096話-転生者

 すこし不安だったが、俺が説明した魂という概念は意外にも理解された。



「仮の命を吹き込む死者蘇生や使役みたいな魔技もあるからね、なんとなくわかるわ」


 ハンナとヘレスは見たことはないがアイリスから習ったらしい。

 むしろその魔技の方が気になるが、今は話が先だ。



「それの犯人だけど、あの鎖使いだ」

「……」


「――あいつ!?」

「じゃああの鎖使いってもしかして……」

「おそらく道化商会ジョクラトルだな」



「でもなんのために?」

「ここからは俺の想像も入るんだけど……」


 道化商会ジョクラトルが前国王を復活させようとしているという話は既に伝えた通り。

 だが、それはあくまでも計画の一部に過ぎないと思っている。




「多分だけど、目的は定かではないけれど最強の軍隊とかを作ろうとしてるんじゃないかな」

「最強の軍隊……?」


 今のところ俺とシェリー……ヴァルはよくわからないが、この世界ではない人間のもつ魔技はかなり強力な部類だと思う。

 俺は他人の魔技コピーや付与が出来る。

 シェリーは物の複製ができる。

 ヴァルは相手の記憶の複製と、自分の意識の複製ができる。



 三人とも最初から持っている魔技が複製系とでも言えるような物だ。

 同じような魔技を持っている人には今のところ会ったことはないし、複製系と呼ばれるものはあるとすれば幻影ぐらいだろうか。


 強化された幻影は触れるので、ある意味では肉体の複製ではあるが……。




「ヴァル、あの道化商会ジョクラトルのハゲってさ……ヴァルが撃ち抜いて殺したやつ……あいつこの世界のやつか?」


 この『部屋』で俺を殺そうとしていたハゲ。

 ヤツはいとも簡単に仲間の幻影を作り上げていたが、あれは肉体の複製と言えるような魔技だった。




「あ、そこ気付いちゃった?」


 ヴァルがニヤリとした表情を見せる。


「封印されていたって言えばいいのかなぁ……突然大人から記憶が始まってたからおかしいなって思ってたの。色々と混ざっているような感じがした」


 あいつも鎖男が地球から呼び寄せた魂が入っているという可能性が高い。

 そうなると『鑑定』で確認した時に『転生者』という表記が無かった理由が気になる。

 本人が認識していなかったからかも知れないし、俺の『鑑定』のレベルが低かったからだろうか。

 もしくは、やつを作ったときはまだ術が完成していなかったのだろうか。




「で、シェリーは別の世界から魂だけ連れてこられ、鎖男に俺を殺すように命じられたそうだ」


「あっさりと返り討ちにされましたけれど……しかも私のことを助けてくれましたし」


 シェリーが頬を指で掻きながら苦笑して見せる。


「それで、このヴァルも元はシェリーと同じ世界の人間だ。ついでに俺もそうだ」

「え……ユキも?」


「アイナが助けてくれた時、俺記憶がないって言ってたろ? この世界の常識を一切持ち合わせていない俺に座長がそういうことにしろって言ってくれてさ」


「そうだったんだ……」

「じゃあちゃんと昔のこととかは覚えているの?」

「うん……もうあまり思い出さなくなったけれど。みんなごめん、騙すようなことして」


 俺は一度立ち上がりみんなに頭を下げる。




「ユキが謝ることじゃないよ。むしろよく頑張ったよね」


「うんうん、こっちの常識が分からないっていうのも本当だし、むしろ親の顔もわかんないのかと思ってたけど、ちゃんとお父さんやお母さんのこと覚えてるなら良かった」


「リーチェ……」


 自分の故郷や両親の記憶がないというリーチェ。

 そして俺と同じ複製の魔技を持っているリーチェ。


(多分リーチェも……昔のことを覚えていないというのは本当だろうけれど……)


