄っている不相応な責任感のようなもののせいか。

でもこのくらいの年頃の子供が近頃は無条件に可愛らしく見える。同級生の中にはもうこれくらいの子供がいる母親もいてーー。


頬を触られて、頭の中の考え事が吹き飛ぶ。

「あなたは、イリスヨナ?」

『はい船長』

私の声がよどみなく答える。

船長?


桜色の髪に違和感を持つ。頬を触られたお返しとばかり、艶やかな香りのしそうな長髪に、私の手が自然に伸びる。結ばれていない後ろ髪から、ひと束ほど持ち上げて、重みを確かめる。


眼の前の小さな美少女、その頭に付けている装飾に目が行った。

「ティアラ、可愛いですね。姫カットの髪にも、すごく似合っています」

「姫?」

不思議そうな顔をされる。知らない言葉でもあったのだろうか。


「船長、お名前を伺ってもよろしいですか?」

「イリスといいます。イリス・ストラウス・ローズガーデン。はじめまして、ヨナ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る