1-3-1 出生

「まだか」

 先ほどから、一つの部屋の前を行ったり来たりしながら私はまた呟いた。

「旦那様は落ち着いて座ってお待ちください」

 部屋を出入りする年配のメイド長であるエナに窘められる。仕方がないのでそこにあった椅子に腰を下ろす。


 私の名前はロレック=ノース=シュバルツ、このファルベス王国で北の公爵と呼ばれている。

 私がこんなに落ち着かないのは、今まさに妻であるクローデ=ノース=シュバルツが第1子を出産しようとしているからである。かれこれ1トキ(1.5時間)位こうしている。

 妻のクローデは23歳、私とは2つ違いの銀髪の美しい女性だ。前王の弟オラク=セントラル=グラウ大公の娘でもある。

 現在王国には王家であるグリューン家の他に、大公家が二つある。一つは今話したグラウ家、もう一つは今王の弟ヒューレ=セントラル=ゲルプが家長務めるゲルプ家である。

 その下に位置するのが我がシュバルツ家をはじめとする4公爵で、王都を中心に東西南北に配置されている。その下に侯爵家が8家、伯爵家が18家あり、ここまでが治める領土があり、上級貴族と呼ばれている。


「オギャー」

 日も傾き夕刻が近づいたころ、部屋から元気な泣き声が聞こえた。

「無事にお生まれになりました。旦那様に似た黒髪の女の子です。奥様もお元気ですよ。さあお入りください」

 メイド長のエナに促され、妻と娘の待つ部屋に入った。


「クローデよく頑張ったな。元気な娘をありがとう」

 妻を労わった後、娘に目を向ける。私と同じ黒髪に、顔はどちらに似ているのだろう、まだはっきりしない。瞳の色はどうかと確認のために顔を近づけると、その目を少し開けた。

 深淵の黒、まさに吸い込まれそうな瞳に私は本能的な恐怖を感じた。娘が目を開いたのはほんの一瞬で、その後は瞼をきつく閉ざしてその日は目を開くことは無かった。娘はエリーザと名付けた。


 娘のエリーザが誕生してから一月、徐々に問題が出てきた。

 最初のうちは問題なかったのだが、娘が起きている時間が長くなり、目を開けている機会が多くなるにつれ、妻やメイド達が目を開けている間の世話を怖がるようになってきた。

 これは『魔眼』というものだろうか。通常、手から出す魔力を、目からも出すことが出来る者がいるという。

 とりあえず魔力耐性の高いメイドを新たに雇い入れる必要がありそうだ。


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