128話-首狩兎
その日も毎日続く哨戒任務の最中だったんだが、今日はご褒美が手に入った日だった。
何しろグリムスの森を横切る街道から女が二人徒歩で歩いてきたのを見つけた。
色々とヘマをして領主より厳罰を受け、その後も街外での任務を言い渡された。
だがごく稀にこういうご褒美があるため今の仕事に不満はありつつも野良犬のように日々街の周りを回り続けていたのだった。
仲間のの二人には最初は共犯という枷を嵌めていたが、すでに俺の言いなりで狙いは主に二人組など少人数の行商人や旅人。
商会の行商人は連絡が取れなくなると必ず捜索が入り足がつきやすい。
だが二人組なんかは少し離れた村から、特産品や農産物を売りにきている村人なのだ。
魔獣が闊歩する平地や森を向けてくるためたとえ行方不明となったとしても大規模な捜索が行われることはなく、証拠の隠滅が容易なのだ。
そして今日。
久しぶりに来たのはなんと少年と少女の二人組。
一人は男だと名乗ったが、これだけ可愛ければ色々と気にはならないだろう。
しかももう一人は兎人族。
感度がよく大層いい具合だと言われている一族で最近は見かけることも、見かけたとしても手を出すことを固く禁じられているのだ。
俺は二人組を見かけた時、昂ぶる感情を無理やり抑えつつ街への動向を申し出た。
男の方が少し訝しがっているようなそぶりを見せたのだが、問題なく詰所へ連れてくることができた。
だが、男の方が詰所までは大人しく着いてきたのに足を止めた。
「おっと、そこで待っていても仕方ないだろう、中に入るといい」
「いえ、ここで待ってますので」
「一雨来るかもしれんし、この辺りは森から魔獣が飛び出してくることもあるんだ。お茶でも出すから入りなさい」
俺はいつものようにそう声をかけると、ちらりと兎人族の女に目配せをするとやっと歩き始めた。
俺は逃げられないようにと二人組の後ろからついていく。
先に入った二人は、魔封の手枷と猿轡を用意して入り口を入ったところで準備をしているはずだ。
俺たちの常套手段。
相手がスキルを持ってようとも魔封の手枷をはめてしまえば何も怖いことはない。
その上で大声をあげれなくすればあとは次の交代の時間まで思い切り楽しむことができる。
女の方は体は小さいが胸と尻はなかなかいい感じに育っている。後ろからあの耳を持っていたぶれば大層気持ちいいだろう。
男の方は歯を全部抜いて楽しめるか。ディックならそのままでも遊ぶかもしれんがあいつに遊ばせると使い物にならなくなるまで遊ぶのがめんどくさい。
最後は金目のものをいただいて、おもちゃは壊して床下の穴に放り込めば終わりだ。
女の方は隠し部屋のほうか、別荘の方でしばらく飼ってもいいかもしれん。
そんな妄想を膨らませていると、突然森の方で落雷のような音をしたのでそちらに視線を向けると白い煙が見えた。
「落雷だな。やはり一雨来るかもしれんから急ぐといい」
「……わかりました」
男と女はそのまま疑うこともせず、先ほどよりも早足で入り口へと向かっていく。
あと十歩。五歩。一歩。
扉に手がかかり、キィと木戸が軋み手前に開かれると男が先頭になり詰所へと足を踏み入れた。
よし遊ぶか!
