021話-自分で言った手前

「うう……ひどい目にあった……」


「うわっ、やっぱ似合う!」

「ユキかわいー! すっこい」


「服屋さんのセンスすごいですね……」

「ユキ……綺麗……」


 ふりふりの服を着せられた俺。

 いつのまにか頭にアイリスの白いリボンも装備させられていた。


「ユキーこれきて次の舞台でよーよ!」

「やだよ! 生き恥だよ!」


「私も賛成!」

「あー私もっ! ユキと舞台立ちたい!」


「うふふ、ユキったらその格好だと完全に女の子ね。声も高いしバレないわよ」


 座長に続く常識人だと信じていたアイリスまでも煽ってくる。



――コンコン


「入っていいですよー」


 俺の背後の扉がノックされ、耳をピンとたてたアイナが返事するとガチャリと扉が開く。

 扉を開いて入ってきたのは、大道芸用の荷物が入った木箱を持った座長と後ろにサイラス。


「遅くなってすまない…………ユキか?」

「座長……助けてください」


「座長、これでユキも舞台出たいって!」

「言ってないよ!」

「ふむ……」


 アイナの声に、何を血迷ったのか座長が顎に手を置き真剣な目をする。

 そして俺のの足先から頭先まで視線を巡らせる。




「いいんじゃないかな?」

「座長! 本気ですか……」



「ほら、さっきの魔具。あれを誰に頼もうかと思ったのだが、ユキ、せっかくだからやってくれないか?」

「うっ……」


 確かに自分が提案した事だし、ここで「無理です」というのはお世話になっている手前言いたくない。






「う……わ……わかりました」





 俺はたっぷり数分悩んだ末にその一言を無理やり絞り出したのだった。


「やった!」

「やりぃ! アイナ、よくやったー」

「わぁーユキと舞台に立てるなんて嬉しい」


 みんなが口々に言うが、俺としてはは急遽決まったMCという大役に胃がきゅっと痛み始める。

 何度かこの胃痛は経験したことがある。


(一度司会者が遅れて来なかったときにやらされたなぁ……いてて)


 だが、引き受けた以上は真面目にやろうと、直ぐに座長から全体のスケジュールを聞き、頭に詰め込み始めたのだった。






「ね、ねぇ、アイナ? その、男の子ってみんな……その、あんな感じなの?」

「わっ、私も知らないよ……エイミーこそ夜とか……見てないの?」


「みっ、みてない……よ」

「け、け、ケレス……ゆ、ユキってば、その、もう、大人なの……?」

「わ、わかんない……けど……大人だった……ね」


「ハンナ、多分まだ……その、もうちょっと……成長するんじゃ……」

「えー……この前ヘレスが言ってたのより……凄かった……よ?」


 座長に全体の流れを詳しく聞きながらも、背後から女性陣たちの女子高のような会話が嫌でも聞こえてくる。

 突っ込みどころ満載で、逃げ出したくなる。


 しかも、いつのまにか復帰したクルジュナまで会話に参加しており理興味津々といった顔で話に聞き入っていたのだった。





 ちなみに、この格好でなくてもMCは務まると気づいたのは舞台が終わってからだった。


――――――――――――――――――――


「じゃあ行こうか」


 全員が食事を終え、舞台用の衣装に着替えて馬車で広場へと向かう。

 俺は先ほどの女の子衣装を着せられた上に、化粧までバッチリと施されていた。




(スカートの防御力低すぎるだろ!)



 俺はなるべく心を無にしようとするのだが、足元でひらひらと動くスカートが気になって仕方がない。

 リーチェとエイミーに両手を繋がられ、気分は連行される宇宙人だ。



「ユキー可愛いよ」

「ほら、もっと胸を張った方が可愛く見えるわよ」


 正直、明日からはMCはリーチェに任せようと心に誓った。


「さぁ、今日もがんばろう」

「おー!」


「今日はリーチェからだっけ?」

「エイミー、今日はアイナからだよ」


「あっ、そっかー。って、もう順番とか覚えたの?」

「一応司会を任されたからね……」


 気分を沈めてばかりでも仕方がない。


 芸を見てくれるお客さんにとっては俺の気持ちなんてわからないのだ。

 きっちりと仕事をこなし、お客さんの満足いく舞台にしよう。


 俺は気持ちを切り替え、手早く舞台を整えていくみんなを見ながら頭の中で台詞を組み立て始めた。


――――――――――――――――――――



 広場に到着した俺達は、二手に分かれて一気に舞台の用意を始める。

 流石に全員が手慣れており、ものの数十分で用意が完了する。


 そして準備の途中から、昨日も来てくれていたお客さんが既にがやがやと舞台の周りへと集まりはじめた。




(チラシとか撒けばもっと人が集まりそうだなぁ)


 俺はそんなことを考えながら舞台に勢揃いしているみんなに視線を向ける。


 座長、アイナ、エイミー、リーチェ。

 後ろにサイラス、クルジュナ、ケレスが並ぶ。


 基本このメンバーで、アイリスはハンナたちに授業中だ。




 俺は一度自分の姿を見下ろし、何故か少しだけ両親の顔を思い出す。

 そしてギュッと目を閉じ、最後に自分に言い聞かせた。


(コレは仕事、コレは仕事。俺が唯一できる仕事で、今これをすることが俺の役目だ)



「あーあー……皆さま、本日もお集まりいただきありがとうございます!」


「おーー!」

「嬢ちゃん新顔かー! がんばれー!」

「なにあの子かわいー!」




「はい! では本日も「荒野の星」が送る華麗な舞台をお楽しみください! 本日一発目は大人気の猫人族の少女、アイナによる短剣演舞です! ではアイナさんどうぞ!」




 お客さんの目を見ながら、にっこりと微笑みなるべくはっきりとした言葉を心がける。

 そしてアイナに視線を送ると、にっこりと笑ったアイナが両手に大量の短剣を持ち、舞台の中央へと上がったのだった。


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