3-3-3 体術剣術の実習

 高等学院生活二日目、昼休み後の体術、剣術の実習は、初めてということもあり。男女一緒に全員で、体力測定から始まった。


 短距離走、長距離走、幅跳び、高跳び、垂直飛び、反復横跳び、背筋、腹筋、脚力、腕力、握力、視力、聴力、肺活力。様々な項目を測定した。


 大体の項目の測定が終わったころエリーが話しかけてきた。

「流石だわねケニー、結構一番の項目が多かったのではない」

「エリーお前、手を抜いてるだろう」

「あら、そんなことはございませんことよ。おほほほほ」

「なんだその笑い方は、白々しい」


 そこに講師を務める冒険者がやってきた。

 体術や剣術の実習は、学院専属の講師だけでなく、冒険者などを臨時講師として頼んでいるようだ。

「おい、そこ、喋ってないで、さっさと済ませろ」

「はい、すみません」

「わかりました。ケニーまたね」


 体力測定は順調に進み、予定よりかなり早く終了した。


 余った時間はどうするのだろうと、周りを見渡していると、先ほどの講師の冒険者が前に出てきた。


「この中に、冒険者登録している者はいるか」

 俺を含めて何人かが手を挙げる。女性で手を挙げたのは三人だけだ。


「ランクはいくつだ」

 冒険者ランクは下から順にS F C A G P M Oだ。


 ほとんどの者が、SかFランクだ。

 俺がCランクだと告げると、どよめきがあがる。


 残った女性三人が順番にランクを発表する。

「私はGだ」

「Aランクになります」

「Cランクです」

 さっきの倍以上のどよめきが起こる。


「流石は公爵令嬢、お飾りとはいえGランクとは」

 皮肉交じりに講師の冒険者がいう。


 あ、エリーのやつ睨んでるよ。お飾りが気に障ったんだな。

 講師の冒険者は、睨まれて、訳が分からず、びくついている。


 既に迷宮を二つも攻略しているからな。Gランクにもなるだろう。

 それにしても、昨日の彼女は俺と同じCランクか、話だけってわけではなかったようだ。


「折角、高ランク者がいるのだから模擬戦をしてもらおう」

 講師の冒険者が声を上げる。

「Gランクの公爵令嬢、構わないかな」

「構いませんわ」


 あれはかなり頭に来ているな。普通ならこんな模擬戦受けないだろうに。

「では、相手はAランクの君」

「私は、ポーターとしてAランクですから。模擬戦は辞退させていただきます」


 エリーの侍女のリココが辞退したな。ということは俺が相手か。

「そうか、ならCランクの君がやれ」

「えっ、私ですか。私はちょっと」

「大丈夫だ。さっさとやれ」


 俺じゃなかった。残念、久しぶりに手合わせできると思ったのだが。

 昨日の彼女が、相手をすることになったようだ。


 競技場の中央に出る二人、講師の冒険者が二人に木刀を渡す。

「ルールは、どちらかが戦闘不能になるか、負けを認めるまでだ。魔法は使っても構わないが、魔道具の使用は禁止だ。では、始め」

 講師の冒険者が号令をかけた。


 勝負は一瞬でついた。

 エリーが動いたと思った瞬間、相手の彼女は意識を失っていた。

 今、何をしたんだ。見えなかったぞ。


「何も、本気で当てることはないでしょう」

 辺りが静まり返る中、大公令嬢だけが叫んでいた。


 ******


 ヒロインと、模擬戦をすることとなってしまった。

 講師の言葉に、頭に血が上ってしまっていた。反省しなければ。

 しかし、何が「大丈夫だ」なのだろう。


 まあ、寸止めすればいいか。

 ヒロインを見ると、その足をプルプルさせている。

 あ、このパターン、二度あることは三度ある。お漏らしパターンか。

 仕方ない、漏らす前に意識を刈ってしまおう。


 講師が「始め」の号令をかける。


 私は一瞬で彼女の間合いに入り込み、短剣で彼女の剣を薙ぎ払うと、そのまま後ろに回り込み、首に手刀を入れた。いわゆる首トンである。


 彼女は意識を失い、その場に崩れ落ちる。

 辺りが静まり返る。


「何も、本気で当てることはないでしょう」

 大公令嬢が大声を上げ、彼女を助け起こそうと駆け寄る。


「大丈夫よ、随分手加減したわ、直ぐ目を覚ますわ」

 周りからどよめきが沸いていた。


 勝負の結果も告げずに立ち尽くしている講師に、私は言った。

「お飾りとはいえGランクですから、こんな感じですけど、参考にしていただけたでしょうか」

 講師の顔が引きつっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る