蜘蛛人の修道女2

小柄な修道服の女性。ここの職員なのだろうか。

しかしよく見ると、服装のおおまかな印象は修道服だけれど、私の知っている修道服とはあちらこちらが違う。


修道服も身体のラインを隠すところがあるけれど、彼女の服装は厚い垂れ布と各所のフリルによって、背格好や体格すら見て取れない。

ドレスのパレオよりも大きく膨らんだスカート。

伏せられた瞳と、沈んだように抑制された表情。

綺麗だけれど毒々しい、どこか濁った印象を与えるオレンジの瞳と髪。

ヒト一人が余裕で隠れられそうな大きなスカートの膨らみが目を惹く。


「はじめまして。ヨナ様。

エーリカ様よりご紹介に預かりました、相談役見習いのレインです」


スカートの袖を掴んだ腕が上がる。


ヨナの地獄耳だけが拾う、風が舞って枯れ葉がこすれ合うような微かな音。

大きく広がったスカートの端が上がり、8本の蜘蛛の脚があらわれた。

色は黒茶色。小指ほどの太さをもった毛棘が生えた、根本から足先の関節まで太い、蜘蛛の脚。


ヨナの地獄耳でも彼女の足音が捉えられなかったのは、もともと音が小さいのに加えて、人間と足音が違うからだったのだろう。


「ここは厳粛な場ですから、本来であれば、脚などお見せしません。

しかし、エーリカ様がお見せして差し上げろと。

ヨナ様は私の足から目を逸らさず、強い関心を持つだろうと仰られたのです。

ご様子からして、ヨナ様はどうやら聞いていた通りの方のようですね」

「ええ、とても太くて力強そうな、綺麗な脚ですね」

「あら、重ねてびっくりです。...本当に初対面の相手を容姿で褒めるのですね」


「え、あっ。

不躾ですみません。失礼でしたら謝ります。

でも、嘘ではありませんよ。本当に綺麗だと思います。誰にでも言うわけではありません」

「それはわかります。私も女ですから。

でも、聖職者に向けるには、少々不躾な視線にも思いますね」

「本当に、すみません」


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なるほど。彼女の着ている修道服は、身体の特徴を隠すのが主な機能なのか。


帽子は大きく、左右後ろに肩まで垂れた布。

獣耳の有無がわからない。


上半身はケープとマントに、セーラー服より大きい後ろ袖で、都心のお嬢様学校かファンタジーの魔法学校の制服のよう。

肩羽や腰羽が生えていてもひと目では見つけられないだろう。


スカートはやりすぎなほどパレオで膨らんで、足元まで隠れている。

蜘蛛や獣の下半身を隠すことができる。


レインは顔の正面を晒しているが、それも隠すことができるようになっている。

たぶん、宗教間・種族間のいざこざを避けるための仕掛けだろう。


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「蜘蛛人の身体、人目に晒すのは久しぶりです。

宗教人の正装は、身体の脆い種族が身を守るのには良いのですが、私には窮屈なのです。

正直、私たち蜘蛛人の美しさを理解できる方に、自分の脚を褒めてもらえるのは嬉しい」


レインが窮屈から解放されたかのように、大きく身じろぎする。


それでやっと、厚い布の向こうに女性らしい胸の膨らみから身体の線が見て取れるようになる。

身体をねじる動きで、臀部の後ろにある蜘蛛特有の後ろ腹を覆った、背中側のスカートが持ち上がる。

その動きから、背骨から後ろ腹まで筋の通った健康的な身体の構造が透けて見えるようで、ため息をつくほどに官能的だ。

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