3-1-2 ヒロイン


 私の名前はサーヤ=ランドレース極普通の16歳の少女です。と言いたい所なのですが、この世界で16年も生きていればそれなりの経験もしてきました。

 私の祖父はスール=ランドレース、行商から始めた商売を成功させ、一代で王都でも名だたる大商会へと成長させたのです。しかし、寄る歳には逆らえず3年前に他界、父母の居なかった私は、天涯孤独の身と成ってしまったのです。ヨヨヨ涙。


 それでも最初のうちは、商会の副会頭さんが面倒を見てくれていたのですが、いつのまにかその副会頭さんに商会を乗っ取られてしまい、一文無しで放り出されてしまいました。


 それを救ってくれたのが見も知らずの足長おじさん。まさに捨てる神有れば、拾う神有りです。足長おじさんからは十分な生活費を支援していただいているうえ、今度は高等学院で学べる様にして頂きました。本当に幾ら感謝しても感謝しきれません。

 いつかは必ずこのお礼をしようと思い、色々働いて少しずつですがお金を貯めています。



 そんなことを考えながら歩いたせいでしょうか、何時の間にか皆さんと逸れ迷子になってしまった様です。

 そう、私は今、高等学院の入学式典を終えて、大講堂から講義室へ移動する最中なのです。さて困りました、どうしましょう。

 ふと視線を向かいの建物に向けると、二階の窓から二人組の少女の姿が見ます。新入生の様ですし、あそこが講義室でしょうか。私はそこに急ぎ足で向かいます。



 2階に着くとそこに新入生の姿は見当たりません。遅れたと思い込んだ私は、そこに居た騎士さんを気にも留めず、勢いよくそこにあった豪華な扉を開いたのでした。

 大きく音を立てて開かれた扉に、講義室内に居た新入生全員の視線が私に刺さります。思わず私は立ち尽くしてしまいます。


「おい、お前何者だ」

 外に居た騎士さんが私の右腕を掴んで詰問します。

「え、私は、その、、、」

「ちょっと来い」

 腕を引っ張り外へ連れ出そうとします。

「え、私は、あの、、、」

 訳も分からず連れ出されそうになり焦る私に、窓際に立っていた一人の少女が一歩近づき、事の次第を説明してくれます。

「そこは上級貴族様用の扉なので、それ以外の方は、前のドアから出入りしなくてはならないのですよ」

 私は漸く納得した。


 説明してくれた少女にお礼を言おうとそちらに顔を向けると、その少女の傍らに豪華な椅子に座ったもう一人の少女が居た。そして不幸なことにその少女と目が合う。

 その切り裂く様な瞳を見た時、私は死を覚悟した。終わった。これは無礼打ちだ。短い人生だった。


 私は、咄嗟に騎士さんの腕を払い除け、窓際に座る少女に向かって土下座した。

「すみませんでした。」

 私はそれだけ言うとただ頭を下げ続けた。


 周りからボソボソと、ひそひそ話をする小声が聞こえてくる。

「うわー。土下座させているよ」

「アレが北の公爵令嬢か」

「噂の悪役令嬢か」

「目つき悪」

「最初の犠牲者か」

「可愛そう」


「はー」

 深い溜息と共に辺りが静まり返った。

「立ちなさい。今度から注意することね」

 それだけ言うと窓際に座る少女はこちらには興味がないといった感じに視線を前に向けた。

「これがイベント強制力かあ」と小さな声で意味の分からないことを呟いていた。



「大丈夫か」

 私が立ち上がれないでいると、一人の少年が歩み寄り、手を引いて立たせてくれた。今まで静まり返っていた講義室に今度は黄色い悲鳴が響いた。

「君、可愛いね。名前は何て言うの」

「え、えーと、サーヤ=ランドレースと言います」

「サーヤね。俺はツヴァイト=セントラル=グリューン第二王子だ、気軽にツヴァイトと呼んでくれて構わない」

「えっ、王子様なのですか。助け上げて頂いてありがとうございました」

 私は深々と頭を下げます。

「そうだ、サーヤもここに座るがいい」

 自分が座っていたソファーを指し示す王子様。途端に再び響き渡る黄色い悲鳴。そんな中私は眼前の空中に映し出された文字列に目を点にするのであった。


 何だろうこれは?明らかに選択肢っぽい。何々


1 王子と座る

2 前の席に孤独に座る

3 大公令嬢と仲良くなる

4 公爵令嬢を蹴飛ばす


 4 の公爵令嬢ってあの人だよね。有り得ない、有り得ないから。大事なことなので二回言いました。

 1 も恐れ多いから無しの方向で。それに第二王子の隣に座っていた、金髪縦ロールのご令嬢様がこっち睨んでるから。公爵令嬢に比べれば全然だけど、それでも怖いから。

 3 の大公令嬢って誰だろう。2 という選択肢も有りかも知れないけれど、折角学院に入ったのにボッチはちょっとな。友達が出来ることは良いことだよね。

 よし、決めた。3で。


「王子様お誘い頂いたのは光栄なのですが、余りにも畏れ多いことなので」

「いや、気にすることはないのだぞ」

「ですが・・・」

 私が言い淀んでいると右側に座っていた少女から声が掛かった。

「サーヤさんといったかしら。なら私と一緒に座りましょう。ルル席を用意して」

 右側に立っていた少女が椅子を引いて座る様に促してくる。私はお言葉に甘えてそこに座ることにした。

「サーヤ=ランドレースです。よろしくお願いします」

「トレス=セントラル=ゲルプよ、大公の娘なの。こちらこそ宜しくね」

 軽く会釈してから勧められた椅子に腰を下ろした。この人が大公令嬢なんだ。私は心の中で3番を選択した結果に安堵の溜息を吐いた。

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