118話-扉が壁に
お昼ご飯の後、カーミラさんにもらった箱に魔力を込めまくった結果、俺の方が先に魔力切れで倒れてしまった。
「……ユキの魔力で開かないって相当よね」
ヴァルとアイナが俺の部屋まで運んでくれたらしいく、手を覚ました時はベッドの上だった。
「でもユキ? 魔力の使い方が結構無駄が多いわよ」
アイリスがベッドへ腰掛けて頭をポンポン叩きながらそんなことを言われてしまう。
「無駄が多い?」
「魔力の運用方法は教えたことが無かったわね……今度私が教えてあげるわ。使える魔力が倍とは言わないけれど増えるわよ。あと魔技の発動も早くなる」
この世界に来たあとアイリスには魔力や魔法、魔技について最低限教えてもらっただけだった。
そのため、アイリスから見ると俺の魔技の使い方はかなり無駄があるらしい。
「もしかして、魔力の運用方法を覚えたら、アイナやヴァルも魔技の使える範囲が増えたりする?」
「ん〜それは試してみないと……って感じかな。アイナは昔色々と教えたからあまり変わらないかもしれないけれど、ヴァルちゃんはユキみたいに効率悪そうだったから伸び代はあるかも」
「ほかにリーチェとかクルジュはどう?」
「リーチェは教えたことないから伸びるかもね。クルジュナはかなり上手だから難しいわ」
つまり戦争参加組はさすがと言うか魔力の運用方法はかなりうまいと言うことだ。
結局俺とヴァル、リーチェがアイリスから魔力の使い方を改めて勉強することとなった。
――――――――――――――――――――
ローシアの街。
初めて来た時は座長の隣で右も左もわからない状態だった。
まだ一年も立っていないのだが、妙に懐かしい気持ちになる。
「えっと、どのあたりだっけ?」
「この通りをずっと行って少し路地に逸れたところだよ」
「ねーユキ、アイナ。せっかくだから今夜あのお店でご飯食べない?」
ケレスの言う『あのお店』とは以前来た時に打ち上げをしたビアホールのようなお店の事だ。
この街に来るたびにあそこで打ち上げをしているそうだ。
「じゃあ、カーミラさんのところ寄って、晩御飯はあのお店ってことで」
「わーい、やった! 最近飲んでないから楽しみっ!」
両手を上げて喜ぶケレス。
アイナも表情から楽しみにしているようだった。
「それじゃあ、急ごうよ!」
「うわっ、ケレス早いっ」
ケレスとアイナに片手づつ引かれ、俺たちはカーミラさんの魔具屋さんを目指したのだった。
「あれ……閉まってる? ここだったよね?」
「うん、確かここだった」
たどり着いた路地裏……石造りの家と家の壁が両側に迫る細い路地は以前来た時と様子は同じだった。
ただカーミラさんの店の扉だけが忽然と消えていたのだった。
「……空き家とかそう言う感じでもないわよね」
「扉ごとないし……これじゃあまるで最初からなかったみたい」
俺はまだ二回しか訪れている居ないがアイナは四回か五回は来ているらしく、ケレスもそれは同じだった。
「引っ越したわけでもないし……消えた? そんなことあるの?」
「わかんない……カーミラさんとはここでしか会った事ないし」
「他にこの店のことを知っているのってアイリス?」
座長以外だとクルジュとアイリスが一度来たことはあるらしいので『部屋』へと戻って二人にもついてきてもらうことにしたのだが……。
「確かにここよ? 何もないけれど」
「そうよね……カーミラの魔技かしら?」
部屋を隠すというか、入り口だけつなげていたと考えた方が自然なのだろうか。
「ねぇねぇ、朝から話に出ていたカーミラ……さんだっけ? どんな人なの?」
なぜか一緒についてきたヴァルが頭の羽でパタパタと浮きながら、俺の首筋に両手を回しながら聞いてくる。
「ヴァル……ユキにくっつきすぎ」
「ケレスもどうぞ?」
「…………じゃ、じゃあ……」
「そうじゃない気がするんだけど」