 最初の方に召喚されて、その時はまだ術が不完全だったと予想すれば合点がいく。

 一度今度『鑑定』させてもらおう。





「まぁ、ユキよ、あまり気にするな。お前もそういう意味では道化商会ジョクラトルの被害者なのだろう?」


「ん……まぁそう言うことになるんだけど。今が楽しいからそこまで気にはしていないんだよね」


 経緯はどうあれ、今は楽しくやれているので奴らに恨みがあるかと言われればそこまででもない。


「じゃあユキは今の状況は何も問題無いってこと?」

「俺的にはね……」


「よかったぁ……ユキが私たちの前から居なくなるとか言われたらどうしようかと……」

「ほんと……ちょっと怖かった」


 エイミーもアイナがホッとしたように肩を撫で下ろした。

 よく見ると、ケレスとクルジュもすこし泣きそうな顔をしていた。


 これは完全に俺が伝える順番を間違えたなと反省する。




 あともう一つ気になることがある。


「……ヴァルは結局どうやって?」


「私? 私は屋敷にあった書物で知っただけだけど……昔の族長的な人が病気を治そうとして……とかそんな感じだった」


 七百年前に目覚めたと言う話は聞いていたがそれは初耳だった。


 儀式が成功したがヴァルが目を覚まさなかったのでそのまま封印したそうだ。

 それで目が覚めたのが七百年前。


 実はその当時の儀式は成功していて、そのまま眠り続けていたと言うことだった。





「ねーねー、もしかしてヴァルのその一族の、その儀式のやり方を道化商会ジョクラトルの奴らが盗んで悪用してるってこと?」


「ケレスちゃんの言う通りかもねー私もそんな気がしてるんだ。起きた時、屋敷とか荒らされていたし」


 真相はわからないがなんとなく、見えてきた気はする。

 あとは目的がはっきりすれば……。




「一ついいですか?」

「シェリー?」

「私が最後に鎖男と話した時なんだけど……」


 シェリーが初めて洞穴から出された時、俺を殺せと命じられた時、シェリーは理由を聞いたそうだ。


「あいつは『その銀髪は世界を支配する力を持っているから今のうちに始末する』と言っていた」


「世界を……」

「支配する……?」


「しないよ!」


 アイナとケレスはどうしてそんな期待を込めた目で俺を見るんだ。

 ついでにハンナとヘレスの顔が怖い。




「ともかく、奴らの目的がはっきりしないけど、俺やシェリーのような犠牲者を生まないために早い目にケリをつけたほうがいい」


「そうよね……しかもその身体……身体って言っていいのかわからないけれど、こっちの世界の誰かの身体なんでしょ?」


 クルジュの言う通り、あっちの世界の人だけでなく、こちらの世界の誰かも犠牲になるのだ。




「じゃ、結局あとの計画は変わらずってことね」

「そしたら、シェリーだっけ? 自分の家だと思……えないかもしれないけれど、気にしないで」


「そうそう、私リーチェ! よろしくね」

「私はエイミーって言います」


 そうして始まる自己紹介タイム。

 何はともあれ行動計画は変わりないが、すこし急ぎでというこが追加された。


 今日はやたらと色々あったせいか、流石に眠くなってくる。




「あ、そうだ。エイミー、改めてこんなに凄い部屋ありがとう。他のみんなもありがとう。渡してあるお金はここの改造に使っていいからね」


 見たところ家具などの家財はまだ全然無いので、しばらくは雑魚寝になると思うが馬車よりはマシだ。

 術者の俺は外で移動しなきゃならないけど、俺の部屋も用意してあるとエイミーか嬉しそうに教えてくれた。




「ユキ、シェリーさんに街とか案内する? 私たちこれから晩ご飯の前に家具屋さんにベッド買いに行くんだけれど一緒に行く?」


 アイナが誘ってくれるのだが、今シェリーが街へと向かうと色々とまずい気がする。


「顔を隠せば大丈夫かな……シェリー、こんな感じのマントとか作れる?」


 俺が以前使ったマントを『収納』から取り出してシェリーに渡すと、あっさりと同じものが複製された。

 いつのまに出てきたのか全くわからなかった。




「え、今どこから出てきたの?」

「一応、シェリーの魔技だってさ。あ、俺も使えるようになってるぽい」


 手帳をパラパラとめくると、最後の行に『機械仕掛けの神デウスエクスマキナ』という大層な名前の魔技が追加されていた。



「あれ……それって消えないの? 幻影じゃない?」

「幻影じゃ無いんだ。俺が使っているリーチェの魔技の物特化って言えばいいのかな」


「それがあれば、店で見ただけで買わずに済むってこと?」

「流石にそれは申し訳ないからなぁ……」



「でもあの家具屋さん、ベッドの在庫が二つしか無くて、全員分揃えるなら一ヶ月は待ってって言ってたから」

「それじゃあ、そこはシェリーに頼むか」


 流石に一ヶ月も待てないし、それぐらいは許してもらおう。




「全員、ヴァルとここに入ったの?」

「そうだよー。泊まっていた宿屋の裏にある小道からササっと」


「……あぁ俺は森スタートだ……ヴァル、俺のことも外に出せる?」


「多分出せるんじゃ無い? そうしないと、ここに入ったまま移動とかできなくない?」


 俺が『部屋』へ全員を入れて表で移動して、もう一度俺が出せばその場で出てくる。

 ではヴァルが外へ出してしまうとどこに出るんだろうか。



「一度やってみるか」

「森に出たら絶望だね」


 ヴァルがニヒヒと笑うが、笑い事では無い。

 そうなると、ここへ人を入れて移動ができなくなる。

 元の持ち主もやっていたので問題ないはずだ。




「じゃ、行くよー」


 ヴァルが俺の肩に手を置くと、視界がブレてすぐに見たことのない狭い路地に立っていたのだった。

 その後次々と俺の隣に出現してくるメンバー。


 出現位置の座標とか、どうなっているんだろうとか余計なことは考えないでおこう。




「よかった、成功した」

「ここが……?」

「そうだよシェリーさん、ここはこの国の首都のエイスティンっていう街よ」


 頭からすっぽりフードをかぶったシェリーが「ここが……異世界」と呟くのをヴァルが拾って何やら話し始めたのを横目に周囲を見回す。


 確かに今朝まで泊まっていた宿屋の裏らしく、すぐ横にあるこの壁と上に見える窓には見覚えがある。

 あたりは既に真っ暗で、遠くから酒場の喧騒が聞こえてくる。


 俺はアイナに引っ張られるように路地を出ると、すぐ近くにあるという家具屋へと向かったのだった。

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