020話-可愛いは正義らしい
カーミラさんの店で、声を拡張するための魔具を手に入れた俺たちはその後、鍛冶屋へと向かい大道芸で使うためのナイフを何本か購入した。
そして帰りにあった古着店で座長に何枚か変えの服を買ってもらったのだった。
「……服屋さんにまで女に間違われた」
「ははっ、それは仕方ないさ……もっと髪短くするかね?」
「そうですね……それもいいかもしれません……でもさっきの服屋さん、最後にプレゼントだって女の子向けの服を突っ込まれたんですけど」
とはいうものの、女に間違われるほどのこの見た目は少し気に入っている所もある。
やはり美女は得なんだなと実感することが何回かあったのだ。
(声をかけてくれる人、初手でみんな優しいしな……)
俺は着替えの服と、無理やり入れられた女の子向けの服が入った紙袋を両手で持ち、座長と並んで通りを歩く。
この後、昼ごはんを食べたら二回目の公演なので少し急ぎで宿屋へと向かっているのだが、道すがら何人もの人たちに声をかけられる。
それは昨日の公演を見てくれた人たちばかりで、今日も楽しみにしてますという好意的な物ばかりだった。
サイラスはなぜか小さい子供たちに大人気で、座長以上に母親に手を引かれた小さい子に声をかけられたりしていた。
(この大きさだもんな……)
今の俺の身長からだと視線の目の前が腰の少し上なのだ。
小さい子供からしてみれば動く山だろう。
「良いですよねこうやって感想もらえるのって」
「あぁ、やっていて良かったと思う瞬間だね」
ニカッと笑う座長にサイラス。
喜ぶ二人を見ていると俺まで嬉しくなってくる。
――――――――――――――――――――
「ユキついたぞ。食事はもう少し先だと思うから着替えてきなさい」
「座長は?」
「私とサイラスは馬車から荷物を運んでおく」
「わかりました」
俺は服の入った紙袋を手に、地下へと向かう。
地下へと薄暗くジメっとした石階段は、通路はこんな雰囲気だが奥にある大部屋は案外過ごしやすい。
俺は階段を下りきり、ドアを開ける。
――ガチャ
「ただい……ま」
「――っ!?」
完全に油断していた俺は、室内に広がる光景に、扉を開けたままの格好で完全に動きが止まってしまう。
「きゃぁ! ユ、ユキ!?」
「あれ〜? もう帰ってきたんだ」
「はわ……ちょ、ちょっと待っててねっ……い、いま服着るから……」
「ちょっと、早く閉めてよ!」
そこは女性陣がお着替えの真っ最中だった。
次々に投げかけられる言葉に慌て、若干パニックになってしまう。
「……あっ……ご、こめん直ぐ出るから」
「あ、まってユキ」
パニクって部屋から出ずに扉だけ閉めてしまい、慌ててドアを開けようとしたところをアイナに腕を掴まれてしまった。
「ユキそれ着替え買ってきたんでしょ? 先に着替えちゃいな」
「えっ? い、いやそうだけど……あ、後でいいよ」
「そうよアイナ、私まだ着替えてるんだから! ってゆーか、ユキ早く出ていってよ!」
「もーハンナはまだお子ちゃまだからね、ほらハンナこそ早く着替えちゃいなよ」
ケレスに背後から羽交い締めにされるハンナ。
両手をバタバタとさせ逃げ出そうとしているようだが、ケレスの妙な腕力の前には叶わなさそうだ。
(あー……女性用の下着もちゃんとあるんだな……)
目の前に広がる光景を網膜に焼き付けながら、頭の隅でそんなことを考えてしまう。
(でも普段から、何人かは下着と露出度が変わらないような格好してるし……今更……)
「ユキ? ユーキー……おーい、戻っておいでー」
アイナが目の前で手をフリフリ動かし、俺はハッと今の状況を思い出す。
「あっ、あぁ……ご、ごめん」
俺はクルッと後ろを向いてなるべくみんなが視界に入らないようにした。
「それ買ってきたんでしょ? 見せて見せてー」
背後からアイナの手が伸び、持っていた紙袋があっさりと奪われる。
「へー……意外に普通……って、あれ? これユキの?」
アイナが俺の肩と腰を持って身体をクルッと半回転させる。
(ちょっ、何で俺が回るんだよ……アイナがこっちくれば……済む話……なの……に?)
ギュッと閉じた目を少しだけ開いてアイナを見ると、その手には服屋さんが無理やり突っ込んだ女の子向けのワンピースがあった。
赤い紐リボンが襟元についている、ブレザーの制服のような、紺色のワンピースのようなそんな感じの可愛らしい服。
舞台だといい感じに注目を浴びそうな可愛らしい感じの服だった。
「あっ、そ、それは服屋が押し付けてきたもので……」
「へぇ〜……ふーん……」
アイナがニヤニヤといたずらっ子のような顔つきになる。
そしてその隣には着替え終わったエイミーとリーチェ。
その背後では下着姿のクルジュナが胸元を上着で隠したまま頭から湯気を出して気絶していた。
「あーいいなこれ! すっごい可愛い」
「ほんとね……ユキこれ着るの?」
「着ないよ!」
誰が何と言おうと、この服が可愛かろうと、中身のおっさんは着たいとも思わない。
「えー」
「似合うかもよ?」
「ないない……」
リーチェとエイミーが食い下がるが断固として譲れない部分がある。
女装とか流石に勘弁してほしい。
「……ん……」
「……アイナ?」
一番騒いでいたアイナがじっと服を見つめている。
サイズ的に合わなさそうだが、こういう方向性の服が気に入ったのだろうか?
「んー……ケレス!」
「なぁに〜」
「これ見て?」
「んー? おっ、可愛いね」
「似合うよね?」
「似合うと思うよ」
ケレスとアイナが服を前にすごく真面目な顔をしている。
やっぱりこういうのも好きなんだ思い、明日あの服屋さんにサイズ違いがないか聞いてみようかなどと考える。
「よし、やるか」
「おう、私足で、アイナは手? それとも尻尾で足?」
「尻尾で足と両手でボタンかな」
「おっけー」
だが何やら二人の会話の方向がおかしなことになっていた。
(尻尾で足? 手? 何の話だ?)
チラリと見えたアイナの尻尾がぶわっと広がっており、ブンブンと左右に揺れている。
そして次の瞬間――。
「うわっ!?」
突然、ケレスに押し倒されてバンザイの格好で両手を押さえつけられた。
そして足首にアイナの尻尾が巻きついたと思ったら、一瞬にして上着のボタンが全て外されていく。
「うわっ、ちょっ! ケレス! アイナなにっ!」
「ふふっ、じっとしてたら直ぐに終わるからね」
「痛くしないから、ほら天井でも見てたら直ぐに終わるわ」
「いやっ、ちょっ、あっズボン脱がしてるの誰っ」
俺はケレスとアイナなに両手両足を押さえつけられたまま必死の抵抗も叶わず、服を全て脱がされたのだった。
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