085話-探し人は何処
俺はつい先日までお世話になった王城前へと『転移』すると、門の衛兵に陛下から預かっていた入城許可書を見せる。
二人組の衛兵は許可書に目を向け、俺の顔をじっと見ると「どうぞお入りください」とすんなりと通してもらえた。
「ありがとうございます」
目的は陛下と飲んだ時にお世話になったメイドのミラさん。
彼女の尖った耳は少なくとも
城の長い廊下を歩き、すれ違ったメイドさんにミラの行方を聞くとこの時間なら裏庭で洗濯をしていると聞き、何度か迷子になりながらも水場のある裏庭へと辿り着いた。
「ミラ!」
「え? あらユキ様、どうなされたのですか?」
ミラが耳をピクんとさせて洗濯物を片手に振り返る。
周りにいた他のメイドさんが「だれ?」という表情を向けてきたのだが、すぐにミラが「陛下のお客様です」と言うと全員が一斉に作業の手を止め頭を下げてきた。
皆さんに突然きて申し訳ないと謝り、ミラと二人で裏庭の隅にあったベンチへと移動した。
「ミラにお願いがあるんだけど……」
「私でだけ出来ることでしたら、お申し付けください」
「ミラは、
「……よくお気づきになりましたね」
「なんとなく予感がしたから確認しに来ただけだったんだけど、改めて見てはっきりとわかったよ」
「特に人間には見分けがつきにくいんですが……ユキ様はよく見てらっしゃいますね」
というより、
「ミラに一つお願いがあるんだ……さっき俺の仲間が舞台が終わった途端こつ然と消えたんだ」
俺は先程の状況とアイリスから聞いた可能性について包み隠さずミラへ伝えた。
「つまり、精霊魔法の痕跡を探してて欲しいと。そしてその女性……すいません、その
「…………エイミーっていう名前なんだけど」
同じ
「エイミー……もしやエイミー・エクルース……さま……?」
「ごめん、俺たちは記憶をなくして森を彷徨ってた彼女を保護しただけで、フルネームは本人も知らないんだ」
「そのエイミー……様は……も、もしかしたら行方不明になっている
ミラが信じられないといった様子でハラハラと涙をこぼし始める。
もちろん、俺はエイミーの本名を知っているが、あえて伝えなかった。
そしてミラの口から出たエイミーの本名は俺が知っているそれと一致する。
「……生きて……おられたのですね……うぅっ……」
「ごめんミラ、その可能性もあるけれど、今その彼女が姿を消したんだ。大事な仲間なんだ。彼女を探すのを手伝って欲しい」
俺が舞台に上げたせいで、仲間か敵かは分からないがその存在がバレて連れ去られたのだと思うと何がなんでも見つけ出さなければならない。
自分の浅はかさと、いざという時何もできない歯痒さに奥歯を噛みしめながらミラに懇願するようにお願いする。
「当然お手伝いいたします! ユキ様、一人メイドのものを連れて行ってもよろしいでしょうか?」
「仕事仲間? もしかして
「いえ、彼女は犬人族なのですが人探しに特化した魔技を持っております」
「――っ! ぜ、是非お願いします!」
「承知いたしました。すぐに用意いたします。 ケイ! すぐにマーガレットを呼んできてっ! 最優先!」
扉近くにいたメイドさんがミラの大声にビクッとして手にしていた籠を落としてしまうが、最優先の仕事を言い渡されたメイドさんはすぐに振り返り扉の奥へと戻って行った。
近くに居た他のメイドさんが籠を広い、他のメイドへと手渡す。
「メイ! 洗濯終わったら私の代わりに詰所お願い! 人手が足らなかったらロイから借りて頂戴!」
ミラはあたりにいるメイドさんたちにパキパキと仕事の振替と、お礼を伝えていく。
(……すげぇなぁ……やっぱりミラはメイドの一番偉い人なんじゃないか?)
