1-2-1 転生
目を覚ますと私は不思議な空間に佇んでいた。このフワフワした物は何だろう。私の周りには赤や青、黄色や緑など様々な色をした物体が浮かんでいた。中には銀や金色のものまである。そして目の前には一つの扉が、これもやはり浮いていた。
周りを見渡してもフワフワした物体しか目に入らないので、これは、この扉を開けて中を確かめてみるべきかと考えていると中から声が聞こえた。
「2458番の方、お入りください」
どうやら番号を呼ばれたら中に入るシステムのようだ。ところで私は何番なのだろう?ふと手を見ると番号札のようなものを握っている。私は手を開いてそれを確かめる。『2458番』番号札にはそう書いてあった。
扉を開けて中に入ると、役所の受付のようなカウンターと、カウンター越しに書類か何かに目を落とす、女神のような一人の女性が目に入った。毛先に僅かにウエーブが掛かった金髪のロングヘア、書類をのぞき込むその瞳も金色に輝き、放漫な肉体には4枚の白い羽根、頭の上には光の環まで浮いている。これはもう女神でいいでしょ、一柱の女神で。
「2458番、神薙春さんで間違いないですか。あなたはエンジェルポイントが結構貯まっていますから、しばらくは天国で過ごせますがどうしま・・・」
書類から目を離しこちらを見た女神が言葉を詰まらせた。
「あっ、ちょっとお待ち下さい」
女神は何やら慌てて端末の様な物を操作し、確認を始めた。
「あなたの場合、特別に直ぐに転生できます。特別に今直ぐです」
何故『特別に、直ぐ』と二度言った。それよりまず確かめなければならない事が有る。
「あのー、私って死んだのでしょうか?」
「あ、そうですね。コンビニ強盗にナイフで刺されてお亡くなりになりました」
「あー、やっぱりそうですか。そうすると天国か地獄に行くことになるのでしょうか」
「あなたの場合エンジェルポイントが十分たまっているので、普通なら天国に行くところなのですが、今回限り特別に直ぐに転生できます。直ぐに」
また二回言った。何か無理やり転生させようとしているみたいに感じるけど気のせいかな。私は訝しげに目を細めて女神を見る。何故か女神の顔が引きつりだした。はあー、困っているみたいだし仕方ないか。
「転生するとして、元の世界に人間として転生できるのですか?」
「あなたの場合、本来今死ぬ予定では無かったため元の世界には転生できません」
「えっ、それってもっと長生きできたってことですか?」
「そうですね、大体日本人の平均寿命までは生きられる予定でした」
「そうすると、異世界に転生するってことですか?どんなところなのです?」
「ゲームの様なファンタジー生物がいる、剣と魔法の世界です。世界感的には中世ヨーロッパみたいな感じです」
「魔法があるのですか、まるでゲームの世界ですね」
「はいそうです。そこの衣食住に困らない家庭に転生されます」
「生まれ変わるということは、記憶もなくなって、容姿も変わりますよね」
「いえ、今回特別に直ぐに転生するので、成長するにつれ、記憶も容姿も元に戻ります」
「えっ、記憶は兎も角、容姿が変わらないのですか。変更することは可能でしょうか?」
「少し待ってください」
女神は端末の様な物を操作し確認を始める。
「無理ですね」
女神の言葉に私は思わず睨んでしまった。みんなに怖がられるこの容姿を変えられると思ったのに、残念でならない。
「か、か、代わりに何か別の要望があれば叶えさせていただきます」
顔を青ざめさせ、吃りながらも、間髪入れずに女神が言葉を続けた。何故か言葉遣いが丁寧になっているような。
「ナイフに刺されて死ぬようなことが無いようにする。なんてどうでしょう」
女神の提案に私は暫し考える。
「ナイフの攻撃にブッスリいかなくなるってことですか?」
「そうですね。ブスリとならなくなります」
「そうですか。ブツリとならないのですね」
「はい、ブツリが無効にできます」
「じゃあそれでお願いします」
「わかりました。入力しちゃいますね。『ブツリ攻撃無効』と、はい、入力完了しました」
女神は端末の様な物を操作し要望を入力します。
「他に何かありますか。そうそう、記憶ですが転移先との平均寿命差を考慮すると13歳位で戻ると思いますからよろしくお願いしますね。それじゃ行ってらっしゃい」
女神は勢いよく捲くし立て、そのまま話を打ち切るとカウンター上のボタンを押した。
「え、ちょっと、もう少し詳しい話を、、、キャー」
床が抜け、真っ逆さまに落ちていきながら私の意識は暗転した。
遠くから「ヤッター」という女神の雄叫びが聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。
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