灰色の制空

レーダ観測によると、ワイバーンが上空を旋回している。


目視の範囲では、たまに上空を通りかかるだけのように見えるが、より広いレーダ観測の範囲で見ると、1体以上のワイバーンに、上空から監視されている。


「多分、こちらの位置は割れています」


ジャングルクルーズに入って、3日目。

ジャングルの中を通る蛇行した河を北上しつつ、時間を稼ぐため、分岐路ではより時間のかかる経路を選んで進んでいた。


「でも気になることもあります。

北方から別の騎龍が飛んできて上空を旋回して帰っていくことと、ワイバーンは騎龍が近づいてくるとあからさまに接触を避けるのです」


情報共有を兼ねた方針会議。

参加しているのは、私、エーリカ様、副長だ。

艦長なのでイリス様もいるけれど、座っているだけで、基本的には一言も話さない。


副長が地図にワイバーンの旋回経路をプロットする。


「仲違いということはないでしょうから、どちらかは敵の目なのでしょうね。

それにしても、航空戦力を保有し続けられるということは、敵の勢力は未だに健在ということでしょうか」


確かに、この世界でも航空戦力は価格が高い。動物であるドラゴンやワイバーンを使っているので、機体はツガイで増えないF-15Jやトムキャットよりは安いのだろうけれど。

それでも気まぐれな稀少生物と、それを乗りこなすパイロットの人員と設備にかかる費用は、とんでもない額になることが想像できる。

イリス家もいちおうは有力貴族家なので、比較的安価なワイバーンの速達手紙配達員を抱えているけれど、1ユニットだけ。それでもお金がかかりすぎるので、どこかと共同経営しているらしい。


「それは無いと思うわ。

十分な戦力が用意できるなら、王家の観測竜騎士が相手でも、戦闘部隊で襲撃して落とせる。臨時拠点を立てて野営しているのではないかしら。

竜騎兵崩れと密輸したワイバーンを1ペア用意して、短期間ならばそういう運用も可能だわ」


正規の竜騎士よりは安いのだろうが、そのペアも準備含めてそれなりのお値段がしそうだ。


「王家の航空部隊が接触してこない理由は?」

「イリスヨナは古代戦艦ですから、多少ですが対空装備も持っています。

敵味方がわからない状態で接触しようとすれば、撃墜もありえますから、貴重な竜騎士の損失を避けているのでしょう」


副長の答えに、エーリカ様が付け加える。


「そこは多分、少し違うわ。確かに竜騎士は貴重だけれど、皇女様の方が大事だもの。

それでも接触を避けているのは、不用意に接近して、その際こちらの注意を引いて防御に穴を開けてしまうのを避けているのが一つ。

それと、途中下船した可能性もある皇女様の生死と現在位置を確定させて、それを敵に知られたくないのでしょうね。

また、暗殺が警戒されているから、安全を確保できない以上、今はまだ竜騎士の兵団を投入して皇女様を保護することができない」


敵が仮に皇女様を狙っているなら、生きて船に乗っているかわからなければ、無理な襲撃をするのはためらう。

だが、生きているとわかれば、追い詰められているであろう彼らが、自棄的に皇女様を襲ってくる危険が高まる、ということか。


イリスヨナの船内がどれくらい安全と言えるのか、正直なところ私自身にはよくわからないけれど。


貴族や陸軍の偉い人たちが皇女様を連れ出しに来ないということは、現状では皇女様にとってここが一番安全という結論になっているのだろう。

とりあえず、誰かが接触してくるまでは、こちらから出ていくのが危ないことに違いはない。


「彼らのどちらかが降りてくるまで、待つしか無さそうね」

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