5-10-1 学院襲撃
うー。寒い。
今日は朝からどんよりと曇って、今にも雪が降り出しそうです。
卒業式の本番には晴れてくれればいいのだけれど。
今日は午後から来週に迫った卒業式の予行練習です。
今日もエリーザ様はいらっしゃいませんが、婚約者の第一王子殿下が卒業されるのに、大丈夫なのでしょうか。他人事ながら心配になります。
エリーザ様は、一月半前から諸国漫遊の旅に出られて、学院にいらっしゃっていません。学院生の間では、諸国漫遊なんて優雅だな、と囁かれていますが、私は、本当は他の理由で出かけられているのではないかと思っています。
それというのも、エリーザ様だけでなく、グラール様も一緒に出かけられているのです。きっと、密かに聖女としての責務を果たされているのでしょう。エリーザ様はそういう方です。
私が、卒業式の予行練習が行われる大講堂に向かっていると、その入り口で、侯爵令嬢のマリー様が仁王立ちでこちらを睨んでいます。私は思わずその場に足を止めてしまいました。するとマリー様が近付いてきます。私は振り返って逃げ出したいところでしたが、そうもいきません。
私が立ち尽くしていると、前方から近付くマリー様ではなく、後ろから声をかけられました。
「サーヤさん、どうかしたの」
私が振り向くと、それはトレス様でした。
「いえ、どうもしませんが・・・」
私は視線で、マリー様が近付いてきているのをトレス様に伝えます。
トレス様は私を庇うように前に出ます。
「あら、マリー様。どうかされたのですか。大講堂の入り口はあちらですよ」
「そんなことはわかっているわよ。最後にあなたたちの馬鹿面を拝みに来ただけよ」
「まあ、馬鹿面とは失礼ですわね。今回の試験のあの成績でよくも言えたものですね」
今回の試験では、エリーザ様がいなかったこともあり、トレス様がトップ。私も四位に入っています。一方、マリー様はランク外で、五十位以内に入ってはいなかったはずです。
「ふん。そんな嫌味が聞けるのもこれが最後だと思うと笑いがこみ上げてくるわ」
「なんですか」
トレス様が怪訝な表情をされると、丁度、第二王子殿下がマリー様を呼ぶ声が聞こえました。
「マリー。何をしている。行くぞ」
「あ、殿下。今行きます。それじゃあお二人ともお別れです」
マリー様は嘲るような笑みを浮かべると、第二王子殿下と大講堂とは反対の方向に去って行きました。
「なんだったんでしょうか」
「そうね」
トレス様は何か考え込んだ様子です。
その後、私たちは大講堂に入り、卒業式の予行練習が始まりました。第二王子殿下とマリー様は結局戻ってこられませんでした。
卒業式の予行練習は問題なく進み、卒業生を送る言葉をトレス様が行い。続いて卒業生を代表して第一王子殿下が挨拶をしようとした時事件が起きました。
武装した集団が大講堂に押し入り、入り口を封鎖し、学院生たちを人質に取ったのです。
そして、第一王子殿下とトレス様。それと、何故か私が縛り上げられて、武装した集団の前に引き摺り出されました。
「エリーザをどこに隠した」
開口一番、武装した集団のリーダーと思われる人が、第一王子殿下に大声をあげます。
「エリーザなら、諸国漫遊の旅に出ているが」
「嘘を言うな。エリーザが王都から出た記録はないぞ」
「飛んでいったからな。王都の門の記録を見てもないだろう」
「馬鹿にしているのか」
男は第一王子殿下を殴りつけます。
「嘘は付いていないのだがな。非常識な婚約者を持つとこれだから困る」
「困るなら、さっさと婚約破棄すればよかっただろう。そうすればこんな目に合わずに済んだものを」
「エリーザが目的か。困った婚約者ではあるが、渡す気はないぞ」
第一王子殿下は強気で男を睨みつけます。
「お前の意思など関係ない。どの道、お前はここで死ぬのだからな」
「死んでもエリーザは渡さぬぞ」
「くっ。お前たち、エリーザの居場所を話したくなるように、こいつを痛めつけろ」
それから暫く、第一王子殿下は殴る蹴るの暴行を受けましたが、エリーザ様のことを喋ることはありませんでした。
「しぶとい奴め。もういい。エリーザのことはゆっくり探す。お前は死ね」
男の剣が、第一王子殿下を貫きました。
大講堂内には、それを見ていた女生徒の悲鳴が響き渡ります。私は余りにもショックで声も上げられませんでした。
「さて、お前たちには恨みはないが、第二王子との約束なのでな。死んでもらう。恨むなら第二王子と侯爵令嬢を恨め」
男が剣を振り上げて私に斬りかかろうとします。もう駄目だと思った瞬間、トレス様が、それを阻止しようと男に体当たりをくらわせます。
トレス様の体当たりで男は倒れ込みましたが、男の部下たちがトレス様を取り押さえ、そのままトレス様は斬り殺されてしまいました。
「失敗、失敗。ちょっと油断した。今度は慎重に」
男は立ち上がると剣を構え直します。そして、その剣は私を貫きました。
私は、剣を持つ男の顔を凝視します。あれ、この人見たことがあります。確か同じ学院生のカミーユとかいう人です。
薄れ行く意識のなか、私は犯人の顔をしっかりと心に刻むのでした。
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