052話-大捜査網

 リーチェの魔技を使って生み出した自分自身の幻影。

 その幻影がアイテムボックスである『貪欲な貝ペルナ・アウァールス』に放り込んだアイテムがオリジナルの俺も取り出せる事が判明してしまった。

 しかも、例えば俺が大量の金貨を持った状態で自分の幻影を作ると、そいつも幻影ではあるが金貨を持った状態で現れる。


(この魔技ヤバすぎる……いろんな意味でヤバい)


 オリジナルのリーチェはまだ触れる幻影を出せないのだが、俺が使ったときと同じような効力をもった魔技持ちが他にいるとなるとかなり危険だ。

 しかし逆に考えれば、今回この街を襲った奴がこの方法を使っているのならオリジナルさえ倒してしまえば延々と増え続ける賊は出現しないわけだ。


(泥棒し放題なんだよなぁ……)


 ともあれ、なんとなく今回アペンドの街を襲ったやつらの手口は理解できた。

 どこかから仲間を呼び出しているわけでも、殺しても死なないゾンビでもない。

 すべては実態を持った偽物だ。


 オリジナルである魔技使いを始末すれば同じような事件は起こらないだろう。


「えっと、トーマスさん、フレイさん、あと他の皆さん。見てもらった通り、犯人が街を襲った方法は恐らく私がやったのと同じ方法の可能性が高いです」


「お、おう……嬢ちゃんすごいんだな……」


「すいません、男です俺」


 そう言えば言うのを忘れていた。

 俺が女じゃないという事実に目を見開いているトーマスさんは、先ほど目の前で起きていたことがうまく理解できていないようだったのだが方針だけ共有させてもらおうと思う。


「この後の事で相談したいんですが皆さん良いでしょうか?」


 俺は改めてテーブルに着くと、全員の顔を改めて見回す。


「まず一度街の捜索をしましょう。他がに隠れて生き残っている人がいないかどうか。うちの戦えるメンバーが同行しますので案内をお願いします」


「わっ、わかった」


「遺体は俺が纏めようか?」


 一番やりにくい仕事だけれど、サイラスが率先して手を挙げてくれる。

 サイラスの巨体ならどんな遺体であっても対応できるし、幻影で増やせば一気に処理もできるだろう。


 街の至る所に転がっている遺体は個別に処理するのも難しいので、一箇所に集めて火葬するしかないだろうとシスターの意見。


「じゃあ、私とケレスに……クルジュナはもういける?」


「うん、少し腰が重いぐらいだから大丈夫」


「じゃあ、三人と……ユキも行くなら四人かな?」


 住人の捜索にはトーマスさんたちと、アイナクルジュナ、ケレスが参加することになった。

 これも同じように幻影で増やして一気に終わらせることが出来るだろうと思う。

 自分の消費魔力も確かめられるし一石二鳥である。


「アイナ、ここは一気に片付けよう。トーマスさんたちも協力してください」


「んー? ユキもしかして……」


「そりゃ、使えると解ったからね。とりあえず今日は日が沈むまでかな。あと俺の魔力が尽きたら一旦そこで終了で」


 問題はどれぐらい魔力の消費が激しいかということぐらいだが、先ほどぐらいなら三倍ぐらい出しても問題なさそうだ。

 アイナとケレス、クルジュナと、後ろにトーマスさんやシスターのライナさんたちが並ぶ。


「じゃあ、行きます――『兎の幻想レプス・パンタシア』」


 その場に先ほどと同じようにトーマスさんを含む六人とアイナ、ケレス、クルジュナ、俺の幻影が現れる。

 並行してサイラスの幻影も作り出し、遺体の捜索へ向かってもらう。


「じぁや皆さん、捜索のほうよろしくお願いします。もし敵がいたらすぐに撤退してください」


 そうして街に散っていくみんなを見送り、俺は一人で教会の屋根から遠視で捜索を開始したのだった。



――――――――――――――――――――


 街中を捜索を続け、家の床下や倉庫の奥から見つけた住人はなんと約二百人。

 それぞれ数人ずつが家の地下室や物陰、トイレなどに隠れていたのを発見したのだった。


 パニックになるものや泣いて「命は助けてくれ」と懇願するほど取り乱す人もいたが、概ね胸をなでおろし街の惨状に悲しんだあと教会の付近へと集まってきてくれた。

 老人や女の人、子供が多かったが家族や身近な人を守っていた衛兵の生き残りや自警団の人もそれなりに居た。


 街をくまなく調べ、敵の姿が確認できなかったので翌日からは見つけた住人の皆さんにも捜索と遺体処理を手伝ってもらった。


 サイラスを中心としたチームが集めた遺体は数え切れず、シスターたちが簡単に祈りを捧げて火葬していく。

 教会の裏庭から天に登る煙が消えることはなかった。

 この山間の街で生き残ったのは結局これだけだった。


 それでも助かった人々は涙を流し、知り合いを見つけ喜び開い、家族をなくした子供たちの面倒を率先して見てくれた。

 自分のことでも精一杯のはずなのに皆ちゃんと相手のことを優先して考えてくれ、教会の周りに作られた簡易的な炊き出し場はある意味憩いの場となっていた。


 食事は俺たちが持っていたものと街中から集めたもので賄っており、リーチェやおばちゃんたちがせっせと炊き出しを続けてくれている。


(なんとか……大丈夫そうで良かった)