片腕に手を回してきたケレス。
アイナは最初から反対側の腕を組んだままだったので、両手両肩に華状態だった。
「…………」
クルジュの視線が怖い。
久しぶりの…………違う。少し泣きそうな顔をしていたのがチラリと見えてしまった。
「ク、クルジュ……――ってっ、ちょっと!」
突然振り返ったクルジュが俺の正面から抱きついてきてギュッと身体を押し付けてくる。
「…………えっと……なにこれ」
「ちょっとみんな、こんなところで発情しないの……ほらクルジュナまで混ざってどうするのよ」
「わっ、わたし発情なんてしてないもんっ!」
「私だってまだ……もうそろそろだけどまだ大丈夫」
「ヴァルちゃん、ケレス? アイナも。ほらクルジュナ貴女までなにやってるのよ」
アイリスの冷たい視線に貫かれヴァルが音もなく地面に着地する。
クルジュナとアイナも大人しく離れてくれた。
「ごめん、つい……」
クルジュが横髪を指先でクルクルといじりながら俯く。
「それより、カーミラってもしかしてだけど、いつも黒いローブをすっぽりかぶってる銀髪のおばさん?」
「顔は見たことないけど、俺が会った時はローブ被ってた……けれど、声色は俺と同じぐらいだったよ?」
「えっと、ヴァルちゃん知り合いなの? 確かにカーミラはユキみたいな銀髪だけど」
「…………よし、ユキ帰ろう。あいつに会ったって碌なことにならないから!」
突然ヴァルが俺の手を引いてこの場からすぐさまに離れたいと言う風に引っ張り始める。
「うわっ、ヴァルちょっ、ちょっと待って」
「ユキ、もし私が知ってるカーミラとユキが探してるカーミラって人が同じ人なら、ユキは会わない方がいいわよ」
「…………どうして?」
以前会った時の様子からは特に危なそうな雰囲気は感じられたかったし、座長が親身に話をしていたので悪い人ではなさそうだったのだが、ヴァルは何か因縁でもあるのだろうか。
「カーミラ……あいつ気に入った男の子を篭絡させて食べちゃうようなやつよ」
「…………食べちゃう?」
「そっ、そのままの意味よ! 言っとくけどイートじゃないからね?」
腰に手を当て、頬を膨らませるヴァル。
つまりヴァルが言うことをそのまま捉えると、少年に手を出しては頂きますをしているそうだが……本当なのだろうか。
微塵もそんな様子はなかったが人は見かけによらないと言うやつなのだろうか。
「私の知ってるカーミラって夢魔の一族なのよ。男の夢に入ったり、夢を見せたりして若い男の精気を吸い取るの。もちろんその後物理的にもご馳走様するらしいけど」
「ヴァルちゃん……な、なにを……まだお昼だからっ!」
「ね、ねぇヴァル、それどう言う意味っ!? く、くわしくっ!」
「ケレス、被りつかなくていいからっ」
必死にヴァルから詳しい話を聞き出そうとするケレスの手を引っ張り引き離す。
「と、とりあえず居ないものは仕方がないから一度引き下がろう」
「……いや、私ちょっと『転移』してみる。同じ人かどうか分からないけれど、私の知っているカーミラのとこだったら飛べる気がする」
座長からコピーした『転移』の魔技は『場所』を目指して転移するのだが、それなりに慣れてくると思い浮かべた『人』に向かって転移することもできる。
それは何度かアイナやケレスに対して『転移』してみて実験済みだ。
ただ対象の頭上に出てしまうのが難点かなと言うぐらいだ。
「ちょっと問い詰めてくるわ! 『転移』!」
「ちょっとヴァル…………行っちゃった」
俺も人のことを言えないが、俺の周りの人達の行動の速さは一体なんだろう。
思いついたら即行動どころではない時がある。
俺はアイナとケレス、クルジュにアイリスと一緒にこの場所でヴァルの戻りを待つことになってしまったのだった。
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