2-9-2 後は若いお二人だけで

 私たちが王都に着いた三日後、王宮への出頭が決まった。


 私は、両親とともに、王宮で国王と謁見、婚約のための儀礼のやり取りが行われ、私と第一王子の婚約が成立した。

 あっという間の出来事だった。私が、申し開きを、ではなくて、思うところを話す機会はなく。発した言葉はただ「はい」のみだった。


 婚約の発表はすぐ行われることとなったが、各派閥の思惑が入り混じり、婚約披露のパーティーは、第一王子が高等学院卒業後、そして、結婚式は、私が成人した後となった。


 そして今、私は第一王子と二人だけで、紅茶をいただいている。

 いわゆる、後は若いお二人だけで、というやつである。


「いやー、婚約を受けてもらえてよかったよ」

「初めから拒否権などありませんでしたから」


「あれ、ご機嫌斜めかい」

「そんなことはありません。ですが、あまりにも突然のことでしたので」


「そうか、それはすまなかったね。こちらの都合を押し付けて」

「何か、お急ぎの理由でもございましたか」


「兎に角、周りがうるさくてね。来年、高等学院に入学するわけだが、そうなると、婚約者の一人もいないと、周りの女の子たちが、ちょっかい掛けて来て、大変なことになるだろうからと」


「おもてになるようで、羨ましいかぎりです」

 第一王子が苦笑いを浮かべる。


「それで、君には申し訳ないけれども、虫よけになってもらおうと思ってね」

「虫よけですか」


「君は、私に興味がないのだろ。干渉されたくない私には好都合だ」

「女性がお嫌いですか」


「嫌いではないが、苦手だね。あまりしつこいのは煩わしい。学院にいる間、女の子に付け回されるのは嫌なんだ」

 何か、女性に対するトラウマでもお持ちなのだろうか。


「それに、君は公爵家の令嬢だ、君より立場が上なのは、王家と大公家の者だけだ。気も強そうだし、虫よけとして申し分ない」

「あくまで虫よけなのですね」


「そうだ、だから、私が、学院を卒業後は婚約を解消してもいい。勿論、それなりの報酬も考える。君が欲しいのは聖剣だったか」


「前回、殿下は、聖剣を自由にできないとおっしゃいましたが」

「そうだな、私は自由にできない。だが、君が手に入れるのを、手助けすることはできる。かもしれない」


「それは、殿下が王位を継承するということですか」

「いや、違う。私が王位を継承することはないし、私自身は継ぐ気がない」


「周りは、そうは見ていないごようすですが」

「そうなのだ、それも悩みの種なのだが、致し方ない。君にも迷惑をかける」


「私にも。ですか」

「君には、王妃教育を受けてもらわなければならない。来週から、大変だと思うが頑張ってくれ」


「王妃教育ですか。殿下は王位を継承する気はない。とおっしゃいましたよね」

「周りがそう見ていない。と言ったのは君だろう」


「でしたら、聖剣の他に、お願いしたいことがございます」

「君は、存外強欲だね」


「聖剣については、手伝っていただけるだけなのでしょ」


「それで、お願いとはなんだね」

 やれやれ、仕方がないといった感じに王子が尋ねてくる。

「創世の迷宮に行く許可をください」


「隣国にある創世の迷宮か。君はあれか、迷宮に自分の名前を付けて回るのが趣味なのか」

「あれは、ちょっとした手違いで。それで、できれば、私が学院に入学するまでに行きたいのですが」


「そうだな、確か君には弟がいたな。名前は確か」

「レオンですが」


「そう、そのレオン君に会ってみたい」

「来年になれば、国王謁見に参りますが」


「その時でいいが、できれば二人だけで会いたい」

「二人だけで、ですか。何をなさるおつもりですか」

「去年の君と同じことかな。ただ友達になりたいだけだよ」

 私は王子に疑念の視線を向ける。


「睨まないでくれよ。本当に話をするだけだよ」

「わかりました。何とかいたします。ですので、聖剣と創世の迷宮の件、よろしくお願いします」


「ああ、善処するよ。しかし、北の公爵令嬢は視線で人を殺せる。と噂で聞いたことがあるが、たんなる噂ではないようだね」

「失礼ですね。視線で人を殺したことなんてありませんよ。あるのはスライムだけです」


「スライムは殺せるのか・・・」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る