トーエとチセ4 / ヨナのちょっとした怪我
刀の柄を握ったチセ。
身を守るように刀身を握り、手から紫の血を流す私。
完全に、傷害事件の犯行現場だ。
トーエはすぐに私たちのあいだに割って入り、チセの手から直刀を奪って捨て、チセをかばうように抱きしめる。
「トーエ?」
「チセ、黙っていて」トーエの表情は見えない。「ヨナ様、申し訳ありません。私がチセを見ていなかったせいです」
「いやこれは私が」
「ですから責はわたしに」
本当に気にしていないのだけれど。
私、心臓メッタ刺しにされてもそんなに痛くないし。
むしろ『チセが怪我をしなくて良かった』と思っているくらい。
いまのトーエは、チセの処遇を心配してなんとかしようと必死になってる。私の言葉は通じなさそう。
困った。
「ミッキ! ちょっと来て!」
そして説得して。
ミッキは私から状況を聞き出し、そのあとすぐにトーエを説得してくれる。
「姉さん、ヨナさんは危険はなかったって言ってる。それに、子供を処刑するとか国外追放するとか、そんなヒトじゃないです。性格的にも」
「でも」
ぎゅっとチセを抱きしめる腕の力を強めたトーエに、ミッキは短くこう言った。
「ヨナさん、私の同類」
「...ああ、なら大丈夫だね」
たった一言で、トーエの緊張が一気に抜けてしまった。
両肩が下がってその場にへたり込む。
まるで魂が抜けたようだ。
ヘニャヘニャになったトーエを抱きしめて、チセが頭を撫でる。
「トーエ」
「ありがとうチセー。ああ、緊張したぁ。心臓止まるかと思ったよお」
トーエはチセの腰を抱き返す。
そこだけ見ると保護者が逆だ。
しばらく、そうしてから。
「はい、回復しました」
やがてシャキッとしたトーエが復活し、入れ替わりにチセがウトウトし始めた。
もうすぐ眠りそうなチセを優しく抱きながら、トーエが顔だけ私の方に向ける。
「あ、ヨナさま? 私たちヨナさまのご近所に引っ越すことにします。向こうでのお仕事とか、引っ越しの手続きとか手回しも諸々お世話になりますので、よろしくお願いします」
「えっ、軽くない!?」
さっきまでと態度が全然違うし。
トーエはうって変わって悩みのなさそうなニコニコ笑顔。
緩みすぎている。
ミッキの説得、効果が強すぎたのでは。
「それって、私のところで働いてくれるってことでいいの?」
「はい。ヨナさまが絵の描ける人手を探していることは、じつは以前からミッキに聞いていたんです。
その時から興味はありましたから。
プロジェクトを横断するデザインルールを作る仕事は大変そうですけれど」
ミッキがすでに誘いをかけていたらしい。
とはいえ、いいのかそれで。自分と子供の将来に関わる話でもあるのに。
「ミッキに聞く限り大きなプロジェクトですから、参加するだけでも伯付けになるんです。
あ、もちろん成功すると思っていますよ?」
「姉さん、私は成功させるつもりだけれど」
「ミッキのことは信じてるってば。あ、もちろんヨナさまのことも」
その軽口の掛け合いだけでも、相手の貴人によっては首が飛びそう。
私としては、イリス様の命がかかっているので失敗するわけにはいかないのだが、『成功』すると思っているかどうかについては正直ノーコメントとしたい。
「チセのことも、人見知りだから友達ができるか心配していたんです。
ヨナさま、チセと相性いいみたいですし。ヨナさまとか、歳の近い友達がたくさんいる環境で、腰を落ちつけて育ててあげたいなって考えていたんです」
私に対する年齢錯誤はどうでもいいとして。チセの養育環境については、いきなり責任重大だ。
どうしよう、保育所は必要だからやるって言っただけで、具体的なことは何も考えてない。
資金だけはあるけれど、他には何も用意してない。
「あー、保育所の整備もお任せするかもしれません」
「いいですよ? それが最初のお仕事ってことで。私もチセが通う保育園を作るの、お手伝いしたいですし」
ああ、話がすんなりと決まってしまった。
正直こちらがついていけない。
「あなたたち、確かに姉妹だわ。本当に」
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