乗船志望者スイの面接 / トーエ特製の『択捉』船舶模型
「ごめんなさいね。本当はイリスヨナの船内で面接にしたかったのだけれど」
「いえ、めっそうもないです」
イリス邸内の部屋。椅子に座って緊張する少女。言葉も硬い。
年頃はミッキの少し下、中学生と高校生のあいだくらいだろうか。
長い髪をかわいい髪飾りでまとめ上げていて好感がもてる。
本当は、面接にかこつけて船内に連れ込みたかった。
(って、私はヒトさらいか。)
船内を見せてあげられるし。
この娘が本当に船が好きなのか、好きならばどういった志向なのか、反応が見てみたかった。
まずは、こちらのメンツから簡単に自己紹介。
イリス様、私、ミッキ。オブザーバにレイン、トーエ。
オブザーバには、この世界や世俗に疎い私たちの代わりに、人物的に問題ないか、といったあたりのチェックをお願いしている。
イリス伯爵家のイリス様がいらっしゃることを認識して、少女の緊張ゲージが上がる。
「スイと申します。イリス伯領地で釣りと干物づくりをしている家のひとり娘です!」
それからイリス様以外から、普通の面接のような質問のやりとりがあり。
「ヨナ様からは何かありますか?」
振られて待っていた私は一番聞きたかったことを尋ねる。
「志望動機を聞かせてもらえるかしら♪」
「はっ、はいっ。イリスさまにおかれましては海産物による食料と産業での地域振興という考えにいたくカンドウいたしました。ヨナ様の活躍は家族からキキ及んでおります。ワタクシノ一族は5代前からイリス家領地内で暮らしておりまして日々その恩寵に賜りいずれオンガエシさせてイタダキタクこれはゴホウシのよいキカイであるとかんがえまして...い、以上です」
なぜだろう。空気が重い。
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イリス様が指摘する。
「ヨナ、かおがこわい」
「えっ、そんな顔してますか」
『そういう話を聞きたかったわけじゃない』のは、その通りだけれど。
『素質のある艦船沼ビギナーが来たから、ディープすぎないソコソコにキャッチーな会話で盛り上がりたい沼に引きずり込みたい同類を増やしたい』とか、思っていたのは確かだけれど。
(いや真面目に面接をしろ私。相手に失礼だろう。)
レインが指摘する。
「眉間にシワがよってますよ。渋い果物を食べたときみたいです。
みんな無言になるのも仕方ありません。さっきまで、ヨナ様わっくわくでしたからね」
「えっ、この空気の重さ、私のせい?」
「この場での決定権はヨナ様のものですし」
イリス様には事前に、私が最終的に判断していいというOKをもらっている。
それで怖い顔に豹変して黙り込んだら、それは空気も凍るか。
悪いことをした。
「皆さんすみません。スイさんも」
「いえ、とんでもない。滅相もないです。
あの、ヨナ様のご期待に添えなかったようであれば、その、わざわざこの場を設けていただいたにもかかわらず、本当に大変申し訳なく」
「いや私のせいだから! あなたは悪くないの! ただそういう表向きというかタテマエは正直どうでもよくてね?」
それはそれでばっさりとヒドイですよね、という周囲からの声。
ごもっともで。
うーん、でもこの後どうしよう。
この空気と状況で、『あなた船好き?』って聞かれて、この娘が本心として『YES/NO』を答えられるかと言われると。
そこでトーエが話題を変える。
「ヨナ様、せっかくみなさん集まっているので、ここで例のものをお披露目したいのですが」
スイがわかりやすく落ち込む。この状況で別の話題は、不採用が決定したようなものと思ってしまう。
それにもかかわらず、トーエがこの場で切り出したからには理由があるのだろうけれど。
私はOKを出す。トーエが部屋の端に置かれていた被った押し車を中央に。ベールをとる。
「ヨナ様のご依頼だったモノです」
船舶模型だった。
スケールは1/100。80m級の船体が1m弱で再現されている。
専用支持台の上に置かれ、船底まであるモデル。
日本帝国海軍の択捉型海防艦『択捉』。
私たちイリス漁業連合の、初期艦でもある。
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