119話-ばんごはん
「かんぱーい!」
「いただきます!」
以前も訪れた満腹邸の一番奥にあるテーブル。
俺たちは全員その責任集まり久しぶりに外食をすることとなった。
「んぐっ、んぐっ……ぷはぁ……はぁ……くそぉ、まさか弾かれるとは思わなかったわ」
仕事終わりのサラリーマンのような飲みっぷりで樽で出されたビールを喉に流し込みながら悔しがるヴァル。
カーミラを目指して『転移』したヴァルだが、カーミラの店内に入った途端に元の場所へと戻されたという。
「それって魔具の力なの?」
転移系の魔技で飛んできた人物を問答無用で元の場所へと戻す魔具ーーそんなものがあるのだろうか。
「わかんない……でも、普通に考えたら魔具だと思うーー『転移』で出た途端だったんだもん」
確か以前、攻撃系の魔法や魔技を封じ込める装置にはであったことがあるので、転移禁止の魔具があってもおかしくはないだろう。
「はぁ……今度ユキがやってみてよ」
「俺カーミラさんの顔わからないんだけど」
「店の中の様子なら覚えていない? そこを目指して転移してみてよ」
あの雑多な店内にならなんとなく記憶にあるので飛べるかもしれないが、飛べたとしてもヴァルと同じ目に遭いそうな気がする。
ちなみに先日ヴァルに言われた『地球へ転移してみる』というのは銀華にやってみてもらったところ、見事に失敗した。
距離がダメなのか、そもそも転移で行ける次元ではないのかはわからないが、少し楽しみにしていたのでちょっと残念だったのは敢えて心にしまっておくことにした。
「おねーさーん! これお変わりお願いしまーす!」
「ヴァルよく食べるわね〜」
「んっ、すっごく美味しいわ! ケレスたちここよく来るの?」
「ローシアで公演のたびにここで打ち上げしてるわよ」
この店はいつ来ても盛況で予約をしないと入れないことが多いと
俺たちが占拠している一番奥のこの席は団体専用らしく、十人からしか使えないので今日は他の団体も居なかったので運良く入れた。
入れなかったらばらけて座ろうかとケレスと話していたので、運が良かった。
「ユキ、酔う前に情報を共有しておきたいんだが、次は帝国に向かうのか?」
でっかい木製ジョッキを傾けつつサイラスに質問されたので、食事の席だけど全員揃っているので話しておくことにした。
「一旦、帝国に行クルジュナ予定。帝都だっけ? そこに向かう途中の街の近くに何箇所か拠点があったから潰しながら向かおうかなと」
「ふむ……だがそれはちと面倒かもしれんぞ?」
ジョッキを机の上に置いて腕組みをするサイラス。
面倒というのは犯人の確保と監獄への『転移』に関してだ。
帝国内で捕まえた犯人を勝手に王国へ送り飛ばすことはマズイという話だ。
指摘されて気づいたけれど、確かに帝国で捕まえた犯人は帝国に引き渡されるのが筋で、それを勝手に王国に送るのは問題だろう。
「やはり面倒でもまずは帝都に向かい、皇帝に話をつけるのが筋だろうな。国王からもその旨を仰せつかっているのだろう?」
「うん、皇帝への手紙は預かっている。やっぱり先に帝都かぁ〜」
帝国の首都である帝都は王国側から見れば北のさらに北側。
つまり王国側から一番遠い位置にある都。
北側の国との国境に近い場所にあるので、王国側から帝都に向かうためには帝国の領内を縦断する必要があるのだ。
「ちなみに皇帝に会いたく無いって人は?」
「「「…………」」」
「あれ? アイナもケレスも大丈夫なの? この間『やだなー』って言ってたから会いたくないのかと」
「会いたくはないけれど、ユキが一人で会いに行く方が心配すぎてヤダ」
「同じく」
ケレスとクルジュまでもがうんうんと頷いている。
サイラスはどちらでも無いらしい。
「私は会ったことないし、会いたいとも思わないけれど、どうせなら全員で行けば?」
「全員って、謁見許可でるかなぁ」
「さすがに無理じゃないか?」
多くても四〜五人だろうと思うけれど、聞くだけなら問題ないか。
国王とも裏で色々と交渉するぐらいだし悪い人ではないのだろう。
「おねーさん、おかわりー!」
「はーい!」
「あっ、こっちもお代わりお願いします」
「承知いたしましたぁ〜」
その前に帝都までの道のりだけれど、馬車でちんたら進むより俺が『転移』を繰り返していくしかないだろう。
流石に一台だけとはいえ馬車で向かうと三週間以上掛かってしまいそうな距離なのだ。
見える範囲に『転移』を繰り返せば、俺の魔力次第だけど三日もあれば到着するかなと考えている。
「ちなみにヴァルは帝都は行ったことある?」
「んー帝国自体初めてだよー」
「そうだよなぁ……」
帝都に行ったことのあるのがアイナ、ケレス、サイラス、クルジュの四人しかおらず『転移』を使えるのは居ない。
魔力的に難しいとコピーしていないのだ。
「ユキ、ちょっといい?」
「アイリス?」
「アイナとケレスにクルジュナだと一番魔力が高いのってアイナでしょ? 『転移』を使えるようにしてあげたら?」
細かい事情を知らないアイリスが提案してくるのだが、コピーしたところで魔力が足らずに発動しないんじゃないかと説明する。
「アイナなら大丈夫そうよ? 座長が使ってた魔技だよね? 多分感じる魔力量から計算すれば使えるわよ?」
「えっ、ええ……わ、わたし?」
「そうよ? アイナ、自分の魔力が増えているの気づいていない?」
「……そう……なの?」
「いや、俺を見られてもわからないんだけど、増えているの?」
「感覚で『あ、増えてる』ってわかるぐらいだから増えてるわよ確実に」
俺はこっちの世界に来て初めて魔法に触れたのだが、未だにそういう感覚はわからない。
自分の魔力が『あ、無くなる』という感覚はわかるのだが、他人の魔力が多いのか少ないのかという感覚が未だに掴めないのだった。
「ね、ユキ、折角だし見せてくれない? 話に聞いただけだから実際に見てみたいのよ!」
アイリスが酒の入ったカップを片手に俺とアイナが座っている席の間まできて膝をついて座る。
「だめ……かな?」
俺の手に手を重ねて、そんな上目遣いで見つめてくるのは正直ずるい。
ほわほわとした感じのアイリスはアイナやケレスの元気系とも違うし、クルジュのようなクールなお姉さん系とも違う雰囲気だ。
全てを包み込むお母さん系という雰囲気で、これをくらって断れる男はいるのだろうか。
だが、こればっかりはここで実行するわけにはいかない。
アイナのためにも、他のお客さんの目もあるし、流石に無理な相談だった。
「わ、私の部屋でなら……いいよ?」
「アイナ?」
「こ、こうなったアイリスは引かないし……」
「さっすがアイナ、私のことよく知っているわねっ!」
俺はため息を一つ付いてら、ジョッキを傾ける。
ハンナとヘレスがとんでもない視線を向けてきているのだが、あえて気づかないふりをする。
(昔はクルジュからあんな視線を向けられていたんだよなぁ)
最近のクルジュはむしろ寂しそうな視線を向けてくるので、それはそれで辛いところではある。
「じゃあ、ユキ、行きましょう!」
「へっ? えっ、今から!?」
一度席に戻ったと思ったアイリスだが、グラスの中身を全て飲み干してきただけらしい。
アイナのほうをチラリと見ると「しょうがないわよ」と視線で言われたので、仕方なく席を立ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます