047話-山岳都市アペンド

「アイナ早かったね」


「うん、それよりも……」


 悲壮な顔をしたアイナの周りにみんなが集まり、アイリスも馬車から出てきた。

 クルジュナは薬を飲ませたので今日寝てれば問題はないらしい。


「それで、アイナどうだった?」


「うん……ユキの言った通りみんな死んでた。でも……」


 アイナが言うにはそれぞれが剣や包丁などを持っており、何かと戦おうとした形跡があること。

 死体は男の人や老人ばかりだと言うこと。通りに面した店を覗くと商品が荒らされてほとんど残っていなかったと説明してくれた。



「あと、どこかはわからなかったんだけど、人の気配がしたから何人かは隠れているのかも」


「アイナ、死体は新しいものだったのか?」


「サイラス……どう言うこと?」


「腐ってないならここ数日に事件が起こったと言うことだ」


 つまりすでに腐敗しているようなら、逆に事件が起こってから今まで街に訪れた人も全員がその都度殺されてしまっていると言うことだ。



「結構新しかった。多分数日ぐらいしか経っていないと思う」


「――敵の姿は?」


「殺気は特に感じられなかったけど大通りには大きな馬車の車輪跡がいくつも」


「となると、やはり大規模な盗賊団もしくは人買い専門の奴らだろうな」



 サイラスが頭をガシガシと掻きながらそう結論を出した。

 だが街を襲い男を全員殺して女子供を誘拐するなんて言う大規模犯罪が実現可能なのだろうか。戦った跡があると言うことは洗脳系では無いと思うが、強力な魔技を持った奴が関わっている可能性が高い。


「生存者の捜索と救出に行きたいんだけど、馬車ごと行っても大丈夫かな」


「ふむ……近くにまだ奴らがいるとなるとここに馬車を置いておくのは不安が残るな」


 馬車で乗り込んだところで、もし襲撃が有れば守りきれる自信はない。しかしここに馬車を置いていくのはもっと不安だった。


(座長の魔技で馬車を遠くに飛ばすか……あ、収納すればいいのか)


 果たして『貪欲な貝ペルナ・アウァールス』はどれぐらいの容量を詰め込むことができるのか。ある意味実験半分だが、なんとなく問題なく収納できる気がする。

 俺はみんなにお願いしてクルジュナの馬車だけを残し、他の馬車に積んでいる荷物から戦闘に必要なものや救急関連の道具類を取り出してもらう。




「ユキ、全部出し終わったよー」


 リーチェが両手に持った警棒のようなものをぐるぐると回しながら報告してくれた。


「リーチェそれ武器?」


「武器というか自衛用って感じかなぁ、あんまり戦えないし。それで、どうするの?」


「えっと、みんな馬車からちょっと離れてね――『貪欲な貝ペルナ・アウァールス』」


 魔技が無事に発動し目の前に並んでいた馬車が消え去り馬だけが残される。どうやら生き物は収納できないようだ。


「えっ? 消えたっ」


「ユキ、まさか収納系? いつの間にこんな」


「昨日、森の中で倒した盗賊から貰った」


「ほえー……じゃぁ、これからは荷物気にせず買い物ができるね!」


 食糧担当のリーチェが嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。ただでさえ短いスカートがひらひらとめくれ上がり目のやり場に困る。


「でも俺がいないと取り出せないから、収納するのは最低限にしておかないと、危ないからさ」


「ユキ、どんどん便利になっていくね」


「一家に一人欲しいね」


「ユキならそのうち分裂とかできるようになりそう」


 とんだ言われようである。


「でもユキ、さっき街の中の様子ってどうやって見たの? それも魔技?」


 このまま誤魔化そうとしていた痛いところをエイミーがぐっさりとえぐってくる。

 果たして同説明すれば良いのだろう。遠視だと言いうと街の中まで見れたことの辻褄が合わなくなる。


「うん……これも盗賊から手に入れたんだけど、よくわからないんだよね」


「ふぅ~ん……そっか。まぁいいっか。今はそれどころじゃないもんね」


 エイミーが口元に手を当てて頬を突いてくる。口元がにやけているので怒られるわけではなさそうだが色々と勘違いされている気がする。


「エイミー? 俺、悪用とかしてないからね?」

 

「バレないようにしなさいね?」


 エイミーは俺の耳元でつぶやくようにそう言うと「これも収納できる?」と差し出されたエイミーのリュックを大人しく収納する。

 これ以上は言い訳をしても抜け出せない沼にはまってしまうだけだ。


 ともかく、これで身軽になったのでアイリスとハンナ、ヘレスに馬車を任せて残りのメンバーは馬で街まで向かう。


「鞍も無いけど……みんな乗れるの?」


「なんとか大丈夫。それよりユキは乗れるの?」


「俺はアイナと一緒に先に走っていくよ」


 ひらりと難なく馬にのったエイミーは前に乗ってと言いたげな表情だったのだが、街の様子も気になるのでアイナと二人先行することにした。

 


「じゃあ、アイナ行こうか。サイラス、馬車の護衛よろしくね」


「おう、任せとけ。ユキも気をつけるんだぞ」


「ちょっとアイナ、ユキに怪我させたら承知しないわよ」


「わかってるって。じゃ、ユキ行こう――!」


 俺はアイナに続き『猫の反乱コーシカ・ヴァスターニエ』を使い一気に街を目指して走り始めたのだった。



――――――――――――――――――――


 門が壊された街の外壁。

 そして高く積み上げられた遺体の数々が最初に目に飛び込んできた。



「う……酷い匂い……アイナ、気配探れる?」


「うん……なんとなくだけど……多分」


「じゃあ街を一周しながら人探しだね」


「ユキ、気をつけてね……敵が潜んでるかもしれないから」


 右手に巻き付けられるアイナの尻尾をキュッと握り返し、頭をポンポンと撫でる。

 そして二人で大通りに沿って街の中をなるべく見落としがないようぐるりと一周する。


「……ひどい…………」


「アイナ、誰か生きてる人居そう?」


「まだ……なにも……」


 街の中心部と思われる大きな広場だが、そこもひどい有様だった。

 オレンジ色だったと思われるレンガはどす黒く染まっており、あちこちに散らばる遺体は野犬か魔獣にでも食い荒らされたように損傷がひどい。


「アイナ……行こ?」


「ぐすっ……ん……うん」


 商店の扉は破壊され、あちこちに商品だったよあなものが散らばっている。それがどこまでも続いているのだった。


「ここで歌うはずだったのになぁ……」


「アイナ……」


 目元を拭うアイナの手を取り、さらに奥へと進んでいく。


 そうして十分ぐらい歩いただろうか。

 道端に転がされたままの遺体の数が減っていることに気付いた。


 道にこびりついた汚れはそのまま残されており、遺体だけが無くなっているようだった。


「これは……誰かが遺体を……?」


「あっ、見つけた……けどこの気配は……」


 アイナがキョロキョロと辺りを見回し、家と家の隙間を覗き、また隣の家との間を覗き込む。


「ユキ……多分近い……けど下の方から……なのよね」


「下ってことは地下室的な感じ?」


「うん……でも入り口がわからない……どこだろ……」


「アイナ、気配のする方向とかわかる?」


「多分……あっち……かなぁ、薄すぎて見逃すところだったよ」


 アイナが指差すのは、道の先に見えている広場のような場所。その下の方らしいのだが、方向さえわかればあとはこっちのものだ。


「ちょっと待っててね――『小夜鳴オキュラス鳥の瞳・ルスキニア』」


 地面をズームアップで観察し、さらに拡大すると敷いてあるレンガが透け、その下の地面が見える。そしてそのまま下の方へと視線を向けると、不意に地面が消えて天井のようなものが見えた。


 そしてその下の方、地面の方はモヤがかかったかのように見えない。

 距離に応じて透視する物の厚さが変わるのだろうか。アイナの手を引いて地面の下を見ながら広場へと向かうと徐々に床の方まで見えてきた。



「……居た! 子供が……入り口は……あっち!」

 

 透視で見た地下室の壁にあった階段は、広場の一角にある掃除用具入れのような倉庫の方へと続いているようだった。

 丸太を組んで作られたような小さな小屋。 扉のプレートにはご丁寧に「清掃用具」と書かれていた。


「ここ?」


「多分……階段はこっちの方へ続いてたから」


 扉をそっと開けると、そこには箒やちりとりにゴミ箱などが並んでおり、いかにも掃除道具倉庫という感じだった。

 俺はアイナに視線で合図をすると、ゆっくりと中へと足を踏み入れた。

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