5-8-5 副音声でお送りします

 まずいことになった。神殿を訪れていた私たちは、首都守備隊のメンバーに目をつけられてしまった。

 一応、念話でユキさんに報告しておこう。部下になったユキさんには自由に念話が送れる。

[ユキさん、聞こえますか。ユキさん。ユキさーん]

[え?エリーザ様ですか。なんですこれ]

[念話だけれども、こちらの国にはないの]

[念話の魔法はありますけれど、見える範囲でしか使えませんし、使っている間は魔法陣が浮かび上がります]


 見える範囲でしか届かないのか。しかも、使っているのがバレバレでは、内緒話にも使えない。


[ユキさん、ちょっとまずいことになったの]

[どうしたのですか]

[首都守備隊に目をつけられちゃった]

[なぜ、そんなことに]

[神殿の見学に来たら、龍神が現れて、聖玉の所有権を認められて、賢者になっちゃったの]

[龍神、聖玉、賢者。一体何をやったんですか]

[何もやってないわよ。兎に角、守備隊に目をつけられちゃったんだけど、どうしよう。あ、いきなり魔法を使ってきたけど、伸しちゃっていいかな]

[魔法って。大丈夫なのですか]

[私に魔法は効かないから余裕よ。あ、でも、今度は広範囲攻撃魔法を使う気みたい]

[周りに被害が出ると大変ですから、降参して捕まってください。守備隊ならそれ程酷い扱いはしてこないでしょうから。後で助けに行きます]

[いきなり魔法を使ってくるのは酷いと思うけれど。そうね。そうするわ]

 助け出してもらうにしろ、逃げ出すにしろ、人数は少ない方がいいから、カークさんとスーさんには帰ってもらおう。


[ねえ。この人「ゴミが出たら片付けておけ」って物騒なこと言ってるけど、大丈夫なの]

[リーダー格の人ですか。それなら、そのゴミは、本当にゴミのことですから。大丈夫です。見かけによらず潔癖症なんですよ]

[あ、そうなの。本当に見かけによらないわね]

[ははははは、本人が聞いたら怒りますよ]


[何か首都まで連行されるみたい。すぐ出るって]

[それは大変。いや、その方が、都合がいいか。私も首都に向かいますから。向こうで落ち合いましょう。馬車はどうします]

[乗っていくわよ]

[空を飛んで行かないでくださいね。追いつけなくなります]

[わかったわ。それじゃあ、また、連絡するわ]


 その後私たちは、スワコウの街から馬車を半日ほど走らせた、アマツミという街の守備隊の宿舎まで来ていた。そこで、夕食を取りながら、守備隊のガイルから内情の説明を受けている。

 するとどうだろう。ユキさんについて、聞き捨てならない話を聞くことになった。これは、是非ともユキさんに詳しく聞かなくてはならない。


[ユキさん、ユキさん]

[どうしましたエリーザ様]

[聞いたわよ。ユキさん、王の甥といい仲なんですって]

[いえ、ノブとはそんな仲では]

[キャー。ノブですって。王族を愛称で呼ぶ仲よ]

[ノブラート殿下とはそんな仲では]

[ないの、あるの]

[ないこともないような。念話って難しいです]

 念話では考えたことが伝わってしまうため。微妙なニュアンスがストレートに伝わってしまう。


[それで、そのノブラート殿下とのためにクーデターですか。熱愛ですね]

[いえ、それは、市民のためで、勿論、ノブとのためも少しはあるのですが、メインはあくまで市民で・・・。その、すみません]

「別に、責めてはいないのよ。私だって、自分の都合で魔王になろうとしているのだから。ただ、計画に無理がありすぎない]

[それが、計画作成段階でノブが幽閉されてしまって。早く助け出さないとノブの命が心配で]

[計画を無理押しした、ということね]

[はい]

[わかったわ。後は私に任せなさい。悪いようにはしないから。ノブラート殿下も助け出してあげるわ]

[ありがとうございます。よろしくお願いします。某にできることは何でもします]

[それじゃあ、第二軍団を動かしてね]

[え、それはまずいんじゃないですか。仲間から無謀だと反対されました]

[大丈夫、大丈夫。用は使い方次第よ]

[はあ]


[それで、ノブラート殿下との馴初めはどんな感じだったのかしら]

[え、その話、まだ続くのですか]

[今夜は寝かさないわよ]

[えー。勘弁してください]

 私の周りは、何故か浮いた話が少ないですから。是非とも大人の恋の話を聞かせてもらいましょう。

 表でガイルと真剣な話をしながら、裏では念話でユキさんとの恋話に花を咲かせる私だった。シリーの思考加速支援、並列処理支援。本当に便利だわ。


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