006話-添い寝

「どうしよう……」


 食事を終え、全員と簡単な雑談の時間を過ごした俺は、この馬車で寝るよう座長から言われた。


 馬車と言っても寝袋サイズぐらいの小さなベッドはあるし、すごく綺麗に整頓されている。



(すごいいい匂いがする……)


 問題は俺の隣でスースーと寝息を立てている女性、エイミーさんだ。


 最初はアイリスさんの部屋でという事になったのだが、急患が出ると起こされてしまうということでエイミーさんの部屋で一緒に寝ることとなったのだ。




(俺、ずっとこのままなのか……)


 随分と眠っていたせいか、緊張のせいか眠れる気がせず時間だけが過ぎていく。


(一体俺はどうしてこんな世界に……)



 日本で死んだ記憶はない。

 この世界に転移したとしても、姿形がまるっきり違っている。


(精神だけこの世界に……? もしかして日本での人生は全て俺の夢……?)




 いろんな考えが頭の中をぐるぐると巡るが結論は出るはずもなく、モヤモヤとしたまま時間だけが過ぎていく。



(いや、今判明している事実だけを受け入れよう)


 わかっていることは、ここが異世界で、いい人たちがいて、俺は暫くそこにお世話になる。


 俺は中学生ぐらいの女の子のような可愛い姿になっている。

 髪は銀髪でショート、瞳の色は赤色。

 身長は150あるかないか。


 それが今の俺にとって全てで、それ意外は何もわからないし考えても解決しない。






「眠れない?」

「……すいません寝過ぎていたせいで」


 小さな声がして隣に視線を向けると、布団にくるまっているエイミーさんと目が合ってしまう。


 髪を下ろしたエイミーさんは、まるで物語から出てきたお姫様のような可愛さだった。


 エイミーさんは顔を持ち上げ、尖った耳をピコピコと動かしながら心配そうな視線を向けてくる。 


「眠れないならこっちくる?」


 そういって、自分のシーツを持ち上げて隣をぽんぽんと叩くエイミーさん。

 アイナさんほどじゃないが、それなりにスタイルの良いエイミーさんの胸元から色々と零れ落ちそうになっている。


「――っ!? い、いえ、大丈夫です」




「……不安な時や、寂しい時は人肌があった方が安心するよ?」

「いえ、でも流石にそれは」


 座長からも他の世界のことや年齢のことはバラさないほうがいいと言われている。

 だがいくら見た目が女の子にみえる少年でも、流石に中身の年齢を考えると色々とまずい。


 

 この部屋にお邪魔した時からエイミーさんはお姉さんが弟を甘やかすように、あれこれ世話を焼いてくれた。

 一緒に寝ようと言うのもその一環だろうと自分に言い聞かせ、必死に断り文句を考える。



「ん……じゃあ、私がそっちで一緒に寝てもいい?」

「えっ……いや……その」


 結局うまい断り文句が思い浮かばずあたふたしていると、布団を出てシャツと短パン姿のエイミーさんが俺の布団へと潜り込んできてしまった。




「あの、俺ずっと寝ていて、今夜も体拭いただけだから……汗臭くて……」

「暖かい……。ユキくんって細かいというより……心配性?」

「……そういうわけでは……ないのですが」


「言葉遣いも硬いし……」

「それはみなさんが、と、年上なので……むぐっ」


 エイミーさんにギュッと頭を包み込まれ、胸元に顔を抱き抱えられる。




「あまり気を張っていると、気持ちが疲れちゃうから……せめて寝るときぐらいは楽にしなさい。ね?」


 エイミーさんは弟に言い聞かせるような優しい口調でそう言った後、子供を寝かしつけるように背中をポンポンと叩き始める。




「私も……初めはそうだったな……でも……みんないい人たちで……ここに居て良いんだなって気持ちが理解して……」


 目を閉じながら昔を思い出すように話すエイミーさん。


「それからは気持ちがとても楽になって……だから……ね? ユキくんもゆっくりで良いから……」


 そこまで口にした所で背中を叩いていた手が止まる。

 少し顔を上げ、エイミーさんに視線を向けると、スースーと寝息を立てていた。


(……寝ていたところを起こしちゃったし仕方ない……けど、これ動けない……)




 結局俺はその後しばらく、エイミーさんの柔らかい腕に抱かれたまま悶々とした時間を過ごしたのだった。

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