095話-預かりっ子

「ユキ様……本当に大丈夫ですか?」

「あぁ、何かあったらツクモのとこに預けるから」


「わっ、わかりました」


 シェリーに掛けた魔技は無事成功したらしく、日が暮れた今でも問題なく息をしていた。


 まだシェリーに聞かなければならないことは山ほどあるのだが、取り急ぎ鎖男のいる場所は聞き出す事ができた。


 だがすでにその場所には残っていない可能性の方が高く、今回はツクモたちにその場所へと向かってもらうことにしたのだった。


「その節はよろしくお願いします」


 俺の隣でペコリと頭を下げるシェリー。

 日が暮れた瞬間、緊張の糸がぷつりと切れたのが大泣きを始めたときはどうしようかと思った。


「わ、わかっておる……貴女もわたしの術を見抜けるほどの力量。子は為せずともいざとなれば面倒を見させてもらおう」


 そう言ってパタパタと尻尾を振りながら、少し名残惜しそうにしながらツクモさんは仲間が捜査中だという洞穴のほうへと向かっていった。


「じゃ、俺たちも帰るか」

「……は、はいっ……よ、よろしくお願いします」


「シェリー緊張しすぎ。さっきの戦ってた時のターミネーターみたいな態度は?」

「あ、あれは戦闘中だったので……それにほとんど他の人に会ったことない……ですし」


 シェリーの話を聞いていると、目が覚めたとき周りには何もない洞窟だったそうだ。

 床には絨毯が敷かれ、淡く輝いていたそうだ。


「『成功した……やはりこの方法が……』とか言っていた。意味はわからなかったがユキの話を聞いてなんとなく状況はわかったわ」


 シェリーには俺のことは仲間にも内緒にしていると伝えてある。

 一応ヴァルのことも共有済みだ。


(ここまできたら俺のことアイナたちに言わなきゃな……)


 いつまでも隠しておいても良いことは無い。

 それに犯人がやっている事の被害者というべき俺とシェリーがここに居るのだ。


 そろそろ正直に打ち明ける頃合いだろう。


「なぁシェリー、その鎖男ともう一人の男、二人しか見てないのか?」

「あぁ……ずっと入り口で私が外へ出ないように見張っていた。食事はよくわからない肉で、風呂は……入ってないから少し臭うかもしれない」



「……そうか。あとで風呂行くか。大きな風呂もあるぞ」

「そっ、それは心躍るな」


「……そういえばシェリーはどうやって飛んでたんだ?」

「どう……というのは」


「スキル……魔技とか何か道具とか……」

「えぇっと、足に……これ」


 シェリーがスーツのズボンをめくると、そこにはなにやら足枷のようなものが見えた。


「魔具……かな」

「なぁ、もしかして発信器とか付いていたりする?」


「発信器か……どうだろう。他に何か道具とかある? そもそもそのスーツは……?」


「このスーツは最初に私が作れた物だ。あとはこのブレスレットとか、このネックレスとか渡されたのだが……魔力向上とスピード強化だと言っていた」


「…………全部捨てて行こう。俺が代わりの服やら装備品は用意するから」


「わかった……当然の判断だと思う」


 俺はシェリーに毛布を渡すと「服は作れるからいい」と断られてしまった。

 木の幹の反対側へと歩いて行き、ゴソゴソと衣擦れの音だけが聞こえてくる。



「あの……身体の中とかに入れられてたりしないかな?」

「流石にあったとしても俺にはわからないんだけど……」

「それはそうか……何かこう、相手の状態とかわかる方法は無いのか?」


 あるにはあるが、状態が分かりすぎるためにあまり使っていない。


 しかしシェリーの言うように洗脳などの常時効果を与え続けるものははっきりと分かるので、一度使っておくべきか。


「一応あるからチェックするよ」

「了解。着替えてきたぞ」


 木の影から、脱いだスーツと身につけていたものを両手で持ったシェリーが出てくる。


「じゃあーー『鑑定』」


――――――――――――――――――――

名前:シェリー

本名:川端智絵里

状態:健康体

年齢:18歳

種族:■■■■■

身体:167cm/51kg/91cm/62cm/90cm/銀髪、赤眼

職業:

武器:M24A2 SWS/Type62 GPMG/89式多用途銃剣/寸鉄

魔法:元素魔法

魔技:『機械仕掛けの神デウスエクスマキナ

称号:転生者、レンジャー、暗殺者、銀の混沌

思考:やっぱり普通の人だった……しかも日本人……

――――――――――――――――――――


「特になにもなさそうだけど……そっちのアイテム類は念のため処分しよう」


 俺はシェリーの身に付けていたものを全て固め、ツクモの魔技『火炎の卵インフラマラエ』でドーンと焼き払った。



「…………豪快だな」

「これしか無いからね……」


 そこまで完了させ俺はシェリーを連れて『部屋』へと向かったのだった、


――――――――――――――――――――


「おかえ……だれ?」


 ヴァルがソファーで寝転びながら出迎えてくれた。

 流石にだらけすぎ。

 色々溢れそうだからシャキッとして欲しい。



「ま、また増えた……?」

「ちょ、ちょっとアイナちゃん!? またってどう言う事っ?」


 アイナのセリフにヴァルが突っ込むが、あいなは尻尾を振るだけでそれ以上は触れないようにしているらしい。


「こちらシェリー。すこし訳あって連れてきたんだけど、他のみんな…………は……なにあれ?」


 よくよく見回すと体育館ほどの広さがあった『部屋』の内部に壁ができていた。


 ただの石壁ではなく板まで張っており、窓こそないが普通の部屋に見える。


 だが背後はまだ真っ白い壁。

 入ってすぐのところに部屋の内部のような壁がどんと設置されていたのだった。


「シェリーさん? 私アイナ、よろしくね! こっちはヴァル」


「よろ〜! なんかねー色々とリフォームしようってことになって、エイミーとケレスとクルジュナが本気になっちゃって……私も手伝ってたんだけどね」


「この壁の向こうどうなってるの?」

「んー二階建ての家みたいな感じ」



「…………ごめんもう一度」

「普通に廊下があって階段があって、一番奥の部屋は訓練用の広場になってて結構広い」


 ヴァルの説明はよくわからない。

 結局、シェリーに一言こだわりをいれてアイナとヴァルも引き連れて奥へ行くことにした。


 大きな左右開きの扉を開くと檜の板のようなスベスベの板廊下。扉は洋風だが、壁も天井もシンプルながら純和風のような感じがする。

 廊下の壁にはランプが灯されており、一直線に長く奥まで続いている。


「ほんとエルフってこんなことでもできるだなんてすごいよね」


「えっ? これエイミーがやったの?」

「んーと、最初はケレスとサイラスが木の板をいっぱい買ってきて2つぐらいに区切ろうかって話をしてたんだけど……」


 その話を聞いたエイミーが「簡単でいいなら私ができる」と言い出したそうだ。

 その後、小さな木の苗を買ってくるとこの部屋の中央に置いたそうだ。




「あれはなんだろう精霊魔法なのかなぁ……一気に巨木に成長してね、もう一度エイミーが何か魔法を使ったら壁になってた」


「…………その間が全然想像つかないんだけど、一度材料にしたとかじゃなくていきなりこれ?」

「そーそー、いきなりこれ」


 俺は床から壁、天井を見上げる。

 全面板張りだが、えらく綺麗に……いやそれ以上に巨大すぎる。


 試しに近くの扉を開くと、なにも家具は入っていなかったが、やはり板張りの綺麗な六畳ぐらいの部屋が広がっていた。


「いい匂い……」


 新築の匂いというか檜の香りが広がっている部屋。

 これがあと十五室ぐらいあるそうだ。




「あとお風呂もあった」

「お風呂まで……」


 アイナの後ろをついていき、突き当たりの両開きの扉のある丁字路を曲がるとしっかりとした浴室があった。


 脱衣所と浴室。

 お湯を出す魔具と水を吸収する魔具が取り付けてあるらしい。


「灯りとかの魔具は全部サイラスが取り付けてたよ」


「そのエイミーたちはどこに?」

「多分奥の訓練所かなぁ、そっちは手付かずで置いてあるらしいけど」


 先ほどの丁字路まで戻り、正面の両開きの扉を開く。


「ここはそのまんまなんだな」


 そこは『部屋』そのままで白い壁と床が広がっている体育館ぐらいのスペースが広がっていた。


「あれ……広さおかしくない?」

「ユキ気付いてなかったの? ここ広がっているよ?」


 ヴァルがひょこっと顔を出して羽をパタパタと動かす。


 いや、そもそも全然気付かなかった。

 今まで真っ白い空間だったから気付けなかったと言ったほうが正しいのだろうが……。




「ユキ、あの人たちか?」


 シェリーが右端の方を指差すのでそちらを見ると、何やらサイラスとケレスたちが集まって何かをしていた。


「あぁ、あれだな……おーい!」

「……あっ、ユキおかえりー!」


 最初にケレスが気づき、手を振りながら立ち上がる。

 反対側にエイミーやアイリスたちの姿もあった。




「みんな居たのか……サイラスで見えなかった」


「おかえりなさい……ユキ、そちらの女性は?」

「あれ……また新しい奥さん連れてきたの?」


「違う…………こっちはシェリーって言って、すこし事情があってしばらく預かることにしたんだ」


「シェリーと申します! よろしくお願いいたします!」


 簡単に森での出来事を伝える事もできたのだが、全員揃っているので良い機会だ。




「シェリーのことも含めてすこし話があるんだけど、良いかな」


「ん、私は大丈夫」

「いいよー」


 他のメンバーも問題無いようなので、一旦円陣を組んで座ってもらった。

 アイナ、エイミー、リーチェ、ケレス、クルジュナ。サイラスが向かい側で、アイリス、ハンナ、ヘレス。


「ヴァルはヘレスの横に、シェリーこっち座って」

「わかった……」


「ねぇ、ユキユキ」

「その呼び方やめて……で、何?」

「なんの話?」

「地球の話」


「…………そっか、あぁ、もしかして?」

「もしかするんだ」




 とりあえずヴァルには黙っててもらって、まずはシェリーの身の上話を聞かせることにした。


「質問はまとめて受け付けるから、まずは話だけ聞いてね。このシェリーだけど、地球という他の世界の住人なんだ」


 事故で死んで魂をこの世界に呼び寄せられ、この世界の今のこの肉体に憑依させられたこと。

 今の身体の元の魂は恐らくもう無くなっていることを説明したのだった。

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