093話-銃撃?

 ツクモさんを追いかけている地竜を拘束した直後、何者かの攻撃により地竜があっさりと死んだ。

 そして今度は俺とツクモさんが身を隠していた木の幹に同じ攻撃が当たり、木がえぐれる。

 しかも今度は二連続で音が遅れて聞こえてきた。




「ツクモさん、ついてきて!」


 俺は『猫の反乱コーシカ・ヴァスターニエ』を発動しツクモさんをお姫様抱っこで抱えると、木々の間を縫うように音が聞こえてきた方向へと向かい走り始めた。



 多分……としか言えないが、先ほどの音は銃撃音だと思う。

 テレビなどでしか聞いたことが無いので確証はない。


 しかしこの世界に銃があるなんてことは聞いたことが無い。




(……と、いうことは)


「ユキ様っ! ユキ様ぁっ! わ、私も降りて走りますっ!」

「大丈夫――見つけた……!」




 遠すぎてはっきりとは見えないが、空中に佇んでいる人影が一つ。

 手に長いものを持っているように見え、森の方にじっと目を凝らして何かを探しているような素振りだった。


「……『千里眼』と、ついでに『後ろの狼はザートヴォルすべてを奪うク・グラービチ』」


 『千里眼』の効果で視界がカシャっと切り替わり、空中の人影の姿がはっきりと視界に映った。




「あれは……やっぱりライフル?」


 手にしている黒光のする長物。

 実物を見たことは無いが、やはり予測した通りスナイパーライフルと呼ばれる銃だった。



 その人物はピチッとした黒スーツにズボンを身にまとっていた。

 まるでビジネスマンのような格好だが、髪色は水色でかなりの長身のようだ。


 そして一番驚いたのは……。


「…………女?」


 謎の人物の顔がはっきりと見え一瞬若い男かと思ったのだが、明らかに胸が膨らんでいた。




「ユキ様……?」

「しっ……ちょっとまってて」


 ちなみに探査の魔技のほうには反応がない。

 理由はわからないが『人間』と指定してあるにもかかわらず反応がない。

 そしてあの無表情にも見える顔。




(流石に人造人間ってことは無い……よな)


