エーリカ様の襲来1
「やあ兄貴久しぶり。あいかわらず無愛想な顔だね」
「顔は生まれつきだ」
眼の前で握手が交わされる。
「こちらがこの度、イリスヨナの化身として顕現されたヨナ様だ」私、そんな大げさな言葉で紹介をされるようなモノなのか。「ヨナ様、こちらが弟のカルトルです」
「イリアノ・ヴォナ・カルトルです。お会いできて光栄です」
握手。
「こちらでも握手は挨拶でよく使われるのですか」
「いえ、少数派ですね。この国で握手は約束を交わす時の作法ですが、これもあまり広く行われているわけではありません」
答えてから、『こちらでも?』とは、という顔をされる。
「すみません、覚醒してまだ日が浅く、この家や私の周囲のことを何も知らないのです。失礼があれば謝りますので、ご指摘ください」
「兄貴、礼儀作法とか教えて差し上げなかったの?」
「そういう話もできていない内に、お前が勝手に来たんだ」
「それは困ったな。とまあその話は後にして。礼儀作法はおいおい兄貴が手配するということで。俺としては早めにヨナ様の人となりを押さえておきたかったし。何しろ前代未聞のことだからね。場合によっては国政が荒れるよ、これは」
「そのためのお前だろう」
「あーあー、この長男は。面倒な政治と社交はすぐ弟に押し付けちゃって」
「好きでやっている癖に」
「好きこそものの上手なれってね。その方が伸びるでしょ」
「お前は相変わらずだ」
イリス伯が嘆息する。
イリス伯、入婿だと思っていたが長男だったのか。
でも普通、家を継ぐのは長男なのでは。
「そうですよ。でもあっさり高位のイリス家に入婿しましてね。その余録を頂いて、イリアノ家も看板を保っていると。具体的には政治周りの調整仕事を下請けしてます」
ずいぶんとラフな物言いだ。
親しみが持てる。
「おい」
「ヨナ様は身内でしょう。正直に話したほうがやりやすい」
「そうですね。貴族の社交とか、できる気がしないので、助かります」
「しかし早速困ったな。エーリカ様がヨナ様に会いに来る」
その拒否権がなさそうな言われ方と、エーリカ様という名前を聞いたイリス伯の顔を見て、私は面倒ごとの到来を予感した。
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