09-BridgeⅡ
116話-誹謗中傷
アイリスとサイラスの魔技をコピーすることとなった俺は全員揃って『部屋』の練習場とか修練場などと呼ばれている白いグラウンドへとやってきた。
体育館ぐらいあるだだっ広い『部屋』に建てられた建物の奥。
何も手をつけられていないスペースだったのだが……。
「あれ……こここんな広さだっけ?」
「だよね、ユキもそう思うよね?」
一瞬久しぶりに来たから勘違いしているのかと思ったのだが、ヴァルも同じ感想らしい。
「だって、前まで私がばーってあの壁まで走って5秒ぐらいだったのよ?」
五秒というからには三十メートルぐらいだろうか。
俺もそれぐらいのイメージだったのだが、今立っている建物の出入り口から奥に見える壁まで明らかに百メートルほど距離がある気がする。
「そっか……やっぱり大きくなってるよね?」
「私毎日使ってたからよくわからないんだけど、言われてみれば広い気がする」
明らかにこの『部屋』全体のスペースが広がっている。
ケレスやサイラスが気づいていないと言うことは毎日少しずつ広がっているのだろうか。
「あっ、じゃあ私あっちの壁にこれ置いてくる〜広がってるなら目印になるかも!」
リーチェが手にしていたお玉を持ってトタトタと入っていくのを眺めながら、俺は天井を仰ぎ見る。
「…………天井も高くない? 前まで三、四メートルじゃなかったっけ?」
「……そうだっけ?」
流石にそっちはヴァルもわからないようなのだが、明らかに天井も高くなっている。
「これは予想だけれど、ユキの魔力量や魔技の熟練度のようなものに関係しているのかも」
「アイリス、熟練度ってなぁに?」
「えっと、そうね、アイナも魔技が一つしはかないからピンとこないかもしれないけれど、使えば使うほど効果が高まるって説明すればわかる?」
「んーなんとなくわかる……かな。ユキにもらった魔技が最近使いやすくなってる気がするんだ」
「……ユキに……もらった魔技?」
「あっ、アイナっ!」
キランと目を輝かせたアイリスがアイナの両肩をガシッと掴んで前後に揺らす。
「アイナっ、貰ったって何っ!? ま、ま、まさかだと思うけれどユキってそんなことまでできるのっ!?」
「ぐぇっ、くるし――アイリス落ち着いてっ」
結局、アイリスの猛追を交わすことができず、別室で淡々と魔技のコピーについて白状させられたのだった。
――――――――――――――――――――
「えっと気を取り直して私の魔技だけど」
一旦興奮を覚ますことに成功したアイリスの魔技だが、サイラス曰くかなりエグいものが使えるらしい。
「残念だけれど、攻撃するようなものじゃないのよねぇ〜誰か実験台に……ハンナかヘレスで良い?」
「えっ、わ、わ、わたしですかっ? えっ、嫌です!」
「私も嫌です!」
ハンナもヘレスもアイリスには従順な生徒だと思っていたのだが、自分の体を抱きしめるようにしながら必死に首を振る二人。
「…………じゃあユキね」
「えっ、なんだか怖いんだけど」
「うふふ、大丈夫よ、死なないから」
死ななければ良いと言う問題でもないのだが、ちらりと周りを見ればサイラスとクルジュ、ハンナとヘレスが隅に移動して壁の方を見ながら座り込んだ。
「…………なに?」
「私はここで見てるから!」
「私も見ててあげる」
アイナとケレス逆に何故かがぶり寄りなのが逆に怖い。
ヴァルはよくわからないと言う顔でツクモと並んで近くに体育座りで待機していた。
「行くわよ? 『
アイリスが魔技の名を口にするが、その単語だけでは何が起こるか想像がつかず身構える。
――パァン
突然耳元でそんな音がしたような気がした。
「…………?」
「あらあら、ユキってば……なかなか」
「「…………!!」」
「え? なに? 何が起こっ……――っっっ!?」
何やら様子がおかしいと思って自分の体に視線を落とすと、服がなかった。
具体的には着ていた服がそのまま足元に落ちている。
「な、な、なにこれ……」
「お風呂入る時とか便利よ〜」
「ユ、ユキ……は、はいこれ……」
アイナが俺の服を差し出してくれるのを素早く受け取り一気にズボンを履く。
ヴァルとツクモは二人して両手で顔を隠していたが指の隙間からばっちり見ていた。
「……アイリス」
「なぁに?」
「なに、これ……」
「何って言われてもねぇ〜私の魔技としか〜戦いでは便利よ~」
「ユキ、実際冗談ではなく、この魔技を戦場で使われたら悲惨なことになる」
サイラスが言うのはごもっともな話だ。
範囲はわからないが、敵兵の集団の武装を……武装というか服ごと一気に脱がせるとか凶悪にも程がある。
「あれぇ? 隊長、お顔が真っ赤ですよぉ〜?」
「う、う、うるさいっ!」
「ちょ〜っと隊長には早かったですかぁ〜――ぐべっっ!?」
「ユキ、もう良いかな?」
「そっち見て良い? 服着たー?」
とりあえず服が破壊されてしまったわけではないので、上着も着てみんなに声をかける。
ヴァルはツクモに裏拳を食らってひっくり返っている。
「とりあえず、ユキ、それ、悪用だめだかんね?」
「手当たり次第とかしちゃだめよ?」
「それでなくても『千里眼』だっけ? ああいうのもあるんだし」
どうも最近『荒野の星』で俺の評価がおかしくなっている気がする。
今までそんな素振りを見せるどころかほとんど考えたこともないのに何故だ。
「じゃあ、次は俺の魔技行っとくかユキ」
「サイラスの……って、一応どんなのか聞いてもいい?」
「んーなんといえばいいのだろうか。上から押さえつけるような力場が発生するのだ」
力場……押さえつけるということは重力的なやつだろつか?
ヴァルが飛んでいる時や『飛翔』のような空中に浮く系の魔法や魔技を使っている時も有効ならありがたい。
「じゃあ、ユキは確か飛べるよな……魔法でも魔技でもいいからちょっと浮いてくれるか?」
「お手柔らかに……『飛翔』」
ふわりと身体の重さを感じなくなり、二メートルほど足が地面から離れる。
この高さなら落ちても問題ないだろう。
「では行くぞ……『
「――ぐぇっっ!?」
一瞬の出来事だった。
さっきまで空中に浮いていた俺の身体が突然地面に引き寄せられ、潰れたカエルのように床に押しつけられる。
「ぐっ、ぐぎぎぎ……っ!」
そしてそのままメキメキと背中に重さを感じ、床に押さえつけられる。
先程食べた食事が危うく腹から戻りそうになった時フッと背中に感じていた重さが消えたのだった。
「大丈夫か?」
「あぁ、うん、ちょっとびっくりしたけど大丈夫。これ、ヴァルみたいに飛んでるやつも落とせるの?」
「うーん、狙ってやったことはないが、戦争中は何度かそんなことはあったな」
「ちょっと、ユキやめてよね? やらないよね?」
流石の俺もそこまで酷いことはしない。だが、ヴァルの性格を考えるともしかして暗にやって欲しいってことじゃないだろうか。
「え、なに、ユキユキ目が怖いよ?」
「ごめん冗談」
「今のやれというフリかと思ってました」
「シェリー…………そんなわけないでしょっ!?」
サイラスの魔技は普通に使えやすそうだし、アイリスの魔技はいざという時――相手が女性じゃなければ使えるかもしれない。
「むしろ相手が女の子の時の方がダメージでかいんじゃないかなぁ?」
「うっわ、ユキさいてー」
「アイリス先生、ユキが危険ですよやっぱり」
「俺、何も言ってないんだけど……」
ハンナとヘレスが半目を向けてくるが口元がニヤリと笑っているので、心の底から嫌われているわけではなさそうなのが救いだった。
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