131話-決着
「一体何者なんですか? どうしていきなり俺たちを?」
思った通りすぐに粉々に砕かれた氷を蹴り飛ばしながら何もなかったかのような素振りで、男は首をコキっと鳴らすとゆっくりと俺の方へと近づいてくる。
「何者……か。俺に勝てたら教えてやろう。あと攻撃してきたのはそっちだからな?」
「……そういえばそうでしたね。では貴方を倒して状態を聞き出しますっ!」
俺は身体強化を使い、男の懐へと一気に踏み込むと同時に足裏の土を魔法で一気に押し上げ、男の顎をめがけて拳を振り上げる。
「――おっと。なかなか、センスは悪くねぇな」
「それは……どうもっ!」
反撃とばかりに片腕を振りかぶり身体の中心めがけて飛んでくる男の拳を、後ろに回転しながら避ける。
そしてその勢いを乗せてたまま、男の胴体めがけて『風の矢』をぶっ放した勢いで着地する。
放たれた矢はやはり男のローブを突き破ったあたりで消滅しており、蚊に刺されたときのように指でポリポリと擦る。
「恐ろしく硬い……やっぱ物理攻撃しか通じない……」
「ほ〜? アホでもなさそうだな…………だが、これは防げるか? ――『
男の姿が描き消え、次の瞬間俺の頭の直上に男の巨大化した腕が現れ、隕石の如く俺の頭めがけて襲いかかってくる。
「防せがなくても勝てます――『
身体強化の効果が間も無く切れるという寸前に横に飛び抜き、自分が立っていた地面に全力で穴を開ける。
男はあっさりと穴の中へとロケットのように飛び込み、穴の底からダイナマイトが岩石を崩すような音が響いた。
「たしか『収納』に……あった」
使うまいとは思っていたが魔技の効果が薄いならこれぐらいしか手はないと、シェリーが作りヴァルから没収したアレを穴の上から一箱投げ込んだ。
ぎっしりと火薬が詰まった真っ黒の棺桶が穴の奥へと落下していくのを眺め、俺はその場からなるべく距離を取る。
数秒後、あたりの建物にある窓ガラスを粉砕するような衝撃波と、もうもうと立ち登る土煙に近くの住人の悲鳴があちらこちらから聞こえてくる。
流石に街中でこれ以上の戦いはまずいが、これで倒せていないとなるとかなり面倒な相手だ。
「よっ…………と」
だが悪い予感ほど当たるもの。
大きくえぐれた地面の穴へとサイラスの手より巨大な指が見え、直後に男が飛び上がりジャリっという着地音と共に俺の目の前へと現れる。
「……硬すぎる」
「はぁぁっはっはっはっ! おもしれぇ! お前おもしれぇなぁぁぁっっ!! いいぜ、全力でかかってこいやぁっっ!」
男はローブを脱ぎ捨ててきたのか、初めてその風貌をはっきりと確認できた。
サイラスより少し背は低いが、身体中にまとった筋肉の量が尋常ではない。
真っ黒な革で作られたズボンに泥だらけになった白シャツとジャケットのような服。
どちらも穴だらけのボロボロになっており浅黒い筋肉が見え隠れしている。
そしてどす黒い赤色のような髪に、頭の両端からは悪魔のようなツノが天に向かってそそり立っていた。
こういう物理特化のような手合いが一番面倒で、倒しにくいがそうも言ってられない。
衛兵などが駆けつけてくる前に、全火力で倒す。
時間をかけすぎてアイナとケレスが来てしまうと、相手がこのアイアンマンのような男相手では街が半壊してもおかしくない。
「おら、いっくぜぇぇぇっっ!」
男が突然構えもなく、拳を振りかぶりロケットのように突入してくる。
俺は迎え撃つように
カイルの時に使ったものよりさらに凶悪なフォルムの
だが、この時点で男の振りかぶった腕は俺を射程に捉えており、今迎撃してもかなりのダメージを受けてしまいそうな距離まで迫っていた。
「くっ、間に合えっ! 『』!!」
