100話-やり過ぎの定義
見たことも持ったことも無いのを複製することは可能か?
その問いには『想像力と妄想力が有ればなるようになる』という答えが実証されてしまった。
「お前……これ……まじで?」
俺の前に横たわるのは真っ黒な棺桶。
棺桶の蓋を開けると炸裂用の火薬と大量に並べられた拳大の弾がぎっしりと詰まっていた。
この弾の中には小さな鉄弾と火薬がぎっしり詰まっているらしい。
「すごいねーシェリーちゃん、ちょっと私が借りていい?」
「…………お前、ファンタジーに
流石に凶悪極まりない棺桶が合計五つも目の前にに並んでいる。
これをヴァルが上空で『収納』から取り出して落とす予定らしい。
「爆撃機じゃねーか……」
そうは言いながら俺も既にこの目で見て触ってしまった。
人の魔技をコピーできる俺は既にシェリーの触ったものがコピーできるという魔技を発動させると作れてしまう。
先程みんなを護るために力をつけると心に誓ったが、これはなんか違う。
こういうことじゃ無いんだヴァル。
「あ、あの、ユキ……」
「シェリーも自重しような? で、その後ろの箱は何?」
『部屋』へ入ったところの玄関に馬をつなぎ、並べられた棺桶の前に立つ。
クルジュと俺、ヴァルとシェリーしかいないのだが、もう二つほど気になるものがあったのだ。
シェリーの背後に置かれていた、目の前の棺桶より少しだけ小さな箱。
六角形の筒状をしており、どう見ても真っ当な代物には見えない。
「えっと…………テルミット焼夷弾…………」
「…………戦争でもするつもりか?」
「ごめん……作ってみたくて……試してないけどちゃんとできた……よ?」
きちんと出来たか、出来ていないのかを聞いているのでは無い。
詳しいことは俺はあまり知らないが焼夷弾と言うからには一面を焼き払うことに特化した爆弾ということだろう。
それ一本でどれだけの範囲に有効なのかわからないが、家を一つ焼くほどの小規模とは思えない。
「シェリー…………武器を作るときは俺の許可を得てから作ること」
「…………はい」
このままではこの世界が大変なことになってしまう兵器まで作ってしまいそうだ。
俺の中にある危険人物リストの最上位へと一気に食い込んだシェリー。
今はいいが、敵にまわると大変なことになってしまう。
「他は? 他は作ってないよな?」
念のため、一応ヴァルとシェリーに質問すると明らかに目を泳がせる二人。
「…………出して?」
「…………………………はい」
観念したような、絶望したような表情でヴァルが『収納』から取り出したのは俺の身長ぐらいもある巨大な木箱だった。
「……なにこれ?」
『飛翔』を使い、木箱の上まで上がり恐る恐る蓋を開くと、車に積んでいる発煙筒より少し小さい筒が大量に並べられていた。
どう見てもアクセサリーや日常利用の物体では無い。
「……XM112」
ヴァルではなくシェリーが蚊の鳴くような声で教えてくれるのだが、聞いたことのない単語だった。
「最新型の……2040年から運用が始まった手榴弾」
「……え? 2040年?」
「ユキ知らなかったの? シェリーちゃん2041年だってさ、凄くない?」
ヴァルがそうだったように、シェリーは俺より未来の日本で死んだらしい。
それは気になる。
色々とあれからの日本、未来の日本がどうなったか教えてほしい。
だが――
「二人とも正座」
「ひうっ!?」
「ええっ、なんでよぉ! これ安全なんだよー!」
「安全ってどこがどういう風に」
「携帯中に誤爆しにくい」
「…………そうか」
もはやそれしか台詞が出てこなかった。
とりあえず、この危ない兵器はすべて俺の『収納』へと封印することにした。
「なんでこんなの作ったんだよヴァル……」
怒っても仕方ないのでせめて理由でもと思いヴァルに聞いてみたのだが、「みんなを護る為」となんとも責めづらいことを言われた。
