057話-あいつどうする?
「……ヴァレンシアさん、あの……大丈夫ですか?」
先程から元気そうな話し方をしているのだが、ヴァレンシアさんの顔や身体の至る所に青痣があり、頭の羽もおそらく奴らにちぎられたのだろう、髪の隙間から少しだけ髪ではないものが覗いていたのだった。
誰がどう見ても満身創痍。元気そうに喋ってるのが違和感しか感じないほどの有様だった。
「ごめん、ちょっと疲れてる。あはは」
俺がそう言うと力なく笑うヴァレンシアさんは突然こてんと横になり、肩で息をし始める。
このまま放っておけば確実に命を落としてしまいそうだ。
「おねーちゃん!」
「おにーちゃん、おねーさんのこと助けてあげられませんかっ?」
「この人ずっと私たちを守ろうと、何度もかばってくれて……」
倒れたヴァレンシアさんに駆け寄ってくる数人の女の子たち。奥の方の女の子たちも立ち上がったりして一様に心配そうな視線を向けてくる。
「だいじょうぶだよ。ヴァレンシアさんと外にいる仲間のおかげで魔力が使えるようになったので、回復させますね」
「はぁっ……回復魔法使えるなら私より他の子を……私……はっ、回復魔法効かないから……」
処置を拒否して力なく微笑むヴァレンシアさんだったが、俺は遠慮なく彼女の目の前に膝をついてその細く折れそうな身体を抱きしめる。一度会っただけだが周りにいる子たちの言いようからもこの人は悪い人ではないのだろう。敵かもしれないけれど悪人ではない。それにこの人がいなかったら俺は今頃挽肉になっていたのだ。
「あなたのおかげであいつを倒せました。必ずあなたも助けます」
そして行使するのはいつもの回復魔法、もといアイリス曰く『回帰』させる魔法。回復魔法が効かないと言っていたが俺ならケレスのツノのように元に戻せるはずだ。
自分でも仕組みがわからないのだが、俺にはこれしか使えない。
銀色に光る魔力が俺とヴァレンシアさんを包み込み、身体中からでた魔力がヴァレンシアさんの中へと染み込んでいく。
そして……
「あれ……あれれ……? これ回復したの? す、すごい、ユキくん何者?」
銀色の輝きが消えると、すっかり元通りになった頭の赤い羽をパタパタと動かし身体中の怪我を確かめるように触っていく。
「すごい……」
さっきまでの戯けたような声色ではなく感嘆の声を漏らすヴァレンシアさん。無事に回復させられたようでよかったと心底思う。
(ゾンビみたいに回復魔法で消滅したらどうしようかと思った)
ぶっちゃけ本当に心からそう思ってしまった。
当のヴァレンシアさんはそんなことを思われているとは知らず、頭の羽をパタパタ動かし体を捻ってはお腹の傷を確かめたりしている。正直視線のやり場に困る。
俺も素っ裸なので人のことは言えないだろうが、なるべく他の女の子の視界に入らないように床に座り込み一息ついたところでヴァレンシアさんが俺の首に抱きついてくる。
「ねーねー! この首の魔封とか外せたりしない? あいつまだ生きてるでしょ?」
何をされるのかと身構えたのだが、ヴァレンシアさんは瞳を赤く光らせながらそんな事を言った。
「……外したらどうするんです?」
「殺されちゃったみんなとの約束を果たすわ」
話を聞くとヴァレンシアさんは死んでしまった人たちに必ず恨みは自分が晴らすからと約束していたのだという。
俺としては全く構わないのだが、事件の真相が分からなくなるのは問題だ。表に四人転がっているが、あいつがリーダーだろうし、生かすならあいつを生かしておかなければならない気がする。
「ユキくん、転写系の魔技とか使えないの?」
「……えっと、それはどういう?」
「相手の記憶を片っ端からコピーする魔技なんだけど」
そんな恐ろしいものがあるのか。だが残念ながら俺が唯一使えるのは鑑定系なので、対象の今現在の状況しか書き写せない。
「じぁあ、私がやるからさ、ちゃんと情報も共有するから安心して?」
どうやらヴァレンシアさんはその『転写系』という魔技を使えるらしい。
とはいえ、ヴァレンシアさんの首や手足にはめられている枷はどうやって外すべきか……。ヴァレンシアさん一人なら座長の魔技で本体だけ位置をずらして転移させれば良さそうなのだが、他人を転移させる場合、集中力がかなり必要な上に魔力の消費も高い。前回捉えられていた全員を一気に移動したのは実は少し危険な行為だったと後から座長に聞いた。
ここは一旦、首輪の内側に手を入れて外に向かって風矢で撃ち抜くしかないだろうか。
「もしかして、この魔封外せないお悩みだったりする?」
「えっと……いくつか魔技は使えるんですが、どうやれば良いのかなって……荒っぽくなりそうですし」
「あははっ、ユキくんやさしーね。ちょっとぐらい怪我しても大丈夫だよ?」
そうはいうが、怪我をするのがわかっててやるのも憚られる。
「ほら、少なくとも私はあなたに助けられたんだから、好きにして良いのよ?」
突然妖艶な笑みを浮かべ首に回した手に力を入れて胸を押し付けてくるヴァレンシアさん。
「わっ、わかりました、わかりましたから離れてください」
「うふふ……かわいいー! っと思ったらちゃんと男の子だね! 大丈夫よ裸なのはお互い様だから!」
「そういう問題じゃ……あ、そうだ」
手っ取り早い方法があった。俺はヴァレンシアさんの首輪の隙間に手を差し込む。
「やぁっ、んっ、もっと優しく……」
「はいはい――『
一か八かだったが、ヴァレンシアさんの首を拘束していた首輪はあっさりとアイテムボックスへと消え去ったのだった。
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