2-7-4 塩とバカンス

 塩を確保するための方針が決まった二日後には、無事公爵領都の屋敷に帰り着き、次の日は準備に当て、四日後の今日は、既に南国の無人島にいた。


「本当に一瞬だわね」

「凄いですね。転移の魔法」

「凄いでしょ」

 私とリココが感動すると、シリーが鼻高々といった感じである。


「早速準備を始めましょう。リココ、荷物を出して」

「はい、エリーザお嬢様」


 リココが次々と荷物を出している。


「お嬢様の水着はこちらになります」

 既に、えんじ色のビキニに着替えたシリーが、水着を渡してくる。


「シリーさんなんて格好なんですか。下着姿じゃないですか」

「普通に水着ですが。リココさんのはこちらです」


 シリーの水着を見て驚いているリココにも、シリーは用意しておいた水着を渡す。


「こ、これは、おへそが丸出しじゃないですか。こんなの恥ずかしくて着れません」

 リココの水着は、メイド服をミニスカにし、さらにセパレートにして、お腹が出る感じとなっていた。


「リココさん、他に人はいませんから大丈夫ですよ」


「シリー、それより私のこれはなんだ」

「普通にスクール水着ですがなにか」


 シリーが、私に用意した水着はスクール水着だった。しかも胸に「えりーざ」と書かれた白い布が縫い付けてある、紺色の旧スクであった。誰得だ、おい。


「バカンス気分台無しだろう」


 それでもなんとか気持ちを立て直し、十分に南国の海を満喫した。


 バカンス気分をそこそこ味わったので、そろそろ塩の製造を始めることにする。

「二人とも、塩の製造を始めるから集まってくれるかな」


 シリーとリココを前に塩の作り方を説明する。

「まず、たらいに海水を汲んで、『発火』魔法で水を蒸発させ、残った塩をこの樽に入れます。リココはこのカードを使って。MPが切れたら、これ飲んでね」

 リココにも『発火』のカードとMPポーションを渡し、作業に取り掛かる。


 しばらく作業を行なったが、結果はあまり芳しくない。

「お嬢様、暑すぎます」

 ついにリココが根をあげた。


 あたりは、蒸発させた水蒸気でサウナ状態である。


 できた塩の量も二人合わせて、両手で山盛りになる程度で、樽を一杯にするには何日かかるかわからない。

『発火』魔法で水を蒸発させるのは効率が悪すぎる。


「これでは効率が悪すぎるわ。何か良い方法はないかしら」


 手持ちの魔法カードは、『風刃』『発光』『発火』『躁風』『水流』『洗浄』『凍結』それと昨日作成した、リココの魔道具から得た『瞬雷』と、弟のレオンを鑑定して得た『岩石生成』である。


 なお、『風刃』については、薄い魔法顔料を使い、最大魔力許容量を小さくしたものに作り替えた。これにシリーの支援魔法で耐久力を上げれば、私は普通に使えるが、私以外が使用した場合、魔力回路が焼き切れて使えなくなる。


 カードを前に、三人で検討した。三人寄れば文殊の知恵である。結果、こうなった。


 リココが『水流』で海水を霧状に噴きあげる。

 それに私が、右手に『発火』左手に『躁風』を持ち、熱風を作り出し吹きかける。

 結晶化して砂浜に落ちた塩を、シリーが集め『洗浄』を使って塩と砂を選り分ける。


 効率はかなり上がって、その日、樽に半分位の塩を作ることができた。


「これなら、後三回来れば樽二つ分を確保できるわね」

「疲れました。もうへとへとです」

「今日はもう帰って休みましょう。シリー、お願い」

「承知しました。では、『転移』」


 屋敷に戻ると浴室の前で、ちょうど薬草園から戻ってきた弟のレオンと出くわした。

「姉さん、どこに行っていたの、随分と焼けたね」

「ええ、ちょっと海まで塩を取りに」

「なにその冗談。大体、塩を取りに行くなら山でしょ」

「え、塩って山で取れるの」

「当たり前じゃないか。山で岩塩を掘ってくるのが普通だよ」

「岩塩。・・・岩。もしかして、レオンは魔法で塩を出せるの」

「そんなの簡単だよ。ほら」

 レオンは拳大の塩の塊を作り出します。

「岩塩はあまりMPがかからないんだ。金は無理だけれど、塩が欲しかったら言ってよ。いくらでも出してあげる。ただ、魔法で出した塩は、あまり美味しくないけどね」


 そう言って浴室に入っていった。


 がーん。『岩石生成』で塩を作れたとは。


 次の日、私たちは、樽二つ分の塩を確保することができた。



 現在所持している魔法カード:『風刃』『発光』『発火』『躁風』『水流』『洗浄』『凍結』『瞬雷』『岩石生成』


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