104話-温泉街ロマリ
「硫黄臭い」
「温泉って感じだな」
夕方ぐらいに到着したロマリの街は、街というより町と村の間ぐらいかな? というぐらいの規模だった。
「イオウ……ってなぁに?」
街の入り口から一台の馬車と十数人で歩きながら、ヴァルとエイミーが話すのを聞きながら中心部へと向かう。
盗賊団から助け出した二人はすっかりヴァルに懐いており、ヴァルが両手で手を繋いで歩いている。
「う〜ん、なんだっけ、成分?」
「それでいいと思うよ。二人の家ってどの辺?」
「もっと街の……あっちの端の方。畑のそばです」
街の中心部は温泉街というか宿や商店街並んでいるのだが、外周のほうは農家が多いらしい。
彼女たちの家もそのあたりで、農作業をしているときに拐われたそうだ。
「自警団とかに話した方が良いのかな」
「どうだろなぁ、捜索お願いしてるとしても両親が報告してくれると思うぞ」
サイラスとしては家まで送り届ければ十分だと言うので、ヴァルとアイナについてきてもらうことにした。
残りは宿探しに向かってもらうことになった。
残ったメンバーで『部屋』に入れる人がいないので、宿屋が並ぶ通りの入り口で待ち合わせということにした。
意外に魔力を使うようなので、アイリスあたりには使えるようになってほしいが、魔技をコピーできる相手の制限を考えると無理な相談だった。
クルジュあたりに頑張ってもらうしかないだろう。
――――――――――――――――――――
二人を送り届けた俺とアイナにヴァルの三人は、リーシャとエヴァの両親からお礼として頂いたジャガイモとサツマイモのようなものを両手一杯に抱えて宿へと向かっていた。
「ねー、うちの上司が見えるんだけど」
そう言えばヴァルにはここで合流するって言ってなかったなと思いながら、ヴァルが指差す方向を見る。
通りの左側、何かの露店の前にあるベンチでパンをかじりながらキョロキョロ辺りを窺っているツクモの姿があった。
ああやって見ていると迷子の子供にも見えなくはない。
「あっ、ユキ様ぁ〜っ!」
三人で近づいていくとすぐに俺たちに気づき、嬉しそうに手を振りながら走ってくる。
「隊長がすっかり恋する乙女に……ユキさんがぱねぇっす」
「……やめろ」
まるで俺が落としたように言われるのは不本意だ。
両手で抱えていた野菜をすべて『収納』へと放り込んでから、ヴァルの頭の羽をグリグリと引っ張る。
「……なんじゃ、ヴァルまで居たのか」
「居ましたよっ! …………にひひ」
「悪いものでも拾い食いしたのか?」
「いやー隊長、ユキとの旅は楽しかったなぁ〜って思って」
「――ふっ!」
「ぐぇっ……っっ!」
ツクモの低い位置からの肘打ちが見事にヴァルの脇腹へ突き刺さり、潰されたカエルのような声を出して蹲るヴァル。
「それよりお主、四日前に合流するというからアウスを置いてきたのになにやっとるんじゃ!」
「うっ……い、色々ありまして……ユキに頼まれたら断れないですよぉ〜」
「……うっ……な、なら仕方ないの……」
俺は特に何か頼んだことはないのだが……あの二人の世話なんて先日からだし……あ、クルジュへの歌か?
