108話-一斉攻撃

「はぁっ、はぁっ……はぁっ……」


 腕を巨大化させたまま、回復魔法で傷を癒してから魔技を解除する。

 カイルが突き破った瓦礫の向こうを確認する前に、更に魔技を叩き込むことにした。


 しぶといだろうし、これぐらいで倒せたとは思えない。



「『永遠の終焉を運ぶものアエテルニタフィーネ』――!」


 カイルが起き上がる前にヴァルの魔技を起動する。

 俺の使える魔技の中で、唯一「魔力が吸われるな」と感じるほどの魔力が集まり銃の形状を形作りはじめる。


(これ絶対シェリーの影響だろうな)


 俺を中心として出現したのはデリンジャーのような小さな銃ではなく、明らかに長い砲身をもつ回転式拳銃リボルバーだった。

 六つの薬室チャンバーを持つ20センチ近い真っ黒い銃。


 それぞれが意思を持っているようにその銃口をカイルのいる方向へと向け、カチャリと撃鉄ハンマーが動く。


「――発射ファイア!」


 そして俺の合図で十丁の回転式拳銃リボルバーが廊下へと向かって火を吹いた。

 それぞれが一拍ずつタイミングをずらしているため連続して聞こえる小さな爆発音。

 

 銃口から飛び出るのはヴァルが使ったときのような血のような色の弾道ではなく、銀色に輝くレーザーのような光線だった。

 銀線が着弾するまで一秒も掛からなかっただろう。

 瓦礫に着弾した瞬間、廃坑全体を揺らすような地響きと巻き上がった砂埃で一気に視界がゼロになる。




 天井が崩落したかのような音だったので、攻撃が当たっていなくてもダメージは与えられた気はする。

 だがこの視界の効かない状態で攻撃されると不味いと思い、俺は結果を確認すること無く最初にたどり着いた上のフロアへすかさず『転移』したのだった。


――――――――――――――――――――


 俺が最初に開けた地面の穴から煙のように砂埃が噴き出している。


「はぁっ……ふぅ……」


 フラグは立てたくないが『永遠の終焉を運ぶものアエテルニタフィーネ』の攻撃と、その後の崩落で倒せたような気もする。


だが――。


「『後ろの狼はザートヴォルすべてを奪うク・グラービチ』…………やっぱりなぁ……」


 付近の生き物の位置を確認すると、俺のすぐ隣……この場合下のフロアだろうが、はっきりと一つの反応が見えてしまった。


「どうするかな……このままもっかい潰すか……『御山の怒りミネラ・ミラ』」


 念には念を……と自分に言い聞かせながら、反応のあるあたりの床を一気に崩落させる。

 そしてぽっかりと開いてしまった穴から六華と銀華を突入させることにした。


『質で勝てないなら数って感じだな』

『火はまずいからやめとけよ六華』


「銀華もな。あと、シェリーの魔技は危ないから使うなよ?」

『分かった分かった』


 床に空いた穴から見送ってから、俺は奥の部屋に寝かされたままの男の確認をすることにした。

 ギィと軋む木の扉を押し開き、部屋の様子を確認するが、匂いなどは特におかしな様子はない。


 男の周りにいくつか置かれて居る小瓶を一つ手に取り、近くに落ちていた蓋を閉めて『収納』へと放り込む。

 あまり見たことはないのだが、小さな香水が入っているようなサイズだがデザインは何の装飾もない無骨な瓶だった。

 匂いも感じないし何も入っていない。

 それが部屋の中に数個転がされており、念の為他の瓶の中身も確認して回るがやはり何かが入っているものは一つもなく、ただの空き瓶のようにしか見えないものだった。



――――――――――――――――――――


「ねぇ、ユキ……の幻影さん?」

『その呼び方なんかやだ……』


 アイナとヴァル、それとユキの幻影の三人は街から南に下った林にある誰も住んでいないと言う廃屋の近くから、建物を見張っていた。


『ユキでいいよ……同じだし。呼びにくいなら霰華センカとでも呼んで』

「センカ……でも意識は違う人間……というか、別なんだよね?」



『説明しにくいけど、基本同じだよ……リアルタイム……えぇっと、なんていうか近くにいると同じ人間みたいだけど、離れていても行動できるというか』


 ユキの幻影は先ほどから幻影の仕様についてアイナと話をしているのだが、うまく言葉にできずヤキモキしていた。




「アイナちゃん、つまりリアルタイムでシンクできるマスターとスレイブみたいな感じだよ」


「……ヴァル、それ何語? 全然わかんないんだけど」

「だよねぇ〜……ユキユキなんて言えば良い?」


『だからその呼び方もなんかヤダ……えっと、つまり近くにいる限りは俺と本体が同じものを見たり感じたりしていて……体が二つになってる感じ。離れて居るときは近づいたときに共有される感じって言えばわかる?』


「ユキ様の幻影はほんと素晴らしいですね……まさか私の一族と同じようなのものを作り出せるなんて……」




 アイナとヴァル、ツクモとユキの幻影――霰華センカが見張って居る廃屋は小屋のようなサイズではなく、石のレンガを積んで作られた小さな屋敷のようなサイズだった。

 真っ暗闇の中、木々の間から漏れ落ちてくる月明かりに照らされた廃屋に人の気配はない。


 廃屋の周りにも藪が茂っており、ここに誰かが来ることなどあるのだろうかと疑ってしまうほどの廃墟っぷりだった。




「う〜よくわかんない……」

「例えばアイナちゃんが、霰華センカ……だっけ? とちゅーするとするじゃん?」


「えぇ……し、しないよ? していいの?」

「例えばだよ。そして今夜宿に戻って霰華センカがユキ本体に戻ったら、その瞬間ユキが『アイナの唇柔らかかったなぁ』って理解するって感じよ!」

「…………ヴァル」


「ひうっ!? な、なんですか隊長!」

「…………なんでもないっ!」


 もはや見張りをして居るというより女三人が姦しく話して居るだけのような雰囲気なのだが、アイナたちの居る場所は廃屋近くに生えていた樹齢何百年もありそうな巨大な樹木の天辺付近の枝の上である。




『でもヴァル、近くにいるならリアルタイムで共有できるぞ』

「へぇぇ……じゃあこの距離なら? いま街の反対側なんでしょ?」


『んー流石にこの距離だと「いる」ということぐらいはわかる程度かなー……あ、誰かと話してるぽい』



 流石に数十キロ以上離れており、なおかつユキ本体が地下へと入っている今は、霰華センカの感じられるのは所詮その程度の感覚でしか無かった。




「隊長が使う幻影系の魔技もこんな感じでしたっけ?」

「んあ? あ、あぁ、そうじゃが……わしのは魔技じゃないぞ?」


「あれ? ということは種族的な?」

「…………ま、まぁな。あまり話せないがそんなところじゃ」


『妖狐の分身……尻尾一本で一人とか?』

「なっ、な、な、なんで分かるんですかっ、ユキ様っ! あと言わないでくださいぃっ!」


 一族が何百年、何千年と守ってきた秘術はユキのもつ厨二的な知識だけで言い当てられ続けられ、ツクモは涙目になりながら霰華センカの胸をポカポカと叩く。



「そういう事かぁ……天狐なんですか? 飯綱たん? もしかして九尾とか? そんなちっちゃいのに巨大狐になれるんです?」

「ヴァル…………お主いっぺん死ね――」


 このままでは長年一族が守ってきた秘密が白日の下に晒されると感じたツクモは、始末しやすい獲物に狙いを定めたようだ。



「ひっ、冗談ですよ隊長〜そんな牙を剥き出しにしなくても……」

「やかましい! 貴様が口走ったことは全て我ら一族の秘密じゃぞ!?」


「で、でもユキや私とかシェリーちゃんの故郷では当たり前の話ですし! ある程度の人なら一般常識ですから――あぁっ、隊長落ち着いてぇぇ!」




 ツクモの周りに青白く光る狐火が灯り、ゆらゆらと漂うようにヴァルの周りを浮遊し始める。


『ツクモ止めろ。ほら、ここ座れ』

「――ユキ様っ!?」


 あと数秒でヴァルのレアステーキが完成しそうだったところに霰華センカが声をかけた。

 ツクモは膝の上に座れと言われたことを理解した途端、大きな狐耳をピンッと立てて、嬉しそうに霰華センカの隣へと移動するツクモ。


 そして霰華センカに指定された太ももの上にちょこんと座ったのだった。




『ツクモ……部下の視線とか気にならないのか?』

「それはそれこれはこれです!」


「うぇぇ……あぶなかったぁ……」

「ヴァル……やられるの分かってるのにどうして煽るのよ」


 幼女のような見た目の上司というだけで、ヴァルとしては十分揶揄う理由ではある。

 小さな生意気な子供を揶揄うぐらいの感覚だった。


「とりあえずツクモもヴァルも静かにね?」

「は、はいっ!」

「はーい」


 何故かツクモはユキのことは言わずもがなだが、アイナに対して妙に礼儀正しい。

 猫と狐という種族的な何かだろうかと妄想しながら、ヴァルは全員分のお茶を『収納棚』から取り出したのだった。

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