俺はニヤリと口角を歪め、後ろに続く女の背中をドンと押し、詰所へ押し入るように足を踏み入れた。
――――――――――――――――――――
俺は詰所の入り口の手前で『
その瞬間、俺とリーチェを包み込むように『夜の
『夜の
俺が使った場合、自分ともう二、三人まで対象にして姿を隠すことができた。持続時間は微妙だが、『幻影』と入れ替わるためにつかうならこれで十分だ。
「落雷だな。やはり一雨来るかもしれんから急ぐといい」
「……わかりました」
姿を隠した俺とリーチェに気づかず、リーチェが作った二人の幻影の後ろをついて詰所へと入っていく兵士を眺める。
その間に俺とリーチェは扉横の壁へと張り付き中の様子を探ることにした。
「お二人さん、残念だったな」
詰所へと入った途端、先に入っていた兵士が俺の幻影の腕をとって中へと引っ張り入れて床へ転がし、リーチェの幻影を後ろから入ってきた兵士が羽交い締めにした。
「へへっ、大人しくしてりゃ気持ちよくしてやるよ」
兵士は詰所の扉を乱暴に閉じると、リーチェの幻影の両手に魔封の手枷を嵌める。
そして俺の幻影の両足にも魔封の足枷をつけられたようだった。
「……なかなか手慣れてるよね」
「ユキ……大丈夫かな」
魔法の発動を妨害する効果が付与された魔封の鎖だが、すでに発動中の魔法を消すような効果はない。
幻影に対しては少し効果が微妙で、体内に魔封の鎖が入り込むと幻影が霧散してしまう。
だが身体の表面に触れているだけだと幻影はしばらくは消えることなくもつ。
「どしよっか。俺幻影だとしてもあんな奴がリーチェの体に触れているの我慢できないんだけど」
「もう首を刎ねればいいんじゃない?」
しれっと恐ろしいことを言うリーチェは半眼で笑みを浮かべながら腰のムチをキュッと握る。
「流石になぁ……兵士殺しちゃまずいんじゃない?」
「でもあいつ私の胸揉んでる」
「よし殺そう」
「はい、もう死んだよ」
「…………」
リーチェが鞭を手にしてバシッと振った瞬間、詰所の中からゴトリと音がして直ぐに物音すらしなくなったのだった。
――――――――――――――――――――
「な……んで、俺の体……が……?」
俺は後ろから羽交い締めにした兎人族の胸を触りながら、床に引き倒された男の方が猿轡をはめられているところを見ていた。
服の上からでも感じる胸の感触は思っていたより大きく、これはなかなか楽しめそうだと考えていた。
だが突然激しく視界が揺れたと思ったら床が抜けたような衝撃を受け、目の前に俺の身体が立っていたのが見えた。
その体には頭がなく、首から真っ赤な血が噴き出しているのが見えたと思ったら急速に眠さを感じ唐突に意識が途切れたのだった。
――――――――――――――――――――
「やっぱりリーチェのそれ怖い」
「それよりユキ、ちょっと私のこと後ろからギュッてして?」
「いいけど……こう?」
「うん」
リーチェが腰のベルトに鞭を戻しながら自分の胸を両手で隠すようにして、俺に背中を向けて立つ。
リーチェのことを羽交い締めにしていた兵士も、詰所にいた残り二人の兵士もすでに頭と身体がおさらばして床に転がっている。
俺は後ろからリーチェを抱きしめるようにすると、リーチェはお尻についた小さな尻尾をピクピクと動かすようにもぞもぞとする。
「ふぅ、これで上書きできた」
「触られてたのは幻影だよ……?」
「やだ。ユキ以外は幻影でも触らせない。あ、女の子とサイラスは別ね」
一瞬サイラスの首も胴から切り離される危険があるのかと思った。
リーチェの鞭。
あれは単純にリーチェが昔、アイナに「これどう?」と買ってもらったものらしいのだが、護身用としても鞭は使いづらいとずっと箪笥の肥やしだったそうだ。
リーチェはその鞭を使い、俺が手に入れた『
この『
剣を振る強さで魔力が飛び出るスピードが変わる。
そして武器を振った先にいる生き物へと向かい飛翔するのだ。
だが魔力の塊だけではどれだけ魔力を込めても相手の頭を潰すのは難しく、せいぜい脅しにしか使えない。
通常は剣で使う魔技だが、鞭で試してみても問題なく発動したのだ。
鞭という武器の特性上、鞭先を叩きつけると剣を振りかぶったのと同じ判定がされるようで、剣に比べとんでもないスピードで魔力塊が発射されたのだ。
あとは俺が使うことで強化された能力としては『魔力の形を変える』という特性。
リーチェはこの特性で魔力を刃の形に変え男たちの首を刎ねたのだった。
「でもこの魔技、一番便利だよね」
「なにせ音がしないからな……」
炎系や雷系、水系の魔法や魔技はどうしても音がする。
風系はほとんど音もなくかなりの距離から攻撃ができるので使い勝手はいい。
だがこの『
魔力の塊なので壁もすり抜ける。
デメリットとしては遠くまでは飛ばないということぐらいだろうか。
それでも外から壁越しに屋内にいる人間の首をスパンッと刎ねることができるので、使い方によってはかなり強力な魔技とも言える。
俺の腕の中でリーチェが身体を押し付けてくるのだが、リーチェのうさ耳をキュッと握る。
「耳だめっ……んっ」
「ごめん、耳触るのダメっていうのつい忘れちゃう……とにかく先に後片付けしちゃおうよ」
血で真っ赤に染まった詰所を眺め、ため息をつくのだった。
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