心当たりはないとも言えないが、下手なこと言うとまたしても街中でバトルが始まりそうなので黙っておくことにした。
「それにしてもツクモってどっちが普段の言葉遣いなんだ?」
最近俺と話すときはかなり普通なのに、ヴァルと話すときなどはちょっと偉そうな話し方をしている。
見た目が幼女なせいで全く偉そうには見えないのだが。
「そ、それは……」
「ユキと話すときは乙女な感じで頑張ってますよねぇ〜」
「ヴァル!?」
「あ、普段が素なのか」
「うっ……そ、そうです……ユキ様が言うなら直します……」
「ごめん、ちょっと気になっただけだから。それで、どんな感じ?」
「はっ、それがですね……」
ツクモたちは三十人のチームで首都から北上しながら最初から心当たりがあった付近を捜索していたらしい。
「三組ほどの盗賊団を潰して合計二十人ほど捕らえたのですが、そのうち一人だけ
「まぁ大物はそんなすぐには尻尾はみせないか」
全容が謎に包まれているのでどれぐらいの人数がいるのか分からないが、その中で怪しげな儀式をしている連中が今回のターゲットだ。
だが、誘拐グループや武器密輸グループの関係者であっても捕まえられるならそれに越したことはない。
「それで、このロマリ周辺にそれなりの規模のアジトがあると聞いたのです」
「俺たちもそれ目指してきたんだよ。場所とかわかる?」
「なんとなく目処はつけているのですが、どれが正解なのか分からないので一つずつ潰すしか無いかと思っています」
この街から少し離れたところにある廃屋。
山の方にある旧炭鉱。
街の端にある貴族館の一つ。
いずれも怪しげな人間が出入りしているのが確認されているそうだ。
「怪しい人間が出入りしてるってどうやって調べたの?」
「はい、人の歩いた形跡を調べることのできる魔技持ちが居まして」
「なるほど……でも貴族の家なんて不特定多数が出入りしてるんじゃないの?」
「それが殆どの足跡が裏口からの出入りでして、表からは殆ど人の出入りがありませんでした」
この街にある宿屋街の先にあるらしく、どこかの貴族の別荘として建てられたものらしい。
「全て的外れの可能性もあるのですが、しかし全てが正解という可能性もあります」
「つまり俺たちも合流して同時に制圧をしたほうが良いということ?」
確かに逃げられることを考えるとその方が早そうだが、人数的に大丈夫だろうか。
戦えるメンバーは俺、アイナ、ケレス、クルジュ、サイラス、シェリーと、六人しか居ない。
ルミノックスはツクモとヴァルの二人に、一緒に戦っていたという三十人ほどのメンバー。
それだけ居るなら『荒野の星』が六人の参加でも大丈夫だろうか。
「ルミノックスの他の人たちが到着するのは?」
「四日ほどお待ち頂ければ二十人は増やせます」
「私が迎えに行こうか?」
ヴァルが飛べば早いが、それなら俺が同行した方がこの街までは早く戻れる。
「ユキ様、ご協力いただけるのはありがたいのですが……」
「でも、隊長。多分先輩を百人増やしたところでユキが一人で戦った方が強いよ? 隊長だと十人ぐらい束になってギリギリじゃない?」
流石にそこまでは実力は離れていないと思うけれど、ツクモは「確かに……」と頭を抱え始めた。
俺とアイナ、ヴァルとツクモで井戸端会議のように道端でこそこそ話すのもどうかと思ったので、人通りに紛れるように歩きながら話す。
「それにほら『荒野の星』ってアレじゃないですか。私たちが束になって突撃するより、アイナちゃんたちがペアで突入してもらった方が早いですよ」
「アレって何……? というかアイナ、そうなの?」
「んーどれぐらいの規模かも分からないけれど、室内戦で五十人ぐらいなら二人で倒せるけれど、あの鎖使いとか出てくると怖いなぁ」
逆を言えばあのレベルが出てこないなら二人で制圧もできるということだが、さすがに俺もそれは心配だ。
「俺たち『荒野の星』で二拠点、ツクモとヴァルのペアで一拠点でどう?」
「え〜隊長とペアは……せめてユキが来て欲しいなぁ〜」
「俺……か」
相手が何人いるかも分からないが、俺の場合は正直一人で突入した方が早そうだ。
最悪は『洗脳』で全員傀儡にしてしまえば終わりなので、他のメンバーが一緒にいると一緒に『洗脳』されてしまう。
「アイナ、いつもはどんな感じの組み合わせなの?」
「うーんと、私とケレス、サイラスとクルジュナってのが多いよ」
アイナとケレスはどちらも突入して片っ端から切り捨てるタイプ。
クルジュとサイラスは、サイラスが敵を止めている間にクルジュの遠距離狙撃だそうだ。
「じゃあ、こうしよう」
アイナとケレスにツクモを加え、近距離チーム。
サイラスとクルジュにヴァルを加て、遠距離チーム。
そして俺はソロ突入。
それぞれの魔技を考えるとこれが一番バランスが取れそうだ。
「確かに戦いやすさでいけばそうだけど、今回全員倒しちゃっていいの? 裏取りとかどうする?」
「あっ、そうか。無関係な人だったら大惨事……というか俺たちが犯罪者だ」
アイナの指摘はごもっともだった。
怪しい場所というだけでそこが奴らの寝ぐらとは限らない。
「では、裏取りは私たちの方でやらせてください。まもなく何人か到着するはずなので」
「じゃあ、それで行こうか。ヴァルとアイナも裏取りを手伝ってくれる?」
「はーい」
「もちろん」
ツクモたちの中で鑑定系の魔技が使えるものが何人かいるらしい。
アイナとヴァルも俺の『鑑定』をコピーしてあるので手分けしてその三つの場所の捜査をするということとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます