094話-呼び捨てでいいや

 

 森で突如俺とツクモさんを銃撃してきた犯人。

 やはりこいつは『俺と同じ』だった。


「日本? アメリカ? それとも……」

「――っ!?」


 先程の返事で立場を知られたと悟った表情をした後、なぜその言葉を……という困惑の表情へと変わるシェリー。

 こんなのに引っかかるなんてまだまだだなと思いながらも、多分俺も引っかかるだろうなと内心苦笑してしまう。




「…………日本」

「そっか、じゃあ同郷のヨシミで話してくれると嬉しいんだけど」


「……………………」


 もしかしたら少しぐらいは話を聞けると思ったのだが、流石にベラベラと喋らないか。




「……取引しないか? どうせ私は戻ったところで私は殺されるかもしれない。この世界のこと教えてくれるなら情報交換でどうだ」


 若干諦めかけたとき、意外にもシェリーのほうから提案してきた。


「……なら話は早い」

「ユキ様っ!? こいつはユキ様の命を狙っていたんですよっ?」




 俺が『封魔』を解除したことに驚いて、攻撃の構えをとるツクモさん。


「大丈夫だよ。こういうのは信頼からスタートさせないと」

「…………」


「ですが……」

「で? シェリーさんでしたっけ? なんで俺を狙って?」


「……ある男に依頼されたから」

「それじゃあ答えになってないです」


「…………『ある男を殺すために俺が蘇らせた』とだけ言われ、後は戦い方を教え込まれた」



 心当たりがあるとすれば例の鎖男だが……。



「あなたは日本で死んだんですか?」

「……車に轢かれた……と思ったらここにいた。目が覚めて二週間前だ。あとはずっと洞穴で……」


「さっきの銃は君の魔技? それとも魔具?」

「神に授けられた私のスキルだと言っていた」


「その男って、さっき俺が使っていたみたいな鎖を使うやつか?」

「……いや、違うが、そいつも居た」


 なるほど。

 やはり想像通り、あの鎖男が絡んでいる。


 そして俺と同じく、日本から連れてこられこの人物に憑依させられたのか、入れ替わらされたのか。

 その辺りはよく分からないが、これが成功すると奴らは何度も同じことをするに違いない。


 そしていずれ、前国王を……?




「あの、私からも……良いだろうか。ここは死後の世界なのか?」


 無理やり中身だけこの世界に連れてこられ、ろくに常識もわからない上に「この男を殺してこい」と訓練させられていたシェリー。

 その台詞も頷けるが、なんと説明すれば良いか。




「……わかりやすくいうとラノベの世界だな。剣も魔法はあるし、ほら、こういう狐耳少女だって居る。普通の世界だよ」


 もはや何処までが普通なのかわからないが、シェリーは「なるほど……」と納得したようだ。




「あ、これで理解するんだ……」

「一応……自衛隊だったが、私自身、軍オタという奴でね、そういう話は理解できる」


 なるほど。

 そういう理由であの魔技なのかと納得してしまった。



「……銃を作り出せる魔技?」

「剣も出せた。ミサイルなどはわからないが、持ったことのある物なら……複製系……と言っていた」




「ところで、俺を殺せなかったらシェリーはどうなるんだ? さっき殺されると言っていたけれど」


「わからない……期限は三日と……今日の日の入りまでに無理なら私は死ぬらしい」




 先程のターミネーターのような状態からは想像できないような、女の子らしい感じにシュンとしてしまうシェリー。


「死ぬ……? ツクモさん、そういう感じの魔技とかってあるの?」


「ユキ様の話が全然理解できなかったのですが……特定の条件が達成できない場合、相手の命を奪うという呪術というか、呪詛系の魔技は……あります」



「それって解けるの?」

「解けません。私が居る以上、ユキ様が殺されることは無いので、そういう魔技が掛けられているのなら死ぬのはその女です」




 ツクモさんの尻尾がぶわっと広がってしまったので、頭を撫で撫でしてやると、すぐに萎むように収まった。


(面白い……)


 しかし、命令したやつは人の命をなんとも思っていないということがわかった。

 呪詛系の魔技、相手に呪いを埋め込み効果を発動させる物。


 解けないなら強制的に解くしか無い。




「なぁ、ツクモさん。ツクモ、お願いがあるんだけど」


「――っ! はっ、はい! なんでもお申し付けください!」


(なんだか昔飼ってた犬を思い出すなぁ)




「実は俺、掛けられた呪詛を解除できる魔技が使えるんだ」

「そ、そんな魔技が……さすがユキ様……」


「俺の物じゃないんだけどね……それで、確実に効くわけじゃなくて、失敗するとリスクもある」

「り、りすく……?」


「あー……えっと、リスク……なんて説明すれば良いんだ」

「……危険なこと……で良いんじゃないか?」

「危険な……いや、いやいや、ユキ様、お命を狙われたんですよ? それなのにこの女のためにご自分から危険なことをするのですか?」



「ツクモがシェリーの立場なら嬉しい?」

「嬉しいに決まってます!」


「じゃあ問題ない」

「――はっ、いやっ! そう意味ではなくて!」


「それで、失敗すると俺が数日間、子供みたいにちっちゃくなっちゃうそうなんだ。その時はお願いしても良い?」


「え……っと、子供みたいに……ちっちゃく……わ、私がユキ様のお世話を……よ、よ、よろこんでっ!」




 はしゃいだりしょげたり、表情がコロコロ変わって可愛らしい。

 先ほどまで無表情だったシェリーも何やら口元がニヤついているのが目に映った。




「……見た目は可愛いだろ?」

「見た目っ!?」

「あ、あぁ……尻尾とかも枕にすると気持ちよさそうだ」


「…………えっ」


 そう指摘されたツクモが今度はワナワナと震え出す。




「まっ、ま、まさかきさ……あなた……わっ、わたしの耳や尻尾が……えっ……」

「? 可愛い……ですよ?」


「――っ!? み、みられた……また見破られている……ど、どうして……」




 ツクモは今度は頭を抱えて蹲ってしまった。

 シェリーは眉を下げて少し困ったような顔を見せる。


(……まぁこの調子なら大丈夫だろう)


「じゃあツクモ、もしもの時はよろしく……『全てを否定すネガティオ・る女神の涙デアラクリマ』」


 シェリーに手をかざしアイリスの魔技を発動させると掌から魔力がほとばしり、オレンジ色に染まり掛けていた森の中を真っ白に染め上げた。

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