確かに大規模魔法で大軍を相手にするのとなにが違う? と言われるとなんとも言えないことは間違いない。
単純に世界観とかそんな意味のない理由ぐらいしか思い浮かばない。
「とりあえず飯にしようぜ……」
ヴァルとシェリーとの会話内容がわからないという表情をしていたクルジュに謝って、俺たちはリビングへと向かったのだった。
――――――――――――――――――――
「そういえばユキよ。他のみんなも」
リーチェの手料理を全て平らげ、各々が部屋に戻ろうかという感じになってきたときサイラスが手を上げた。
「どうしたの?」
「全員分の衣装、出来上がったぞ」
そう言ってサイラスが部屋から大きな箱を持ってきた。
「サイラス……全員分って誰から誰まで?」
サイラスがニヤリとした顔で取り出したのは、棒会いに行けるアイドルが着てそうな衣装と、清楚系なブレザー系の衣装の二パターン。
「そりゃ、後で作れと言われるぐらいならってことで、ハンナやヘレスのも作ってあるぞ」
「へっ?」
「わっ、私たちのもっ?」
「おうよ、これでいつでも参加できるぞ! 良かったな!」
「ばっ、なんで私たちも舞台に立つことになってるのよ!」
「あん? そりゃ、おめーらがいつも舞台の旅にこっそりと練習してるの知ってるんだぞ?」
「なっ、なっ、なっ……!?」
「し、してない! 練習なんてしてないよっ!」
なるほど舞台が終わってからいつも部屋にこもって勉強してると思ったら舞台で見たことをこっそり練習していたのか。
「サイラス? 流石にこの二人には無理じゃないかなって思うの私」
「大丈夫だ。アイリスの分もある!」
「――っ!?」
「良かったなアイリス」
前回からリーチェも参加したので、歌を歌っていないのはクルジュとサイラス。
アイリスとハンナとヘレスは舞台にすら立ったことはない。
これで口実ができてしまったというか、少しでも興味を持ってくれれば嬉しい。
アイリスは固まってしまっているが、ハンナとヘレスは文句を言いながらも衣装を手に取り体に当てたりしているところを見ると、案外いけそうなきがしてくる。
「ね、ねぇ……」
「ん? クルジュどうしたの?」
「あの衣装、私の名前も書いてあるんだけど」
「…………あぁ、似合いそうだよね」
「わ、わた、私もっ?」
「ほらさっき歌いたいって言ってたしちょうどいいんじゃない?」
言っていなかったかもしれないけれど、クルジュなら俺がお願いしなくてもやってくれるだろうとは思っている。
「クルジュが入ったパターンも考えてあるから、参加してほしいな」
「……わ、わかった……わよ」
よし勝ったと心の中でサイラスぐっじょぶと称えながらサムズアップしておく。
「あれ、サイラス、それってヴァルのだよね?」
「ん? あぁ、そうだが?」
「じゃあそっちのは?」
「ユキの分だぞ」
「…………はっ?」
「一応作っておいた」
「はぁぁぁっっっ!?」
いやいやいや、いくらなんでも俺が混じるのはお門違いすぎる。
一番背がちっちゃいし、顔つきも声も女の子みたいだけど、しっかり男なのだ。
俺が参加してどうする!
そう抗議の声を上げようとしたところで、左右からアイナとエミリーに腕をガッチリ掴まれてしまう。
「え、なにアイナ……エミリーまでどうしたの?」
「にひひ……私見てみたいな〜」
「せっかくサイラスが用意してくれたのに、ねぇ?」
嫌な笑みをあげる二人から逃れようと、リーチェとクルジュに助けを求めるものしれっと目を逸らされる。
「ケレスっ」
「サイラス、ここはもっと可愛くって最初に言ったじゃんー」
最後の頼みの綱のケレスに助けを求めたのだが、まさかの裏切り者がそこにいたのだった。
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