 どういう理由で俺たちを狙っているのかはわからないが、探索系の魔技にも引っかからず遠距離からの攻撃。

 俺とツクモさんは『部屋』へと入ってしまえば逃げることは簡単だろう。

 しかし逆にここでアイツを逃してしまっては、いつ遠距離からの攻撃で命を取られるかわからない。




 俺はゆっくりと腕を上げ、生茂る木々の間から狙いをつける。


「届くか……」


 肉眼だと豆粒のようにしか見えない。

 チャンスは一度しかない。


「ふー……」


 息を整えで相手の胸元に狙いをつける。


「――『影の旋風チエーニ・ヴィールヒ』……っ!」


 クルジュの魔技を放った瞬間、相手がこちらへ銃を向けると一瞬のうちに引き金を引くのが見えた。

 頭で「ヤバイ」と思った瞬間には頭の真横の木の幹が炸裂し、とっさにツクモさんの頭を押さえしゃがみ込む。




「……当たったのか?」


 空に浮いていた謎の人物に視線を戻すと、肩を押さえたまましばらくその場で佇んでいるのが見えた。




「ユキ様っ、今の攻撃ですか!? お、お怪我は……」

「大丈夫だ。一応こっちの攻撃も当たったようだけど……やばっ!?」


 しばらく動きがなかった青髪の女が突如こちらへと向け、飛んでくるのが見えた。

 そしてその手には先ほどまでのライフルではなく、マシンガンのようなものが握られていた。




「ツクモさん逃げるぞっ!」

「うわっ、ユキ様っ!?」


 今度はツクモさんを抱き上げ、肩に顔を乗せ森の中を『猫の反乱コーシカ・ヴァスターニエ』を使ったまま走り始める。




「ツクモさん、後ろ来てるっ!?」

「えとっ、あっ、来ました! 青髪の人物! 手に……何か武器のようなものを持っています!」



「それ銃っていう鉄の塊を飛ばす武器だよ! 当たれば死ぬレベルの攻撃力だから、構えられたら魔技で目眩しを!」




 木々の隙間を縫うように、茂みをかき分け地面に張り出した根に足を取られないように細心の注意をしながら走り続ける。


「鉄の玉っ? 当たれば死ぬ……ですか――だったら! 『今宵月影に踊るルナ・ルードス』!」


 ツクモさんから魔力を感じ、耳に届いていた草木や枯れ葉を踏みしめる音が少し小さくなった気がする。


「これはっ?」

「剣や矢の攻撃を防ぐためのスキルです! 通用するかは分かりませんが――っ! あっ!! 『火炎の卵インフラマラエ』!」


 突如ツクモさんが魔技を発動し、背後で大爆発が起こり森が真っ赤に燃え上がる。




 だが、背後から連続で射撃音が立て続けに聞こえてくるので、全く倒せていないようだ。


「はぁっ、はぁっ……まだ来てそうっ?」

「わ、わか……」



 ツクモさんが言い掛けた瞬間すぐ目の前の細い木の幹がドンッと爆発するようにえぐれ、木の破片が腕に当たり血がたらりと垂れてくるのがわかった。




「ユキ様っ、障壁がもうっ!」

「……まさかグレネード……的な?」


 俺の知識ではその程度しかないが、先ほどから攻撃されていることは変わらない。

 なるべくスピードを落とさず、森の中を移動しながら対策を考える。


 これはただの勘だがあいつには『洗脳』や『封魔』は通じない気がする。

 『封魔』なら鎖で物理的に拘束できるぐらいだろうか。

 と、なると、取れる手段はあまり多くない。




「使ったことないけど――ぶっつけ本番になるぐらいなら練習しておけばよかったっ!」



 俺は目の前に見えた巨木を避けず、その巨大な幹を背にして背後を振り返る。


「あいたっ!?」

「あ、ごめん」


 ツクモさんを下ろし、背後でメラメラと燃え盛る炎の向こうを『千里眼』で確認すると、何事もなかったかのようにこちらへと向かって歩いてくる人影。



「くっそ、ターミネーターかよ!」


 マシンガンを両手で構えながら走ってくるヤツは、こちらがはっきりと見えているのか、銃口が完全に俺の方を向いていた。


「これが通じるか――『永遠の終焉を運ぶものアエテルニタフィーネ』!!」




 ヴァルに口頭で使い方を習っただけの魔技だ――。


 俺を中心に小さなデリンジャーが大量に出現し、同時に体内から血液と魔力が一気に抜ける感覚がして視界が一瞬ブレる。




「――発射!!」


 俺はすかさず全弾発射を念じると全てのデリンジャーが一斉に火を吹き、真っ赤な光を纏った弾が雨のように炎の向こうへと突き刺さった。





「はぁっ、はぁっ……」

「ユキ様っ! 大丈夫ですか!? わ、私の肩に……ぐっ……どうぞ……っ」


「あ、ありがとう……助かる」



 危うく倒れそうになったところをツクモさんが身体を入れて支えてくれた。




「先ほどの魔技は……」

「まだ使いこなせていなくて……おっ」


 その時、自分がもう一体存在している感覚に襲われる。

 幻影のような移動式モニターを見ているようなものではなく、もう一人の自分がそこにいる。


 そんな不思議な感じだった。


「ヴァルに効果を聞いておいてよかった……いきなりこれだと頭が狂ってしまったのかと思うよ……」




 ヴァルのオリジナルの魔技『永遠の終焉を運ぶものアエテルニタフィーネ』は自分の血液と魔力を混ぜた弾を発射する魔技だが、副次効果も持っていた。

 相手に着弾し相手の血液と混ざると、相手に悟られないように自分の意識を相手の中に持つことができるのだ。

 俺も初めて聞いた時に何を言っているか分からなかった。

 

 最終的に『脳のパテーションを分けてるのよ』と説明されてやっと理解したのだ。

 ちなみに分ける意味は「生きているか、死んでいるか」が解るのが一番メインの使い方だそうだ。

 意識を乗っ取ることも大量の血液を注入すればできるそうだが多分俺には無理だ。



「……?」

「ごめん、多分説明してもわからないと思うから、様子を見に行こう」


 意識を作るだけで乗っ取るわけではないが、これでいつでもあいつの場所を知ることができる。





「は、はい、足元お気をつけくださいね」


 俺はツクモさんの肩を借りつつ自分に回復魔法をかけながら、炎が収まり煙を上げている方へと向かう。

 まだ奴の意識は無いようだが……警戒はしておくに越したことは無い。




「…………これが」

「一応『封魔』!」


 うつ伏せで倒れ伏している黒スーツの青髪女を鎖で縛り、枝を折ってそれで突いてみる。


「死んでますか?」

「いや、生きているな――」


「…………ぅ」


 女から小さな声が漏れ、ツクモさんが俺を庇うように前へと出て手を広げる。


「……負けたのか」

「お前は一体何者……だ?」



「……………………」


 答えが返ってくるとは思わないが女が何も言わないので、俺も口をつぐむ。



「…………シェリー」

「シェリー? それが名前?」


「そうだ……銀髪のお前を処分するのが依頼内容だ」

「やっぱり俺か」


 俺とツクモさんのどちらが狙われているのかと思っていたが、なんとなく俺かなという気はしていた。




「色々と聞きたいことがあるんだけど話してくれる? 無理なら知り合いに頼んで記憶を吸い出して処分するけど」


「話しても処分するんだろ? ならさっさとしろ」


「………………UFOって見たことあるか?」

「………………はっ?」


 身動きの取れない相手を殺す趣味はないが、仲間が危険に晒されるならそれも仕方ないとは思っている。

 だが、それ以上に気になることがあったので、あっちを知っている人にしか通じないネタを振ってみたのだが……。




「…………お前は見たことあるのか?」


 しばらくキョトンとした表情を見せていたシェリーの返事はビンゴだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る