「あめぇ! 『
「ちょっと待てぇぇぇっっっ!!」
男の腕が俺を捉えようとした瞬間、超大音量の声が響き男は殴るターゲットを無理矢理にそらす。
だが俺の銃から発射された魔力弾は、男の両肩と腕、脇腹を抉り、背後に高く積み上げられた資材を爆散させ勢いを殺すことなく空へと飛んでいった。
対する男が放った腕は俺の足元へと着弾すると、その衝撃で地盤をめくりあげ信じられない範囲をクレーターへと変化させたのだった。
――――――――――――――――――――
「いててて」
「いってぇ……」
足元には俺の攻撃をまともに受けた男が脇腹を押さえながら転がっていた。
「なんで攻撃逸らしたんですか?」
「ああっ? なんでってお前……」
話の途中で男の視線が俺ではなく、辺りを見回すようにキョロキョロとしていたことに気づく。
先ほどの声の主……と言ってもケレスの声だったので俺もクレーターの底で空を見上げる。
すると俺の頭上に腕を組んだケレスとアイナがこちらを見下ろしていた。
「「ケレス……」」
「…………え?」
なにやら今、男とセリフがハモった気がした。
「ちょっとユキ……大丈夫?」
「アイナ……ありがとう」
アイナが軽やかにクレーターの底へと着地すると俺の手を取って立ち上がらせてくれる。
隣にはケレスも着地してきたのだが、目が完全に座っており腕を組んで頬をぷくっと膨らませていた。
「ケレス……もしかして……」
「もう、ほんとに……やめてよ……何やってるのよバカ親父……」
ケレスは胸の下で腕を組んだまま、心底イライラしているという様子で『親父』と呼んだ男へ近づく。
「『
「ちょっ!? ケレス! 待って待って!」
突然腕を振りかぶり、明らかにトドメを刺そうとしているケレスを必死に止める。
「ユキ……こんな傷だらけになって……ごめん、ごめんね」
ケレスが顔をペタペタと触ってくるが、実際俺は頬と手首に少しかすり傷がついているだけで何も怪我はしていない。
「そっちの……人の方が重症なんだけど……腕とか穴開けちゃたし」
「大丈夫、そんなんじゃ死なないから」
「ケレスっ! ケーレースー! よく帰ったなぁっっ! こんなにっ! こんなに立派になってぇっっ!」
地面に半分頭が埋まっているお父さんとやらに視線を向けると、突然バネじかけの人形のような勢いで起き上がりケレスへと抱きついた。
「ぎゃぁぁっっ! さわんなぁっっ! 」
ケレスは魔技まで使い父親を殴り倒すが、殴られた方は心底嬉しそうな顔で再びケレスへと突撃していく。
だがケレスの方も心の底から嫌がっているというより、お互いジャレついているような雰囲気がしているので止めなくてもいいかなと、落ち着くまで下手に口出ししないことにした。
「ユキ、ほんと大丈夫? リーチェに聞いてヤバいって思ってすぐに飛び出してきたんだけど」
「うん、魔技がほとんど通じなかったから焦ったけど」
「グリムス辺境伯と一対一で戦ってかすり傷だけって、ユキも大概凄いね」
「やっぱりケレスのお父さんなんだ」
「あは、そうそう。ちょっと溺愛しすぎなお父さん。一応帝国での個人としての実力は最強なんだよ」
「……お父さんってあんな感じなんだ」
ボソッとリーチェが零すのが聞こえてきたので「アレは普通ではないと思う」と一応フォローしておく。
アレを見て両親を探すことを諦めてしまっては流石にまだ見ぬリーチェのご両親に申し訳なさすぎる。
なぜか殴り合いのガチンコバトルのようなものを始めたケレスとグリムス辺境伯を見て、小さくため息をついたのだった。
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