1-2-2 転生輪廻管理官


 私の名前はシリウス、ここ天界にある転生輪廻管理施設で、管理官をしている、こう見えて天界で仕事ができる8階級の女神の一柱である。今日も大勢の同僚達と手分けをし、山のような数の魂を捌いていく。

 通常、魂は現世の行いにより、善行を行えばエンジェルポイントが貯まり、悪行を行えば減っていく。そして死んだ後エンジェルポイント数により、天国へ昇ったり、地獄に落とされたりする。その判断を私たちがしているのである。


「2458番の方、お入りください」

 扉の向こう側に向け声をかけて私は書類を確認する。

「2458番、神薙春さんで間違いないですか。あなたはエンジェルポイントが結構貯まっていますから、しばらくは天国で過ごせますがどうしま・・・」

 書類から顔を上げ、それを目線で捉えた瞬間言葉に詰まった。


 それはそこにあった。確かに実在していた。首元で切りそろえられた漆黒のストレートヘア、深淵の黒い瞳、暗闇の黒いワンピースを着た、人の形をした実体が。

 おかしい、一体アレは何だ。魂に実体があるなんて有り得ない。ましてや完全なる人型などあるはずがない。しかし、それはこちらを見つめている。恐怖、存在を掻き消されてしまうような恐怖が襲う。


 まずい、手元の端末を操作し詳細を確認する。

 まずい、まずい、まずい、マズすぎる。魔力関係のステータスが全てカンストしている。こんな危険物天国に送ったら天界が滅ぼされてしまう。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう、考えているうちにアレのMP残量が急速に増加している。

 地球は魔素が少ないからMP欠でどうにかなっていたのだ、このままではやばすぎる。早くなんとかしないと、何処かに廃棄できる世界はないか、端末を必死で操作し検索をかける。


 地球のように魔素が少ないか無い世界は、、、ヒットしない、無しかー。

 いっそ地球に送り返すか、、、ガーン、予定外の死亡の為無理だー。

 こうして居る内にもMP残量が増え続けて居る。

 何か良い方法は無いか、焦る、焦る、焦る、そうだ、これならいけるかも、、、あった。


「あなたの場合、特別に直ぐに転生できます。特別に今直ぐです」

「あのー、私って死んだのでしょうか?」

 ああ、そこからか。時間が無いのに早くして欲しい。

「あ、そうですね。コンビニ強盗にナイフで刺されてお亡くなりになりました」

「あー、やっぱりそうですか。そうすると天国か地獄に行くことになるのでしょうか」

「あなたの場合エンジェルポイントが十分たまっているので、普通なら天国に行くところなのですが、今回限り特別に直ぐに転生できます。直ぐに」

 アレが、こちらに威圧をかけてくる。思わず顔が引きつる。


「転生するとして、元の世界に人間として転生できるのですか?」

「あなたの場合、本来今死ぬ予定では無かったため元の世界には転生できません」

「えっ、それってもっと長生きできたってことですか?」

「そうですね、大体日本人の平均寿命までは生きられる予定でした」

「そうすると、異世界に転生するってことですか?どんなところなのです?」

「ゲームの様なファンタジー生物がいる、剣と魔法の世界です。世界感的には中世ヨーロッパみたいな感じです」

「魔法があるのですか、まるでゲームの世界ですね」

「はいそうです(ゲームの世界です)。そこの衣食住に困らない家庭に転生されます」


 そう、私が思いついたのはゲームの世界、特にこれから送り込もうとするゲームは、乙女ゲー。魔法こそ有れども、人が覚えられる魔法は洗礼時に授かる1系統のみ。しかも鑑定魔法を授かる悪役令嬢に転生させる。

 これで攻撃力は皆無だし、ヒロインを虐め抜くだろうからエンジェルポイントがゴリゴリ削れる。今度死んでここにきた時には地獄行き決定である。

 よく思い付いた、私偉い。


「生まれ変わるということは、記憶もなくなって、容姿も変わりますよね」

「いえ、今回特別に直ぐに転生するので、成長するにつれ、記憶も容姿も元に戻ります」

「えっ、記憶は兎も角、容姿が変わらないのですか。変更することは可能でしょうか?」

「少し待ってください」

 実体持った魂だし無理だと思うが、一応端末を操作し確認をする。


「無理ですね」

 睨まれる。こちらのHPがゴリゴリ削られる。

「か、か、代わりに何か別の要望があれば叶えさせていただきます」

 顔を青ざめさせ、吃りながらも、間髪入れずに言葉を続けた。

「ナイフに刺されて死ぬようなことが無いようにする。なんてどうでしょう」

 こちらの提案にアレは暫し考える。私の頬に汗が滴る。早く決めてくれ、存在が消えかけて居る。


「ナイフの攻撃にブッスリいかなくなるってことですか?」

「そうですね。ブスリとならなくなります」

「そうですか。ブツリとならないのですね」

「はい、ブツリが無効にできます」

「じゃあそれでお願いします」

「わかりました。入力しちゃいますね。『ブツリ攻撃無効』と、はい、入力完了しました」

 私は端末を操作し要望を入力する。もう限界だ。


「他に何かありますか。そうそう、記憶ですが転移先との平均寿命差を考慮すると13歳位で戻ると思いますからよろしくお願いしますね。それじゃ行ってらっしゃい」

 私は勢いよく捲くし立て、そのまま話を打ち切るとカウンター上のボタンを押した。

「え、ちょっと、もう少し詳しい話を、、、キャー」

 床が抜け、真っ逆さまに落ちて行くアレ。

「ヤッター!私やりました。天界を救いました。これは2階級特進ものです」

 私は思わず雄叫びを上げていました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る