07-VerseⅡ

090話-次の目的地は

エイミーとミラと話し合い、結論から言うとエイミーは『荒野の星』に残ることになった。


森人族ハイエルフの寿命は結構長いし、ゆっくり考えることにしたの」

「でもエイミーって18歳だよね?」

「18歳だよ? あっ、そういう意味では人間とはちょっと違うんだ」


「違う?」

「そ、森人族ハイエルフは1つ歳を取るのに10年掛かるんだ」


「……へっ……? えっ? じゃぁ、エイミーって180さ――痛っ」


 頭をコツンと……普段のエイミーからは考えられないような強さでデコピンを食らってしまった。




「そんな種族だからかなぁ……皆のんびりしてるというか……時間に対して適当というか……んーそんな感じ」


 人間で考えると数分経過してしまったことに対してあまり何も思わないようなものだろうか。


 そして長年探していたはずのミラも、森に戻る時は声をかけてくれとあっさり城へと戻っていった。




「つまり……戦争が終わって10年探してたって言ってたけど、俺の感覚だと1ヶ月ちょっとって感じなのかな」


「あー……そうだね、多分そんな感じだと思うよ」



 エイミーが普段からのほほんと、のんびりとしているなという感じはしていたがまさか俺より150歳以上も年上だとは思わなかった。

 精霊に近い種族というのも頷けるものだった。



――――――――――――――――――――


 王都での歌の公演自体は無事に終わった。


 ここまで大規模に歌を取り入れたような芸というか舞台は、王都の人たちにとっても珍しかったらしく、翌日から街で声をかけられまくることとなった。


 買い出しに行っても、食事に行っても色んなところで「歌よかったよ!」「好きになりました!」とかそんな感じで握手を求められてばかりだった。


 アイナ、エイミー、リーチェにケレス。

 四人は毎回、そんなファンの声に笑顔でお礼を返している。


 ヴァルはアイナからそんな街の様子を聞き、宿で引きこもっている。

 これなら今後歌をもっと増やしても大丈夫そうだが、課題は伴奏やダンスだろうか。




 だが並行して俺たちには道化商会ジョクラトルという前国王を神と崇め、復活を目論んでいるという組織の捜索、暗殺に逮捕という仕事がある。




「マーガレット様様だな」


 しかしそれも、エイミー捜索の時に力を貸してくれたメイドのマーガレットさんからコピーした魔技のおかげでかなり楽になると予想していた。


 彼女の探査系の魔技『後ろの狼はザートヴォルすべてを奪うク・グラービチ』。


 特定の人物、もしくは持ち主、種族など色々な条件で組み合わせて自分を中心としてソナーのように魔力を照射して位置を捉えるものだった。


 ただ『道化商会ジョクラトルに所属している』という探査は出来ないのがネックだった。

 あくまでも種族や男女、持ち物などをキーにして調べるしか出来ないらしい。


 それでも探査範囲はかなり広く、百キロぐらいは届くのではないかというほど高性能だった。

 一応俺が使えるようになったが能力向上分は『個人名の指定』だった。

 


 知っている人にしか有効にならないようなのだが、これで知り合いと逸れてもすぐに合流ができるようになった。


「あとは、捜索して暗殺、もしくは逮捕だけど……」


 なお、自分の魔技をメンバーにコピーすることができるようになったので使える魔技は六人にコピーしてある。

 これだけで戦力としてはかなり強化されていると思う。

 一般的に魔技は1種類しか所持していない。

 よほど優秀と言われている人物でも二種類多くても三種類だそうだ。


 ヴァルに至っては五種も魔技を所持している。

 はっきり言ってインフレが過ぎる気がする。





「ねーねー……ユキ」

「なに?」


 ベッドでごろごろとしながら本を読んでいたヴァルがむくりと起き上がる。

 チラリと視線を向けたことに気づかれたのだろうか。


 正直もう少しシャキッとした格好をして欲しい。

 なぜかショートパンツとキャミソールのような格好のヴァルは気怠そうにキーホルダーを指でいじり始める。


「暇なんだけど」

「……俺は暇じゃないんだよな……」


 座長としての活動記録と、ファンから寄せられた大量のお手紙への返事。

 文字を書く練習ついでに始めたと言え、これがなかなか面倒くさい。


 ファンへの返事は最後にアイナたちにサインを入れてもらうとして、次はうちの街にも来て欲しいというリクエストはどうしたらいいものか。




「あ、そこ知ってる」


 俺の背後から身を乗り出して机に広げた手紙を手に取るヴァル。

 むにむにと柔らかいものが肩に当たっているのはあえて指摘せず、ヴァルが手に取った手紙を覗き込む。




「公演依頼みたいなんだけど、どこらへんにあるんだ?」


「んとねー帝国との国境かなぁ……むしろここだと帝国側だったような気もする」


「どっちにしろかなり北だよな」

「そうねぇ……帝国のほうだとそろそろ雪降ってんじゃないかな」


「寒いのやだなぁ……」


 雪が降り出すと馬の動きが鈍るし、燃料はやたらと使うしあまりいいことはない。

 魔獣が少なくなるらしいので、メリットとしてはそれぐらいかな。




「ここね、おっきな露天風呂があるんだよ」

「…………ほほう」


 露天風呂は一度入ったけどあの時は4、5人ぐらいしか入れないサイズだった。

 あれはあれで気持ちよかったが……。



「学校のプールより広い露天風呂なんだけど、混浴だし雪見酒しながらのお風呂……あーさいこーだよね!」

「…………却下」

「ええっ!? なんでよぉっ」


「混浴なんだろ? 他の客もいるならヤダ」


「…………ねぇ」

「……なに?」


「どっちの意味?」


 ヴァルが抱きついたまま離れてくれない。

 やめろ、静かに本を読んでたクルジュがチラチラと気にし始めてるじゃないか。


「ねぇどっちの意味?」

「…………見せたくない」

「…………私を?」

「…………みんなを」

「へぇ〜〜〜〜」


 いっそ殺せ……。



 一応、六華と銀華には先行させて近くの村や街で情報収集にあたってもらっている。


(魔力さえ途切れなければ二日は稼働できるけど……)


 三日以上の長時間の稼働はさせたことがない。

 六華が言うには問題ないと思うとの事だったが、とりあえずは聞き込み調査に徹してもらうことにしている。




「ねーねー『部屋』行ってきていい? ちょっと魔技と魔術の組み合わせ実験したいんだけど」


「良いけど、家具とか壊すなよ?」

「はぁーい」


 体育館ぐらいある『部屋』はすっかり休憩所兼練習場となってしまっている。

 ヴァルのことだからまた魔術と魔技の複合技でも考えているのだろう。




「クルジュナちゃん、一緒に行かない?」

「えっ? 私?」

「そーそー。せっかくだし手伝って欲しいなって」


 ヴァルの遠慮のなさはどこから来るのか不思議で仕方ない。

 突然誘われたクルジュは助けを求めるようにチラチラと俺の方へ視線を向けてくる。


「んー……クルジュ折角だし手伝ってあげてくれない?」

「……ん、わかったわ」


 クルジュは既に本に栞を挟んでおり、最初から行く気だったようだ。


(……俺の許可とかなくても良いんだけど)




「やった! じゃあクルジュナちゃん行こっ! 『見世物小屋フリークショー』」


 魔技を「複製」だと言う表記の通り、誰が使っても同じ部屋にたどり着いてしまう。

 便利といえば便利だけど、俺の隠し部屋的な感じだったのでそういう意味では少し複雑な気もする。


「……アイナたちまだ買い出しから戻らないのかな……」


 もう直ぐお昼。

 昼からこの先の話をする予定で、全員思い思い買い物に行ったり部屋で寝ていたりしている。


 俺はため息をついてから机に転がした羽パンを手に取り、喧しいやつがいないうちに残った手紙の返事を片付けることにした。

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