133話-アイナの家族は
「わっ、私のことを……それにリンデって……」
昔の記憶が無くなってしまっているリーチェ。
その記憶の手がかりは意外すぎるところからもたらされたのだった。
「お母さんっ! リーチェ、記憶がなくなっているの!」
「ええっ!? それ本当?」
「うん、何か知ってることあったら教えてほしい!」
「あっ、あのっ、私からもお願いします!」
「かなり昔の話だけれど、わかったわ。私の知っている範囲だけれど」
クレスさんは今から公務があるらしく、知っている情報は手紙に纏めてくれるそうで、夕方に取りにくることとなった。
リーチェは嬉しさ半分不安半分という感じだった。
何かを察したのか隣のアイナがリーチェと座る場所を変わり、俺の隣にリーチェが来る。
「ユキ、こんな偶然ってあるんだね」
「リーチェは怖くない? その、昔を思い出すの」
「えへへ、実は結構怖い……大怪我して倒れていたんだし」
「ん、そうだよね……昨日も言ったけど一緒に手伝うけどもう無理だって思ったら言ってね。前だけを向いて生きていく選択肢ってのもあるんだから」
「うん……そのときはちゃんと言うね」
「…………ユキ、飲むか?」
「辺境伯……流石にそれは」
空気を読めていないのか、少し置いてきぼりを食らったようなグリムス辺境伯がどこからかワインの瓶を取り出して机の上に置き、即座にクレスさんに殴られる。
その後、グリムス辺境伯からこの街へと来た理由を聞かれたので色々と説明をして協力を仰ぐこととなった。
「あいつら害虫のように気づかないところで巣食ってやがるんだ。一網打尽にするなら協力させてくれ」
「ありがとうございます。実はこの街にある拠点五箇所には罠を仕掛けたのですが他に奴等の拠点があるかどうか調べていただくことは可能でしょうか?」
「なるほど、じゃあ後で場所だけ教えてくれ。うちの持っている情報と照らし合わせよう」
グリムス辺境伯も
影でこそこそと表に出られないような奴らに武器や奴隷を売り渡している。
王国との戦争も
「あ、それはそうと親父、表にいた哨戒していた兵士だけど、よりによってユキとリーチェに手を出したわよ」
「……あ?」
ついでに思い出したかのように門外での話をしたケレスにグリムス辺境伯は腹の底から低い声を出す。
「そいつらどうした」
「リーチェが始末したって。いまルミネックスのツクモって子が対応してくれているらしいんだけど、揉めたらお願いしてもいい?」
「任せとけ。俺の義理の息子と娘になるってのに、手を出したことは死ぬまで後悔させてやる」
「もう死んでるわよ……」
「息子……」
「義理の娘……」
なんだか変な表現だったが、奥さんが沢山いる場合親側から見ればそう言う表現であっているようだ。
ついでにいつの間にか息子呼ばわりされてしまっていた。
「あぁ、そうか。じゃあ面倒に巻き込まれたら俺の名前を出してくれて構わない」
「お手数おかけします」
その後クレスさんと夕方に改めて時間をもらう約束をし、俺とアイナ、ケレスにリーチェは一度『部屋』へと戻ることにしたのだった。
――――――――――――――――――――
「はー……疲れたぁ〜」
「いやぁ、久々に家に帰ったわ」
四人で『部屋』へと戻った途端、エントランスのソファーへぐったりと座り込んでしまうケレスとリーチェ。
「ご両親に会いたくなさそうだったのにごめんねケレス」
「ん? 大丈夫よ〜ユキが親父に一発かましてくれたおかげで話が早かったわ」
「ううーん……俺から攻撃しちゃったんだけど結果的に良かった……って感じ?」
「親父って基本的に強い奴に対しては話が早いんだ。それ以外はもう大変よ……だからこの辺で親父の一つ下ぐらいって言われていた男爵のところへ嫁に行かされる予定だったんだもん」
つまりあのお父さんとまともにやり合えるのが、その男爵ぐらいしかおらずケレスは家を飛び出したと。
なかなか行動的と言うかなんというか。
「なんか……すごい豪胆なご両親だよね」
「あはは、そう?」
「依頼が終わったらアイナの家にもご挨拶行かないとね」
グリムス辺境伯のせいでなし崩し的にケレスの家にお邪魔しちゃったけれど、とりあえず今は
なるべく短期間で一気に捉えなければならないので、アイナの家の件はもう少し後になりそうだ。
「ねぇ、アイナ。私が言うのもどうかと思うんだけど、大丈夫かな」
「実はかなり心配してる」
「アイナ、ケレス、どう言うこと?」
「ほら、帝国に戻ってるってバレちゃったし。アイナのお父さんと弟さんの事だし……妹さんは大丈夫だったの?」
「やめてケレス……考えたくない」
「え、なに? なんだか怖いんだけど」
「ううーん……だ、大丈夫。ユキは私が守るからね」
「え、まって、そんな感じなの?」
まさかまたしてもグリムス辺境伯のような実力至上主義な人なのなのだろうか。
それにアイナに弟と妹がいるのは初耳だった。
「アイナの家……えっと、これ言っていいの?」
「いいよ、どうせ知られることだし」
皇帝の懐刀と呼ばれているアールト公爵家。
その当主アールト公爵……つまりアイナの父だが、グリムス辺境伯とは違う方向で面倒らしい。
「妹さんのと付き合った人だっけ? 誘拐して拷問したとか」
「知っている限り二人よ。あと拷問じゃなくて監禁?」
公爵家の令嬢とお付き合いするからにはそれなりの名家の男の子で当然それなりに護衛は常についている。
だが、そんな彼らをアールト公爵は自ら誘拐して監禁したことが三度あるらしい。
「監禁して……拷問?」
「んん……ある意味拷問? 私なら死んじゃう」
「学問とか体力とか、ありとあらゆる試験を出されるらしいよ」
「若い子に突きつけるには可哀想よあの試験は」
アイナの説明によると、帝国の公爵家という立場もあり後継になる可能性の相手なので、学問武芸それぞれに秀でていないと並んで立つことも許されないそうだ。
ケレスの家は辺境伯という事で、王国側から攻められた時の盾の役割を持つ。
そのためやはり戦いに強い相手しか認めない方針らしい。
「ま、まぁ、大丈夫。なんとかするし頑張る」
「う〜やっぱりうちは行かなくていいよぉ〜王国に戻ったらそっちで暮らすか、このまま旅続けようよ〜」
「アイナがえらく後ろ向きなこと言っている……めずらし」
「だってぇ……親には別に会いたくもない……ことはないけれど、そういうことを考えるとユキが大変な目に遭うのわかってるから……さ」
「それでもいつかは通らなきゃならない道だし、いざとなれば逃げてもいいけど、やっぱり最初は正攻法で頑張ってみるよ」
「で、でも……」
二人のことだけではないが、将来を考えると逃げるのは最後の手段に取っておくべきだ。
ぶつかってダメならその時に考えよう。
「ほら、アイナもケレスも夕方まではゆっくりしよう。リーチェは戦って汗かいただろうしお風呂行っといで」
「うん……ユキも行こ?」
「あっ、じゃあ私も行くー」
「えっ、ズルいっ、私も!」
「えっ俺も!?」
結局そのままリーチェとケレスに腕を引かれ、そのまま部屋に戻ることもなく俺は風呂場へと直行させられることとなった。
夕方ぐらいにもう一度ケレスの家にお邪魔してクレスさんから手紙を預かって、明日の朝には街を出ていよいよ帝都へと向かう予定だ。
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