2-7-8 最初の迷宮第二層

 今日は最初の迷宮第二層への挑戦である。


 いつも部屋の清掃に来るメイドに、秘密の実験中だから部屋に絶対に入らないように言いつけ、部屋の内鍵を閉めて、シリーの転移で迷宮に向かう。

 魔法カードの実験や薬剤の調合など、日頃から怪しい行動が多い私たちだけに、メイドが部屋に入って来ることはまずない。


 到着したのは、昨日最後にいた第二層へ続く階段の前だった。


「本当に便利ですね。昨日攻略した続きからできるなんて」

 リココが感心している。

「どこでも移動できますからね」

 シリーが自慢げに胸を張る。


「どこへでもですか。なら最下層までの転移もできるのですか」

「勿論できますよ」


「え、でしたら、ちまちま攻略していないで、一気に転移したほうが楽なのでは」

「それではゲームの面白味が半減、じゃなくて、途中で経験を積んで、成長していかないと、いきなりラスボスでは大変ですよ」

「それもそうですね」


 シリーのやつ、ゲームとか言っちゃてるよ。


「それでは、行くよ」


 私がかけ声を掛けて、第二層へ続く階段を下りようとしたところ、逆に階段を上がって来た人たちがいた。

 他の冒険者パーティと鉢合わせすることは珍しいことではなかったが、すれ違った冒険者を見て私は驚きの声をあげた。


「ケニーじゃない」

「げ、エリー、なんでこんなところに」

「それはこっちの台詞よ」

 騎士団北部分団長の息子ケニーである。


「親分、誰ですかい」

「親分言うな。リーダと呼べと言ってるだろ」

 ケニーは子分を四人引き連れていた。


「北の公爵令嬢のエリーザだ」

「あれが例の悪役令嬢ですか」


 誰が悪役令嬢だ、まあ、そのとおりではあるのだけれど。


「おい悪役令嬢、ラスボスを倒して宝物を手にするのは俺たちだからな。邪魔するなよ」

 なにか、威勢のいい子分がいるようだ。


「おい、やめておけ」

 ケニーが止めに入る。


「邪魔はしないけれど、ラスボスを倒すのは早い者勝ちよ」

「こっちが早いに決まってるだろ。そして宝物は、親分が好きな女に貢ぐんだ」

「やめておけと言ってるだろ」


 ケニーったら、いつの間に好きな女の子ができたのだろう。最近姿を見せないと思えばそのせいか。子供のくせに色気づきやがって。


「エリー、お前たちもラスボス狙いなのか」

「当然よ」

「そうか」


 ケニーが考え込んでしまった。子分たちはこちらを威嚇している。

 少々うざいので、軽く睨んでやる。子分たちは皆、ケニーの後ろに隠れてしまった。


「エリー、これから下に行くのか」

「そうだけど」

「せいぜい辱めを受けないように気をつけるんだな。じゃ頑張れよ」


 そう言って、ケニーたちは、第一層を入口に向けて去っていった。


 私たちは第二層に下り、第一層と同じような洞窟を慎重に進む。


 しばらく進むと緑色のスライムが現れた。大きさは第一層の茶色と同じで、私たちの身長より大きい。


「リココ、威嚇射撃」

 私の命令にリココが弓を射る。すかさず私はスライムに近づき、魔法カードを押し付け、魔法を発動する。


『発火』


 スライムは一瞬、炎をあげ、そのまま燃え尽きた。


「アチチチ、ちょっと魔力が強すぎたかしら」

「お嬢様、限度を考えてください。限度を」

 シリーに窘められてしまった。


「まあ、緑のスライムは『発火』があれば一発ね。近づかないといけないのが少し難点だけれども、このくらいなら注意すれば問題ないわ。どんどんいきましょう」


 その後順調にスライムを狩っていった。余りにも順調なので油断があったのだろう。

 私たちは、とんでもない反撃を受けることになる。



『発火』


 スライムが燃え上がる。よしやった。

 私はスライムを一匹倒したことで気を緩めていた。


 そこに、炎の中から二匹目のスライムが現れた。


 一匹だと思っていたスライムは、二匹が前後に並んでいたのだ。


 スライムは、私たちに触手のようなものを伸ばしてくる。


「えっ、触手」

「キャー」


 気づいた時には、私とリココが触手に絡まれていた。シリーはうまく逃れたようだ。スライムから距離を取っている。


「ちょっと、どこ触っているのよ、やめなさい」

「えーん、もうお嫁に行けません」


 触手は私とリココの締め上げ、そのうえ、恥ずかしいところに触手を伸ばしてきている。


「お嬢様、なんてあられもない姿に」

「シリー、そんなこと言ってないで、こいつ倒して」

「えー。でも私、火魔法使えませんし、無理です」


 私は、触手に絡まれた時に、魔法カードを落としてしまっている。


「リココ、なにか火魔法の魔道具は持ってないの」


「えー。そう言われましても。あーんやめて。夜営の道具は持ってきていませんし。あ駄目です。そこだけはやめてください」


 リココはそれどころではないようだ。


「シリー、なんとかして助けて」

 私は叫ぶ。

「仕方ないですね。お嬢様のあられもない姿も十分堪能できましたし。『転移』」


 私とリココがシリーの隣に転移した。


「できるなら初めからやりなさいよ」

「えーん、シリーさんひどいです。でも助けてくれてありがとうございます」

「え、だってお嬢様は最初こいつ倒せって。ですから、それは無理ですと」


「・・・」

「・・・」


「わかったわ、その件はもういいわ。それであのスライムをどうするかなのだけれど」

「エリーザお嬢様、魔法カードは」

「魔法カードはあそこよ」


 魔法カードはスライムの足元(足はないけど)に落ちている。


「こんなことなら、魔法カードも予備を作っておくべきだった」

「あのカードが手元に戻ればいいのですよね。『転移』はいどうぞ、お嬢様」

 シリーはこともなさげにカードを手元に転移させた。


「転移便利すぎます」

 リココは、感心を通り越して、尊敬の眼差しである。

「お嬢様の所有物以外は、転移できませんよ」


 その後、そのスライムも無事討伐し、私たちは、乙女の窮地を脱することができた。

 ケニーの言っていた「辱めを受けないように」とはこのことだったのだろう。


 結局、第三層へ続く階段の前に到着するまでに、スライムを15匹討伐し、魔石二つを手に入れた。


 今日は、エロエロ、じゃない、いろいろ、疲れたので、切りのいいところで、さっさと屋敷に帰って、しっかりとお風呂に入って、早々に就眠したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る