087話-記憶を取り返す
「んー……っと? 純潔の
「ちっ、ちがっ……」
「あぁ……なるほどねぇ……こっちかぁ……重罪人なんだねあなた……」
ヴァルが読み取った記憶の内容をゆっくりと吸い出し、説明を始めてくれた。
もともと死刑を待っていた
国が滅びたゴタゴタで逃げ出し、各地を転々としていたところに人買いから「純潔の
男は各地を移動しながらかつての同胞を探し、ついに首都でその姿を発見した。
(純潔の
「それで、最初は私を狙っていた……と?」
ミラが鋭い殺気を放ち男を睨みつける。
狙われたことに対して怒っているのか、自分が純潔だろうと思われていたことに怒っているのかわからないが、俺も身震いしてしまいそうな殺気。
近くに居たマーガレットさんとアイナは頭の耳がへにょっと垂れてしまうほどのものだった。
「ひっ……かっ、勘弁してくれっ、も、もうやらねぇ……だから命ばかりは!」
そしてミラを誘拐する隙を狙い半年近くが経過した頃、予想外の場所で別の獲物を発見した。
それがエイミーだった。
ミラを捕まえるには相当の覚悟を決めなければと準備していた男だったが、見つけた獲物は一度だけ姿を見たことがある見知った
その彼女が目の前にいた事で、男は今しかないと禁呪を発動させ自身の魔技でエイミーの存在を消し連れ去ったそうだ。
「それで? その人買いの素性は?
「んーそこまでは記憶にないわね……記憶を消されたか本当に知らないかどっちかよ」
「わかりました……では、この男を斬首して陛下にかけられた術を解くとしましょうか」
「ひっ、いやだっ! やめっ、やめてっ」
声を出すことしか出来ない男はいろんな液体を流しつつ助けてくれと懇願を続けるが、ミラは助けるつもりはないようだ。
術を解くためには殺すしかないと言う話だし、すでにエクルースという国はないが王女誘拐の時点でどちらにせよ死罪だろう。
『ユキ、アイリスが殺さない方がいいって』
せめて俺が責任をとって男を始末しようとミラからナイフを受け取った時、銀華から声が届いた。
「みんなちょっと待ってて」
『アイリスの魔技を使えば、もしかしたらエイミーの精霊魔法を解除できるかもって話だ』
ミラから聞いた話を、銀華が宿に戻ったアイリスたちに説明して、アイリスからの提案だそうだ。
(アイリスの魔技……ってなんだっけ)
『そこまでは聞いていないけど、とりあえず全員つれてそっちへ向かうよ』
そのセリフの直後、ごっそりと魔力が抜ける感じがして目の前に現れる銀華とアイリス。
後ろにはサイラスとヘレスにハンナも居る。
「全員集合か……アイリス、エイミーにかけらせた精霊魔法を解除できるって?」
「えぇ、聞いた説明通りならたぶん……やってみなくちゃわからないけれど」
「それってリスクは……?」
「りすく……って?」
「あ、ごめん、何か危険があるとか、失敗したときにアイリスに何かがあるとかきそう言うことはない?」
「…………」
あるんだ。
アイリスが黙り込んでしまい、何やら言いかけては言葉を飲み込むアイリス。
「アイリス、どっちにしろ犯人のその男を倒せば効果はなくなるから、その気持ちだけ受け取っておくよ」
「それがそうでもないの。もしかしたらなんだけど、その精霊魔法は術者が死んでも効果が切れない可能性もあるわ」
「それは……失礼、私はミラと申します。アイリス学園長殿……今のは本当ですか?」
「学園長……?」
「ミラさん……それは昔の話しで今は『荒野の星』にお世話になっているただの魔法の先生よ」
「た、大変失礼致しました。それでその効果が切れないというのは」
「私も昔そういう文献を目にしたことがあるだけなのですが、過去に何度か報告されているようです。原因はわかっていないようなのですが、どちらにせよ術者を殺しても術式が解除されない場合、元に戻す術はありません」
「そんな……」
「それで、アイリスの魔技なら元に戻せるってこと?」
「それも分からないわ……」
「アイリス、失敗したらどうなるんだ?」
もし失敗の代償がアイリスの命とか重いものなら、俺は決断を迫られてしまうだろう。
術が解けなかった場合、男の命を経つ。
それでも解けないなら、なす術はなくなる。
その場合、エイミーが一方的に『荒野の星』のメンバーのことを知っている状態となってしまう。
みんなのエイミーに対する記憶がゼロの状態から付き合いが始まってしまうのだ。
それはあまりにも悲しい。
可能性にかけるならアイリスに試してもらい、男を殺すという2度チャンスがある方がまだマシなのだが……。
「もし……失敗すれば……その反動で……私が小さくなるわ」
「…………小さく……なんだって?」
「私が2日ほど子供になっちゃうのよ……」
「よし、アイリス頼んだ!」
「ユキ、ちっちゃい先生は大変よ? 子守任せていい?」
「……失敗しなきゃいいんだろ?」
「そ、そうだけど」
エイミーの術を破る。
失敗すれば子守……?
ぶっちゃけリスクは無いに等しい。
子守なら俺がやれる。
それでエイミーの術が解ける可能性が上がるなら安いものだ。
「アイリス、頼む」
「わかったわ」
アイリスがリーチェの膝の上で眠ったままのエイミーの元へと向かい、その傍らに膝をついて座った。
膝枕をしているリーチェやアイナ、クルジュも固唾を呑んでじっとその様子を見つめる。
「この子がエイミーちゃん……待っててね……『
そしてアイリスが魔技を使った途端、俺は目で見えていた世界が割れたような錯覚を覚えてしまった。
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