066話-新しい魔技を手に入れる

 パラディー大陸の大国エイスティン。

 その首都というだけあって、国と同じ名前の街エイスティンは各地から行商人や観光客が出入りしている巨大都市だ。


 東側に設けられた主門からお城まで一直線に続く大通りは圧巻だった。

 左右に三階建を超える石造りの建物が立ち並ぶ広い大通りがはるか先まで続いている。

 軍隊も出陣するため、王城から正門を繋ぐ目抜き通り道幅は軽く片道二車線ぐらいはありそうな広さだった。


「あれがお城だよね」


 先頭の馬車まで戻った俺が手綱を任せていたエイミーに質問すると、屋根の上に寝そべっていたアイナがむくりと起き上がった。

 

「そうそう。いつもお城に入る手続きはアイリスに頼んでいるんだけれど、今日は大丈夫そうね」


 アイナが指差す先に視線を向けると、少し先の方に真っ黒い馬に跨った鎧を身につけた騎士のような集団が見えた。




「あれは……?」


「お城からのお迎えよ。犯罪者の引き渡しするって言っておいたから来てくれたんだと思う」


 アイナへ「ありがと」と返事をしながらチラリと視線を向けてきた全身鎧の騎士を観察する。


(お城の騎士ってことはそれなりに強いんだろうな……)


「失礼、『荒野の星』の皆様で間違いありませんか?」


 先頭の馬車、俺の隣に馬で並走する形で移動しはじめた騎士が声をかけてくる。


「はい、私が座長の代行をさせていただいておりますユキと申します」


「ご丁寧に。わたしは王国騎士団護国隊第二分隊隊長のカーマインと申します。城まで案内いたしますので、ついてきてください」


「わかりました。わざわざありがとうございます」


「いえ、『荒野の星』の皆様をご案内できて光栄であります。では我々が先行いたします」


 なかなか体育会系なイメージの爽やかな青年というような声の隊長さんが馬を操り、城へと向けて歩き出す。

 俺はせっかくなのでその五人の騎士たちのステータスを確認してみることにした。


(これで魔技を持ってたらちょっと実験させてもらおう)



 いわゆる、幻影を作って魔技を使わせて俺がコピーできるかというやつだ。

 仕様なのかパワーアップしたのかはわからないのだが、『真実ゼールカロの鏡・イースチナ』で手帳へと書き込まれるステータスがあるといつでも幻影を生み出せるようなのだった。



 道中で一度『見世物小屋フリークショー』の中へ放り込んだままになっていた道化商会ジョクラトルのファースという、ほとんど話をしたこともない男の幻影を作ってみたら無事に作ることができたのだ。




 ついでにアイナと六華と銀華に手伝ってもらったおかげで、幻影が見たものがオリジナルの俺に共有されてしまう件も仕様がわかった。


(俺が許可しないと、幻影の記憶はオリジナルへと還元されないというのはほんと助かった。)


 作って消すたびに幻影のオリジナルに「幻影を作られた事」が伝わってしまうと色々と困る。

 何がとは言えないが、色々と使い勝手が悪いのだ。




 ちなみにアウスというやつの幻影も一応作れたのだが、手帳に記載されているステータス情報が少ないのが理由のか前回と同じような感じにしかならなかった。


(本来はあれぐらいの幻影だけでも、幻影系魔技としては一流だってことだけど――『真実ゼールカロの鏡・イースチナ』)


 魔技の情報だけだと相手の魔技の効果が分からないのも、鑑定を使い続ければそのうちわかるようになるかもしれないと僅かな期待を抱きつつ騎士たちに鑑定を掛ける。

 その結果なんと全員が魔技を持っていたのだった。


「アイナ、ここから城までどれぐらいかかる?」


「うーんと……多分十五分くらいかな」


「了解。ちょっと『部屋』に行ってくるね」


「一人で?」


「うん、ちょっと気になることがあって。六華を残しておくから」


 あの部屋に眠らせたまま放り込んである道化商会ジョクラトルの生き残り四人。流石に衰弱して死んでしまうので俺が毎日飯を持って行っては食わせている。

 洗脳状態にあるので飯を食ったらそのまま寝かせてしまうので、むっさいおっさんが寝ている以外はあの部屋はかなり快適だった。




(ベッドとか持ち込んだら部屋にできるかな。あの広さなら家でも建てられそうなんだよな……)


