130話-市街戦
俺は順調に拠点の場所を回り、合計五個のマーカーを設置し終わったところで、リーチェが合流した。
「ご飯作り終わったからお弁当もってきたよ」
「ありがとうリーチェ。俺が戻った方が早かったのに」
「んーん、こっちもお仕事だしね。アレの用意終わったんだ?」
「うん。でもこの魔技、ツクモの魔技だと一気に爆発するんだよな」
少し前、どこかの山賊から手に入れたこの魔技の実験でアジトに『
ふっと魔力が減る感触と共に、遠く離れた山中に立ち登る炎の柱。
山火事にでもならないかと心配になったがそんなこともなくすぐに火の手は収まった。
流石に街中でアレを使うわけにもいかないので、もう一つゲットした『
「あはは、あの時はちょっとびっくりしたよね」
俺とリーチェは街の中心部のような大きな広場で、遠くに見えるケレスの実家を見上げつつリーチェに差し入れてもらったサンドウィッチを食べつつお茶を飲む。
ケレスの実家というかこの街の領主館だろうが、何度見ても北欧のお城のような建物で圧巻される。
「…………見られてる?」
「ん?」
コップに口をつけようとした時、視線のようなものを感じた。
確か王国を出る前にも一度感じたことがあるものだった。
(同じやつ……か?)
「ユキ、どうしたの?」
不思議そうに顔を覗き込んでくるリーチェに、アイナと一緒の時に感じた監視されているような視線の話をすると、リーチェが耳をピンと立てて辺りの音を探り出す。
「んんー、よくわからないなぁ……人が多すぎて」
「そうだよね……『探知』にも怪しげな人は映らないし」
「どうする? シェリーちゃん暇してそうだったから呼んでこようか?」
大きな街中なので、アイナとケレスの帝国組は出さない方がいいが、ヴァルとツクモはアレの後片付けに行っている。
シェリーは一応お客さんというか居候扱いなので、手伝いを頼むのも憚られる。
「ちょっと誘き出してみようか」
「はーい」
「リーチェ、防御の魔技展開するね」
「うん、ありがとう」
俺はリーチェに物理攻撃を防ぐことができる『
「ど、どう?」
「気配が現れたり消えたりするんだけど、探知では一度引っかかった」
明らかに誰もいないであろう大きな公園のど真ん中に差し掛かった時、一瞬だけ『探知』に反応があったのだ。
同じ反応がもう一度あれば自動的に通知してくれるような機能が有ればありがたかったのだが。
「ともかく、一人いることは確定したから、あとは誘き出せないなら幻影の物量作戦で行く?」
「ここで?」
公園の広場を抜け、遊歩道のようなところへと差し掛かっているのだが、何人か住人の姿があり幻影をここで出すと驚かせてしまいそうだ。
「もうちょっと歩いて、空き地みたいなところ探そうか」
「うんっ」
そういう時リーチェが腕に抱きついてくるので何事かと思ったら「この方が怪しまれなくない?」とのことで、二人してデートのように昼下がりの公園を歩くのだった。
――――――――――――――――――――
公園を抜け、あまり治安の良くなさそうな下町に入ったあたりで大きな空き地に差し掛かる。
建物を建てようとしているところなのか、資材が積まれており人の気配はない。
「ユキ、どう?」
「多分……あの右手の大きな時計塔の上あたりかも」
先ほどまで近くに感じていた視線だったが、この辺りに差し掛かった途端近づいて来なくなった。
流石に誘き出しをしようとしているのがバレたと思うのだが、今ならまだ射程内だ。
「リーチェ、鞭貸して」
「腰につけたままの方がいいよね。振り抜いていいよ」
「了解――『
俺は一気に魔技を三つ発動させ、手を振り抜きざまにリーチェの腰にあるムチを振り抜いた。
鞭の先から放たれた魔力の塊が巨大なギロチンの形となり数百メートル離れた時計塔の屋根に立っていたローブ姿の人物に向かい飛翔する。
「……当たった」
「防がれた?」
「防いだというか跳ね返された気がする」
目に見えない魔力塊を跳ね返すとなると、単純に対魔力の魔技を展開していると考えるのが当たり前だが……。
「リーチェ、回避っ!」
兎耳がピクリと跳ね、一瞬のうちに数十メートル移動するリーチェ。
その直後、リーチェが立っていたところへ巨大な剣が突き刺さった。
「――っ!?」
その剣に俺の注意が向いた途端、背後からの衝撃に身体が吹き飛び、剥き出しの地面をゴロゴロと数十メートルほど転がり大きな木材に当たって止まる。
「ユキ!」
気づかないうちに俺の立っていた場所に現れていたローブ姿の人物に向け、リーチェが突撃するように体当たりをする。
「ぐっ!?」
リーチェの攻撃が予測できていなかったのかローブ姿の人物が低い声を漏らすが、その場で一歩も動くことなくリーチェの体当たりを耐えた。
サイラスほどではないがかなりの巨大で、頭に被ったローブは不自然な形に盛り上がっているので、どうやらツノが生えている亜人種のようだ。
体当たりをしたリーチェだが、男に触れ途端その身体が描き消える。
「ちっ、幻影か……」
「はやっ!? 『
物理障壁を展開し、後ろに飛び退きながら『収納』から長剣を射出するも、その男は難なく障壁を破り飛翔してくる剣を巨大な片手で叩き落とした。
「巨大化!?」
一瞬でその身体ほどの太さへと変形した腕のせいで男のローブの肩口から裂け、筋肉質な肩を覗かせる。
「ふはは、なかなか面白い攻撃だが、まだまだだなぁ!」
まるで力比べをしてみろと言わんばかりに、今度は男の背後に多数の火球が出現する。
「させないっ!」
俺の背後から飛び出したリーチェが『身体強化』を発動させながら、男の真上まで飛び上がり『収納』から巨大な柱を雨のように降らせる。
「ふんっ、邪魔だ小娘!」
広場にあった資材の柱を『収納』へといれて落としたのだろうが、何百キロあるのかもわからない物量を男は難なく避けるとコマのように巨躯を回転させ、回し蹴りで地面に突き刺さった柱を破壊する。
「――『
街中で炎系の魔技を使うわけにはいかず、凍結の魔技を発動させる。
「――ッッ!?」
魔技の発動と同時に魔力が男の足元に渦を巻き、足先ら一瞬で凍り始め数秒で頭の先まで氷に覆われたのだった。
「……ユキ、大丈夫? なんだったんだろうね」
「リーチェ、『部屋』に入ってて」
「えっ」
「多分魔技だと倒せない……ごめん、アイナとケレス呼んできてくれないか?」
「わっ、わかった!」
魔法抵抗力とでも言えばいいのだろうか。この男には魔法や魔技の効きが悪い。
ケレスやヴァルと模擬戦をした時にも感じたことだが、やはりそういう魔法や魔技が効きづらい体質のような雰囲気がする。
実際、分厚い氷に封じ込められ氷柱の中に埋まっていた男の足元はすでに氷にヒビが入り始めていたのだった。
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