1-3-2 洗礼


 私の名前はシリー、エリーザお嬢様が魔眼持ちかもしれないということで、魔力耐性の高い私がお嬢様専属のメイドとして雇われて早4年、今月、5歳の誕生日を迎え教会で洗礼を受けることになっている。


 エリーザお嬢様の日常は、それは寂しいものである。

 お嬢様の目は、見るものすべてに恐怖を与え、使用人は勿論、家族でさえその目を避けて暮らしている。食事の時もお嬢様はいつも一人だ。


 昼間の間、室内ではお一人で出来る遊びをすることが多い。

 積み木やぬいぐるみを使った一人遊び。

 お絵描きもよくしている。大人顔負けの細かく詳細な絵を描く。魔眼のせいで細かいところまで正確に捉えることが出来るのかもしれない。

 偶には私が絵本を読み聞かせることもある。

 天気の良い日は外に出て、庭を散歩したり、土遊びをしたりする。

 温室はお好きな場所の一つだ、何やら花より薬草に興味が有るようだ。

 動物はお嬢様が見ると皆怯えてしまい、懐くことは無かった。


 お嬢様が生まれてから2年後には、長男となる弟が生まれたのだが、その目のせいで未だ一度も顔を合わせたことが無い。

 母親とも殆んど顔を合わせることは無く、公爵で在られる父親と専属メイドの私だけが顔を合わせて会話ができる状態だ。


 教会へ向かう馬車の中で私はお嬢様の質問に答えている。

「ねえシリー、これから教会に行って洗礼を受ければ魔法が使えるようになるの?」

「誰でも洗礼を受けることにより、神様から一つだけ魔法を授かります」

「一つだけなの。もっと一杯使えるようになれば楽しいのに」

「一つというか、一種類だけですね。ファイアが使える人は、鍛錬すればファイアボールやファイアウォールが使える様になりますが、水を出したり風を操ったりは決して出来ないと言うことです」

「ふーん、私何ができる様になるかな。今から楽しみ」

「そうですね、お嬢様の場合、魔眼かもしれませんから目を使う魔法かもしれませんね」

「魔眼かあ、でも魔法を使えるようになれば、皆から怖がれなくてもよくなるかもしれないんでしょ」

「その可能性もあります」

 そう、意識的に魔力を制御できるようになれば、見たもの全てに恐怖を与えることはなくなるだろう。

「そうすれば友達一杯出来るかな」

「そうなるといいですね」

 馬車が静かに止まる。教会に着いたようだ。


 お嬢様と馬車を降り、門をくぐると庭を掃き掃除する子供たちがいた。

 この教会には孤児院が併設されている。多分そこの子供たちだろう。

 その中から一番年長者だと思われる女の子に、神父を呼んでもらえる様にお願いする。女の子は教会の中に走っていった。

 ふと気付くと、お嬢様が同い年位のオレンジ色の髪をした男の子と話をしている。

 珍しい事も有るものだ。お嬢様が他人と話しているのを見るのは初めてかもしれない。それにしてもあの男の子は何者だ、余程魔力耐性が高いのかも知れない。お嬢様の目を見ても怯えた様子がない。


 然程待つことなく女の子が神父を連れて戻ってきた。

 神父にお布施を渡し、洗礼に来たことを伝える。

 神父に先導され、私たちは教会の中へと進む。


「お嬢様、先程お話をされていた男の子はどなたですか」

 神父が洗礼の準備を終えるのを待つ間に、気になっていたことをお嬢様に聞いてみる。

「ここの孤児院の子なんだって、神様とお話ができるんだって。凄いよね」

「神様とお話ができるんですか、それは凄いですね」


 程なくして祭壇の前に通され、神父による洗礼が始まった。

「それでは、目を瞑り、頭を下げてください。あなたに神の祝福がありますように」

 神父の言葉に従い、目を瞑り、頭を下げたお嬢様の頭上に光が降り注がれます。

「はい、これで終わりです。ゆっくり目を開けて、頭を上げてください。魔法の使い方は頭に残っていると思いますから、後でゆっくり練習してみてください」

「はいわかりました」

 私たちは神父にお礼を述べ、馬車に乗り教会を後にします。


 屋敷に帰る馬車の中私はお嬢様に尋ねます。

「お嬢様、どんな魔法を授かりましたか」

「うん、シリーの予想通り目を使う魔法だったよ。見せてあげるね。『鑑定』」

 お嬢様は私に対して『鑑定』を発動します。

「お嬢様、勝手に他人を鑑定してはだめですよ」

「・・・」

 お嬢様の反応がありません。

「お嬢様どうしたのですか」

 やはり反応がありません。心配になった私が手を伸ばそうとしたその時、お嬢様はいきなり自分の頭を両手で押さえ、こう唱えたのでした。


「『鑑定』」


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