 それができれば、表は一人が歩いて移動すれば残りのメンバーは全員があの部屋の中でずっと過ごすということまでできるわけだ。


(それはそれで別荘みたいで楽しそうだな)


 デート用の部屋にならないようにだけ気をつけようと、アイナとエイミーをチラリと見る。

 あれ以来みんなの瑞々しい唇につい視線が向いてしまい、まるで初恋のように心臓がドキドキと高鳴ってしまうのはいつか収まるだろうか。



「『兎の幻想レプス・パンタシア』」

『ん、いってら』

「よろ」


 六華は現れると事情を言わなくても理解してくれるのだかなり楽だ。

 御者台を六華に譲り、いつものようにアイテムボックスから取り出した黄色い布を広げる。


(魔技だから、この臭い腰布じゃなくてもいいんだよな)


 今度きれいな布とか探してみようと思いながら俺は『部屋』へと向かった。


――――――――――――――――――――


「さて、サクサク行こう!――『兎の幻想レプス・パンタシア』」


 現れたのは鎧姿の騎士が五人

 まず試すのは俺に声をかけてきた隊長でカーマインと名乗った騎士だ。


「魔技の説明をお願いします」


『はっ、私の魔技は影を攻撃することで本体に攻撃を与えることができるものです』

「生き物以外には?」

『生物のみです!』


 俺は銀華を作り出して、隊長さんの魔技を受けてもらうことにした。


「じゃあ、ちょっとこの幻影に攻撃してみて」


『はっ、では…………『暗闇の傷テネプレ・プラガ』!!』


「ありがと、じゃあ消えていいよ。またお願いしたい時は呼ぶからよろしくね」


『はっ、承知しました』


 鎧姿のカーマインさんが綺麗な一礼をしてスッと消えてなくなる。




『魔技をコピーするだけの簡単な仕事ですってやつだな』


「鑑定しただけでコピーできたら最高に楽なんだけどね」


『確かにな。ほれサクサク行こうぜ』


 銀華に促され、残り四人の幻影を作り出して同じように魔技を使わせて四つの魔技を一気に習得した。


――――――――――――――――――――


『合計五つか』


「いや、下位互換は無視で、実質二つだな」


 影を攻撃して相手にダメージを与えられる魔技。俺が使えば無機物でも壊せるだろうか?


 もう一つは『天空の偶像カムエル・イドラ』という飛翔系の魔技だった。ジャンプではなく完全な飛行。


 あれを持っていた騎士のご先祖様はどうやって魔技を習得したのだろうか。

 実際に経験するか、心ができると認識していないと発動することはできない。

 一番最初に飛翔系の魔技を使った人が不思議で仕方ない。


『天使とかハーピーとかそういう系の亜人が先祖にいたのかもな』


「あぁ、そのパターンがあるか」


 どちらもまだ目で見たことはないが、いても全然不思議ではない。


『なぁちょっと気になったんだが』


 銀華が頭をぽりぽりと掻きながらそんな事をボソッとこぼす。

 いつもならこのタイミングで考えていることが流れ込んでくるのだが、まだ銀華の考えが纏まっていないせいか何も認識できなかった。




『リーチェの魔技、俺たちみたいに触ることができるように強化しただろ?』


 そうお城までの道中、アイナとエイミー、ケレスは歌の練習をしていたのだが、その間にリーチェとクルジュナとは魔技の特訓をしていたのだった。

 その結果リーチェは継続時間は短いが触ることができる幻影を作り出すことに成功したのだった。


『リーチェがユキの幻影を作ったらどうなるんだ?』


「どうって……普通に俺の幻影が出てくるんじゃないのか?」


『まだ意識がない幻影?』


「一度だけ、勝手に動き出したから、使っているうちに俺と同じように意識を持った幻影を作れるようになるかも?」


『俺……銀華や六華を作り出せるのか?』


「さすがに無理だろ……」


 俺が作った幻影と、リーチェが作った幻影が同一なわけはない。

 それこそ俺がずっと考えていた『幻影じゃなくて創造』になってしまう。




『でも、それができたら便利じゃない? あ、アイナが着いたって言ってるぞ』


 たしかに俺がいなくても六華や銀華を出せるならもし俺に何かがあっても安心だ。

 まだ魔技については不明点が多いが、追々解明していくのも良いかもしれない。



「とりあえずそのことは置いておいて、戻ろか」


 俺は銀華を消すと、寝ている男どもを確認して表へと戻ったのだった。

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