 街一つが全滅という時点であまり大丈夫ではないのだが、それでも生き残った人たちの様子を見ているとなんとかなりそうだなと思った。

 少なくとも絶望に沈み、自ら命をたったり他人に当たったりするような様子は見受けられない。

 

「なんとか大丈夫そうね」

 

「うん……クルジュナも体調悪いのにごめんね?」

 

「私は大丈夫よ。ユキこそ大丈夫? まだ小さいんだから無理しないでね? それと、買い物行けなくてごめんね」


「それはクルジュナのせいじゃないし、また今度いこうね」


「うんっ、楽しみにしてるわ」


 クルジュナは少し顔色は悪いが概ね元気そうだ。

 先日寝込んでしまったのは定期的なものだということだが、無理をしないように伝えておく。


「リーチェ」


「はーい! あ、すいませんクーニャさん、お鍋お願いしていいですか?」


「ごめんねリーチェ忙しい所で呼んじゃって」


「いいよーどうしたのユキ」


「食材とかは大丈夫そう? 足らないようなら俺が前の街まで行って買ってくるから言ってね?」


「うん、今のところ大丈夫。お店のものとか使わせてもらっているし」


「そっか、ありがとう」


「んふふ、それよりユキ、今度ちゃんと私にも魔技教えてね? それがお礼ってことで!」


 いたずらっ子のようにニカッと笑ったリーチェは、炊き出し場へと戻っていく。

 どうやら今回の事で自分の魔技の可能性をマジマジと見てしまいやる気がでたらしい。


 アイナとケレスは新しく組んだ自警団の皆と一緒に街の捜査で朝から晩まで動き回ってくれている。

 アイリスとハンナ、ヘレスはシスターさんと一緒に子供たちに勉強を教えたり広場で遊んだりと、子供たちが悲しまないよう一日中相手をしてくれていた。


(だいじょうぶ。うん。この街は大丈夫だ)

 

 俺は『荒野の星』の皆に街のことを任せ、一人で今回の犯人を探すことにした。

 街を見渡せるこの教会の塔の屋根に登り、自分自身の幻影を出してアイナの魔技を使って四方八方へと向かわせることにした。



 事件からそれなりに時間が経過しているので、かなり捜索範囲は広がってしまうのだが一つ秘策を思いついたのだ。

 これは助け出した住人の人たちの中に賊が紛れ込んでいないかを確かめていたときに気づいた。


 ステータスを確認できるカーミラさんの魔技『真実ゼールカロの鏡・イースチナ』。

 これは発動時にざっくりと対象を指定しておくと、視界の範囲に該当があれば手帳にステータスが表示されるのだ。


 幻影で自分を増やしてから、遠視の魔技『小夜鳴オキュラス鳥の瞳・ルスキニア』を組み合わせることで、たとえ山の中であってもかなり広い範囲を一気に捜索することが可能になった。


 対象エリアに人の集団があると手帳が大変なことになるが、それは都度『小夜鳴オキュラス鳥の瞳・ルスキニア』で確認して潰していくしか無い。


「とはいえ、流石に魔力の消費が半端ない……頭クラクラする」


 三十分に一度ぐらいの割合で休憩を挟み、アペントの街を中心に徐々に範囲を広げて捜索をしていくこと三日。

 すでに南に向かった俺は前回滞在していたローシアの街へと辿り着いてしまう。

 北に向かった俺は巨大な山脈を越え、その先にある村へと辿り着いたのだった。

 西と東はそれぞれ大きな樹海のような場所に到着した。


 全部の幻影が勝手に『猫の反乱コーシカ・ヴァスターニエ』を使って長距離でも一気に移動していくので、地図は見たことが無いが移動距離がすごいことになっている気がする。


 

「集中すれば、幻影が見ている視界を共有できるってすごいよな……」


 おそらく『兎の幻想レプス・パンタシア』の上位効果だと思うが、最初はできなかったのだが徐々に幻影が見ているものを見ることが出来るようになったのだ。

 これで自らが動かなくても、魔力の続く限りあちこちを虱潰しに捜索ができるのは助かる。


 そうやって探し続け、五日目の夜。

 北の山を越えた俺の幻影から届いた唐突の一報だった。


『見つけた――多分あの五人組だ』

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