110話-万事休す?
怪しげな小瓶を回収し終え部屋の外へと戻ってきたが、竪穴に入った六華と銀華からの反応はまだ無い。
六華の視界にも瓦礫の山や土煙しか映っておらず、鎖男を探しているようだった。
『
今までのパターンだと更に下か、いつの間にか上の改装に居る可能性がある。
「危ないことしたく無いしなぁ」
『洗脳』や『飛翔』などの魔技を考えると単独行動のほうが効率がいいという話で一人で来た以上、なるべく危ないことに首を突っ込みたくは無い。
鎖男ことカイルを逃すつもりはないが、どうせなら遠距離でネチネチ攻撃しながら倒し切りたいのだ。
「『千里眼』で見ても見当たらないし……これはやっぱり上か下かな……」
ゆっくりと瓦礫の先や付近を『千里眼』で透視して見るが、何度見てもカイルの姿は見当たらない。
普通に考えればあのタイミングで避けられ、『転移』的な魔技で逃げられたと考えた方が良さそうだ。
俺は六華と銀華を戻らせて、三方向へ『千里眼』を使いどこから攻撃されても良いように警戒する。
『こういうパターンってさ』
『上からくるぞ! とかそんな感じ?』
いわゆるフラグなのだが、カイルが俺やヴァル、シェリーと同じならもっと強力な魔技を持っていてもおかしくはない。
「一撃必殺系の魔技とか使われると厄介だよな」
『……必殺ならね』
『必ず殺すと書いて必殺だし――」
そんな軽口を叩きながらカイルからの攻撃に備えるが、耳が痛くなるほどの静寂が続く。
「…………もしかして死んだか逃げた?」
『それこそフラグだな……ほらっ!』
本当にタイミングを見計らっていたように、床にヒビが入り膨大な魔力の塊があたりを包む。
「『転移』!」
レーザーのような銀色の光が床から吹き出す寸前に『転移』で数メートル先へと移動する。
床から出てきた魔力塊が天井に突き刺さり、大きな岩塊が次々と降り注いでくる。
「やれやれ……今のを食らっておいてくれれば楽だったのに」
その時思っても見なかった方向からカイルの声が聞こえてきた。
「『
咄嗟に声が聞こえた通路の先へ風塊を打ち出すが、暗闇に向かって直進する風塊は左右の壁から現れた鎖や銀光によって消滅してしまう。
「魔法まで消せるのかよその鎖」
「ちょっとコツが必要だけどな……とりあえずお前はもう死ね――!」
「ヤバっ!」
『これはっ!? 『転移』!』
通路の先――暗闇の中から突如出現した銀光が見えた瞬間、六華が『転移』を使い先ほどまで居た下のフロアへと逃げる。
「おい、銀華が消えたぞ!?」
『あぁそうだな……まさかあの光、魔封の効果があるみたいだな』
「残念、魔封じゃなくて魔力そのものを霧散させる光の鎖だよ」
「…………そこまで種明かしして良いのか?」
「同郷のよしみってやつだよ」
カイルは何事もなかったかのように天井の穴からヒラリと降りてきて、堂々と俺の前に着地する。
おそらく最初の俺の攻撃と瓦礫に潰されたためか、フードが破けたカイルの素顔を初めて確認することができた。
「…………日本人じゃない?」
「当たり前だ。どこをどう見たらそう見える?」
背は俺より少し高いぐらいだったカイルは、金髪碧眼、肌の色は白く鼻が高い。
白人というのは明らかに分かるのだが、それ以上はわからない。
「でも日本語……」
「あ? 俺からしてみればお前が英語話しているんだが? そういうことだよ」
カイルに言われてハッと気づく。
確かに俺は文字は読めなかったが会話は問題なくできていた。
文字こそ例の狼から手に入れた魔技で読めるようになったが、話し言葉は全員が日本語を話していると思っていた。
だが、どうやらそれも認識が違うらしい。
「ほら、おしゃべりしてる時間が勿体ねぇよ! 『
カイルが指をパチンと鳴らすと左右の岩壁を突き破って鎖が襲いかかってくる。
「あぶなっ!?」
俺と六華はそれぞれ前後に動き鎖を回避するも、通り過ぎた鎖は向きを変え生きている蛇のように俺を追いかけてくる。
「――『転移』!」
避けても追いかけてくるならと、『転移』で数メートル移動するが一瞬だけカイルの鎖のほうが早かったらしく六華の腕に触れてしまう。
『――っ!?』
「六華っ!?」
「はぁ……今度はその転移系か……ほんとユキ君の魔技は俺の魔技と相性が悪すぎて泣きそうになるよ」
やれやれと両手を広げて頭を振るカイルだが、その表情は全く困っているようには見えない。
どちらかと言えば、次はどのおもちゃで遊ぼうかとワクワクしているような表情だった。
「その鎖と俺の幻影の相性が最悪すぎて俺が泣きそうなんだけど」
「何を言っている。俺の鎖パクったんだからお前も使えるんだろ?」
目を三角にさせたカイルが世間話をするような口調で指を指してくると、その動きに連動するように左右の壁から鎖が飛び出し俺を捕らえようと襲いかかってくる。
俺は上半身を反らし鎖が目の前を通り過ぎるのを確認するとすぐさまカイルへと視線を戻す。
正直言ってあの鎖に絡め取られてしまい、魔力が封じられてしまうとどうすることもできなくなってしまう。
常人より遥かに多い魔技は当然だが、ある程度イメージ通りに発動させることができる魔法も、身体強化すら使用できなくなってしまう。
そうなってしまえば、この13歳程度の身体と筋力しかない俺ではカイルから逃げる術が無くなる。
やはりアイナやケレスのどちらかを『洗脳』に巻き込む可能性も含めた上でついてきてもらうのだったと今になって考えてしまう。
あの二人なら俺が洗脳してしまったところで事前に話をしておけば怒ることはないだろうと確認してしまう。
むしろそうすることで俺の安全が買えるなら安いものだと言い出してもおかしくはない。
だが、結局誰か連れてきた所で前回はあの鎖にあっさり全員が捕まってしまっている。
それほどまでに俺たちは魔力に頼り切りの戦いに慣れてしまっており、それが封じられるとちょっと身体が丈夫だったり、大きかったりするだけの一般人に成り下がってしまうのだ。
「『
どちらにせよ今はカイルの攻撃を交わしつつ遠距離から打ち合うか、姿を隠しての不意打ちしか無いだろう。
俺はもう一度天井を崩落させて身体強化と、以前は効かなかった『洗脳』や影を攻撃して本体にダメージを入れるというあまり使い道の無い魔技までも発動させながらカイルから距離を取る。
何しろ『
ツクモの爆発系の魔技やケレスの魔技はこんな狭い洞窟内で使うことは出来ない。
そうすると俺に残された攻撃の手段は考えるまでもなく、他には何ももないのだ。
つまり後はカイルと同じ『封魔』の鎖を叩き込むぐらいしか方法がない。
それ以外の魔技は補助的なものがほとんどなので意味があるのか無いのかはわからないのだが『使えるのだから使っておこう。もしかしたら通じるかも』程度の希望的観測でしかない。
(少しは油断してくれればいいけど――『
カイルの視界を遮ったタイミングを見計らって幻影を二体出現させ、俺は一体の幻影を残し部屋の天井に開いた屋根から上のフロアへと飛び込んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます