091話-武器を買いに行く
「カムイの街?」
「一応の目的地なんだけどどうだろう」
翌日、全員が集まった『部屋』で先ほど見ていた温泉があると言う街を目指すと提案してみたのだが、半分ほどはその街の存在を知らないようだった。
「帝国じゃなかったっけ?」
「ケレス、そこは帝国じゃなくて王国側だよ」
どうやらクルジュは存在を知っている側だった。
「でもかなり遠いけれど、どうするんだ?」
「えっと、途中の街々に寄りつつ、情報収集、場合によっては寄り道。サイラスにはその間みんなの衣装もお願いしたいな」
「衣装か。ヴァルの嬢ちゃんも含めて五人分だな。こいつは腕がなるな」
「あと移動だけど……」
今回少し試したいことがあった。
馬車を一台にして残りは『部屋』で待機しててもらうと言うものだ。
旅自体を味わえるわけではないが、安全や環境は抜群だおともう。
「ねぇユキ、それだと馬車周りの警戒とか大丈夫?」
今までは六台もの車列だったので盗賊に襲撃されるということはほとんどなかった。
奴らは多くても二十人ぐらいの集団なので、数が多い馬車の集団は手を出してこない。
「アイナとクルジュに交代で警戒して欲しい。あとは餌代わりかなーって思ってる」
「餌?」
「エサね……なるほど」
ようは盗賊どもに襲わせて返り討ち。
情報収集がメインである。
ターゲットは人目につかないようなところに潜伏している可能性が高い。
闇に紛れ山野に隠れ住んである程度テリトリーがある盗賊たちなら存在を知っている可能性がある。
そんな奴らが襲いかかってきたら尋問して情報をゲットしようという算段だ。
今日と明日、二日かけてアンナとヴァルを中心に『部屋』へ運び込む家財一式を手に入れてもらうことにした。
何しろ十人が生活できるほどの量が必要だ。
これは個人的に俺が貰った報酬から出す予定なので、俺も個人的に欲しい物を買ってきてもらう。
サイラスは頼んでもないのに新着の衣装を色々と作りたいらしい。
「ねぇ、私達は何か用事ある?」
「えっと……今は特に無いかな……あとで『部屋』の模様替えをみんなで手伝ってくれる?」
ハンナとヘレンは昨日の夜から俺への風当たりが強い……気がする。
少し仲良くなれたと思ったのに出会った頃より好感度的なものが下がっている。
(……もしかしてクルジュのこと気づかれたのか)
二人がなにげにクルジュに対して女性的な尊敬をしているのは普段からなんとなく解っていた。
そのクルジュがぼーっとしていることが多く、その原因が俺と気づかれたのならこの反応も解るが……なんだか寂しい。
アイリスには俺の魔技のコピーのことを色々と教えたら、今日これからお城の図書室で調べ物に行ってくるらしい。
あそこの本はまだ俺もそこまで読み込んだわけでないが、アイリスは何か心当たりがあるのだろうか。
(学園長とか呼ばれてたよな……昔この国にあった魔法を勉強する学園……戦争の煽りで閉鎖されたそうだけど、やっぱりその学校のことだろうな)
「とりあえずそんな感じなので各人準備お願いします」
「ねー、ユキはどうするの?」
アイナが手を上げ……ずに、抱きついてくる。
昨日の夜からスキンシップが激しい。
理由はなんとなくわかるけれど、ハンナとヘレスの視線が突き刺さる。
「俺はちょっと用事があるんだ、夜には戻るよ」
昨日の今日だけど、一応俺たちの方針が決まったし情報共有だけしにいこうとおもう。
彼女も彼女でなるべく会いたくないが、業務連絡だし仕方がない。
ヴァルは明日、俺達と一度離れてツクモさんと合流予定なのだが、情報がちゃんと伝わらない可能性もあったので今回は『転移』が使える俺が行くことにした。
「じゃあ、みんな何あれば『部屋』集合で!」
「はーい!」
「わかったーユキも気をつけて」
「あ、宿屋でるなら、『部屋』のほうで勉強してていい?」
「あ、私もヘレスと一緒に」
「了解。今から行く? それとも最初はアイリスと?」
「先生と図書館に行ってからにするから、ヴァルさんにお願いする」
そういうことで、俺は一人別行動となった。
とは言ってもちょっと行ってすぐ帰るつもりなので近くにいるなら一日もあれば帰ってこれる。
あまりにも遠いなら諦めよう。
全員で忘れ物を確認し、宿を出る。
宿の前でアイリス、ハンナ、ヘレスは城へ。
残りは家具やら日用品やら食料品の買い出しとなった。
「じゃあ、俺は行くか。えっとツクモは……居た」
ざっくりとした場所しか出てこないが知っている場所なら『転移』してしまえはすぐに合流できる。
「…………移動中にしては早いな」
どうやら山の方に居るらしいが、山頂の方へ向かって移動しているような軌跡。
「ちょっとこれは……視界ギリギリに転移し続けるしかないか。ツクモさんの顔を思い浮かべて跳躍出来ればいいんだけど」
先に六華を先行させ、俺はその間に買い物をしてから向かうことに決めた。
――――――――――――――――――――
「らっしゃい! お嬢ちゃん、今日は何をお探しで?」
街中を少しだけ彷徨い、やっと見つけた武器屋。
煉瓦造りというか、石造りというのだろうか。
大きな岩をブロックに切り出して積み上げて作られたような店舗だった。
他の街々が茶色いレンガのようなものや角材で作られていることを考えると、やたらと無骨な感じの店。
何気に自分が武器を持っていないことに気づき、短剣でも買うことにしたのだ。
「あの、何か使いやすそうな短剣とかありませんか?」
もはや女に間違われていることを訂正することもなく、モヒカンのような髪型をした店員さんに質問する。
こういうのは自分で探すより聞いたほうが早い。
若干、店の壁いっぱいに飾られた大剣や弓など男心をくすぐるものが並んでいてじっくり眺めていたい気もする。
「護衛用ならこの辺だな。外で獣の解体とかもしたいならこれぐらいの剣のほうが取り回ししやすいぜ」
店員のおっちゃんが長さの違う三本の短剣をカウンターに並べてくれたので、一本ずつ手に取って確認する。
正直、長さと持ちやすさぐらいしか選ぶポイントはないので一番持ちやすい短剣を選ぶ。
「あぁ、そういえばこういうのもあるぜ」
そう言って取り出したのは、シンプルな作りの少し反り返った短剣だった。
(いや、この店員のおっちゃん、どこから出した?)
あまり意識していなかったが、何処かに手を突っ込んだ様子もなく気がつけばカウンターに剣が増えていたのだった。
「……今どこから?」
「ん? あぁ、ここからだ」
そう言っておっちゃんが何もない空間から剣の鞘を取り出し、カウンターへと並べた。
「えっと……収納?」
「そうだ。こんな商売してるせいか、うちは親父もじいちゃんもこの魔技を持ってるんだ」
ニヤリと笑みを浮かべるおっちゃん。
「凄いですね! 私も旅をしているので収納には助けられてます」
「おっ、嬢ちゃんも収納系なのか! 商売人以外で同じ系統持ってるやつなんて珍しいなぁ! 嬢ちゃん、父ちゃんか母ちゃんが商人なのか?」
なぜかおっちゃんに頭をグリグリと撫でられる。
見た目は粗暴そうなモブという感じなのだが、やたらと愛想はいい人みたいだ。
「いえ、そういうことではないんですが、旅人ですね」
「旅人ねぇ……お、だったらこういう使い方知ってっか?」
おっちゃんがカウンターから出てきて、俺の隣に立つ。
そして先ほどまで立っていたカウンターの方へ向き、その何もない石壁に向かって手をかざした。
「…………?」
「『
おっちゃんが魔技の名前を口に出すと、頭の横付近から剣の先がニュッと顔を出した。
『収納』は自分で手を突っ込んだり、道具側を出したりできるので、おっちゃんは後者の出し方をしているようだが……。
「行けっ!」
刀身の半分ほど『収納』から現れた剣は、おっちゃんの声に合わせ止まることなく弾丸のように射出されカウンター奥の石壁へ突き刺さったのだった。
「どうよっ!!」
「おぉ……カッコいい」
「おっ、わかるか!? いきなり敵に襲われた時とか便利だぜっ!」
正直どこかの金ピカの王様かと思ってしまう使い方だが、いざという時に便利だなというのが正直な感想だった。
「どんな剣でもできるのですか?」
「収納系なら、剣でなくても岩とか一度中へ入れて、取り出すときに勢いをつけりゃいい」
「なるほど…………」
使い方によっては本当に『武器庫』のように使えるというわけだ。
「じゃぁ真っ直ぐな剣もっとください。あと矢もいくつかもらえれば!」
「おっ毎度あり! だが嬢ちゃん、魔力切れには注意するんだぞ? いざというとき魔力がなくなって取り出せなかったら大変だからな」
「はいっ、わかりました」
「あと、知ってると思うが、中に入れてる量で勝手に魔力が吸い取られていくんだから、あまり入れすぎると何もできなくなるから気をつけろよ? これぐらいなら大丈夫だと思うが……」
その情報は初耳だった。
いままでそんな感覚は微塵も感じなかったので、俺の魔力が大きすぎるのかそれとも俺の魔技が特殊なのかもしれない。
(……後者かな)
結局ロングソードを十本、矢を五十本ほど購入した俺は、全て『収納』へと放り込み、おっちゃんに礼を伝えて店を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます