1-1-1 前世 ―アラサーOL―
「はあー」
私の名前は神薙 春(かんなぎはる)28歳独身、彼氏なしのOLだ。今私は大変困っている。それというのも、目の前で斉藤さんが、目に涙を浮かべて俯いて黙り込んでしまったからである。別に激しく叱責したわけではない。
「斉藤さん、こことここ間違えているから直してもらえる」と言って書類を渡しただけである。
大体、もう入社して2年になるのだから、この位の仕事は自分一人で熟して欲しいものである。
「はあー。じゃあよろしくね。」
私はもう一度ため息をつくと、彼女のデスクを離れ自分のデスクに向かう。
「神薙さん、ほどほどにね」
途中、係長に声を掛けられそちらに目を向ける。何が「ほどほどに」なんだ。内心毒づいて目を細めると係長が明らかに挙動不審に陥っている。
「いや、まあなんだ、何でもないから」
そそくさと席を立ち出ていてしまった。
何が「何でもない」だ。というか、私の顔ってそんなに怖いのだろうか?自分ではクールな切れ長の瞳だと思っているのに、少し目を細めるとみんな恐怖に顔を引きつらせている。そんなだからか、今まで彼氏の一人もできたことがない。
「はあー」
今日も一人で家のみだ。帰りにコンビニで酒と肴を買って帰ろう。
******
「おい金出せ、早くしろ、刺されたいのか」
俺の名前はすず・・・、オッといけねー犯罪中に名前なんか名乗れるわけないだろ。俺は今、絶賛コンビニ強盗中だ。アルバイトの女子大生ぽいねーちゃんにナイフを突きつけ、レジから金を出すように脅している最中だ。
「出しますから刺さないでください」
「じゃあ、あるだけ全部この袋に詰めろ」
女子大生ぽい巨乳のねーちゃんがレジの売上金を袋に詰める。
俺は現金の入った袋を掻っ攫うと、一目散に出口の自動ドアに向かう。が、そこに一人のアラサーOLが立ち塞がっていた。思わずナイフを握りしめて身構える。
「おい、そこを退け!」
声を上げるがその女はピクリとも動かない。逆にこちらを睨んできた。
やばいやられる。
俺の野生の本能が赤信号を点滅させている。こうなりゃ、やられる前にやるだけだ。俺は女に向かって勢いよく踏み込み、ナイフを力任せに突き出した。
******
仕事の帰り道、私は予定通りアパート近くのいつものコンビニに寄り、ビールとコジャレたつまみを買うことにした。最近のコンビニの食材は種類も豊富で味もよく飽きることがない。今日は何にしようかなと考えながら自動ドアが開くのを待つ。
自動ドアが開くと私はそのままフリーズしてしまった。
目の前にナイフを構えた男がこちらを睨んでいた。えっ、何、思考が回らない。
「おい、そこを退け!」
男が何か大声で叫んでいるようだ。何を言っているのだろう?私は考え込んで目を細める。
次の瞬間、腹部に強烈な痛みが襲う、なんか熱い。いや、寒いのか?そんなことを考えている内に私の視野は暗転した。
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