「ミラ様! お呼びですか?」
ミラのテキパキとした様子を眺めていると茶髪ロングヘアーのメイドさんがミラに駆け寄ってきた。
先程ミラが言っていたマーガレットさんだろう。
聞いていた通りの犬人族のようで、頭の上からツンと尖った三角形の耳。
腰のあたりからふさふさのしっぽが生えていた。
「ごめん、マーガレット、人探しを探したいの。今すぐ」
「はい、仕事は交代してもらいましたから大丈夫です」
「ありがとう、こちらの『荒野の星』座長のユキ様からの依頼よ」
ミラに紹介され「よろしくおねがいします」と頭を下げ、焦るミラと状況をまだはっきり理解していないマーガレットさんを連れ、噴水広場まで戻ったのだった。
――――――――――――――――――――
「すいません、エイミーという
「そうですか……ありがとうございます!」
「ごめんなさい、今人を探してて」
広場ではアイナたちがまだ解散しきっていなかったファンの人たちや通行人に次々と声をかけていてくれていた。
アイリスたちは俺の幻影一体と共に宿に戻っているようだ。
「あっ! ユキ!」
「ごめんおまたせ。こちらミラさんとマーガレットさん。今回無理言ってエイミーを探してもらうのを手伝ってもらえることになった」
「…………これは」
俺が戻ったことに気づいたアイナとケレスが駆け寄って来たのでミラさんとマーガレットさんを紹介したのだが、あの礼儀正しいミラさんが俺の言葉に気づいていないような素振りであたりを見回し始めた。
「……ミラ?」
「あっ、こ、これは大変失礼いたしました。ミラと申します。……微力ながらお手伝いをさせていただきます」
「すいません、よろしくお願いいたします。ユキの……私達の大切な仲間を見つけてください」
アイナたちとの挨拶をしている間も、ミラがしきりに耳をピクピクと動かしている。
そして数秒……突如ミラがなにかに気づいたような表情になり、俺の腕を掴んだ。
「――っ!? だめっ、ユキ様! なるべく遠くへ私を飛ばしてください! 早くっ!」
「!? てっ『転移』!!」
普段の鉄面皮のような彼女がひどく焦った表情で言われ、俺は咄嗟にミラとマーガレットさんを連れ脳内に浮かんだ場所へ向かって咄嗟に『転移』を使った。
――――――――――――――――――――
慌てて転移したため、目を開くとアペンドの街を見渡せる丘の上に立っていた。
マーガレットさんは何が起こったのか理解できておらず、あたりをキョロキョロを見回しながら鼻をスンスンと鳴らしている。
突然転移してしまったので、噴水広場には幻影を向かわせアイナたちに事情を説明しておくことにした。
「はっ、はぁっ、はぁ……申し訳ございません」
「いや、それはいいんだけど、どうしたの?」
「確かにあの場所には精霊魔法……『
「『
「はい、特定の場所に居る生物から、対象人物の記憶を忘却させる精霊魔法です。これは中心ほど濃く忘却までの速度が早く、離れればその速度は薄まりますが、一度発動すると術者が生きている限り、指定された人物のことを思い出すことはありません……」
「……そんなとんでも魔法ありなんですか?」
「私達の国……エクルースでは禁呪とされております。使用したものは一族郎党全員死罪となるほどのものだとご理解ください」
「……」
「マーガレット、念のため私が魔法障壁を貴方に展開します。それからユキ様の魔技でもう一度あの場所に送り返すので、障壁が切れる前に探知をお願い。私はこの場に居ますので、探知を飛ばしたら一度戻ってきてくれる?」
「はっ、承知いたしました。対象は? 何か持ち物とかありますか?」
「ユキ様……」
「ごめん、エイミーの持ち物は何も……」
「解りました。マーガレット、対象は『二人組以上の
「承知いたしました」
「じゃぁいくわよ――fac simire――albos―soror――『
ミラが
「ユキ様、お願いいたします」
「わかった。すぐに戻るね。マーガレットさん」
「はい、よろしくお願いいたします」
俺は再び『転移』を発動し、とんぼ返りで噴水広場へと戻ることとなった。
――――――――――――――――――――
「『
転移が完了し視界が戻ってきた瞬間、マーガレットさんは手を振り上げ魔技を展開する。
マーガレットさんの手を中心にして、何やら白い魔力の塊が現れ、それが水面に物を落とされた時のようにパァッと円状に広がっていく。
目を閉じたままのマーガレットさんがその状態で目を閉じ耳をピクピクと動かし辺りを探るような素振りを見せる。
「ユキ」
「アイナ、さっきはいきなりごめんね」
「いいよ……これ探索系?」
「詳しくは解らないけれど人探しに特化した魔技だって言ってた」
アイナの後ろにやってきたリーチェが心配そうにマーガレットさんを見つめる。
そしてそれから、数十秒経過したところでマーガレットさんが「終わりました!」と報告してくる。
「ありがとう! じゃぁミラのところへ戻っていい?」
「はっ、大丈夫です」
「アイナ、皆を集めてくれる? ちょっとこの場所から移動する」
「わかった!」
マーガレットさんの捜査が完了し、アイナがケレスとクルジュナ、ヴァルを呼んでくれる。
そして全員集まると再びマーガレットさんと共にアペンドへと『転移』した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます